九日目 狙いと対価
その後、要件を済ませたマクスウェルもやることがなくなってしまい、シナロアを迎えに行ったところ、丁度お開きにするタイミングだった。そこでトルーカとサクの二人に、礼として弁当とお菓子を渡し、その日は終わった。
そして翌日。昨日と同じく、暗いが晴天の空をカーテン越しに眺め、マクスウェルは頷いた。
いつも通りに少し乱れた髪を漉いて整え、邪魔にならないように一つに纏める。
「さて、今日も仕事か」
いつものルーティンと化した、仕事をこなしながら、彼は所々で、後ほど行う予定のホームパーティーに参加するかどうか、聞き取りを済ませていく。
当然、仕事の関係で渋る人も多いが、パラナも許しているという話も伝えると、思った以上の参加者が希望してくれた。
そして朝の仕事を終えて、シナロアとの食事を始めたところで、彼は彼女にもその話をすることにした。
「へぇ、あの人がそんな…」
一応、パラナの顔は把握していたのか、彼女は少し意外そうに言い、少し悩んでから快く承諾してくれた。
「うん、良いよ。私も参加する。
―マクスとしても、狙いがあるんでしょ?」
「ご明察。まぁ、一番はパラナを執務室の外に連れ出すのが目的なんだけどな」
狙いについても隠すことなく伝え、シナロアも少し呆れ気味に話し 出した。
「話には聞いていたけど、ほとんど仕事しかしてないって、凄いストイックというか…可哀想な人だね」
「あいつもこの国の犠牲者と言っても間違いはないからな。何かのきっかけになればいいんだが」
マクスウェルがそう話した所で、彼女はうーん、悩ましげに唸った。
「どうした?」
不思議そうに聞いたところ、しばらく悩んでからおずおずと申し出た。
「折角なら、私がパラナの従者の穴に入り込めないかなって」
「いや、流石に警戒されるだろう。お前から言い出したと言っても、逆に怪しまれるぞ」
「まぁ、そうだよね。でも、何かタイミングが合って、入り込めたらマクスウェルとしても助かるんじゃない?」
昨日の出来事のお陰で吹っ切れたのもあるのか、随分と積極的に提案してくれるが、マクスウェルとしては簡単に許可をするわけにいかない。
「助かるだろうが、それ以上にお前が発作を起こしたりしないか不安で仕方ない」
「…そっかぁ」
彼に提案を却下され、少し沈んでいたが、パンを千切りながら念の為聞いてみた。
「積極的にしてくれるのは助かるが、あいつの補助をすると、お前に任せた仕事はどうなる?」
「あっ」
遠回しに彼が任せたのは、パラナやこの国の調査であることを改めて伝えると、彼女もようやく思い出した素振りを見せた。
「そう言うことだ。協力をしてくれるのは非常に有り難いが、優先順位を間違えるなよ。
―まぁ、余裕があればちょっかいでも出してやってくれ。お前が個人的に親しくなりたいと言うなら、私は止めん」
最後にそれだけ付け加えて、彼は最後のスープを一気に飲み干して皿を置いた。
「ご馳走様。私は用事があるから先に行っているぞ。また夜に、何か分かったら教えてくれ」
「はーい。いってらっしゃーい」
流石に二回目の置いてけぼりで、シナロアも特に動揺することなく、彼を見送った。
パラナから許可をもらい、今日も闘技場に向かい、午前中はサクの訓練を行った。今回はトルーカも同席させて"祝福"によるスキルを付与した状態で行い、教育をしながらも完封する。昼前には切り上げ、食堂で纏めて昼食を作ろうとしたところで、何故かアクレとリンの二人が食材を持って乱入してきたため、仕方なく全員分の食事と食後のお茶も用意することになった。
「―で、何でお前はこんな良いタイミングで来た」
食後のお茶を楽しみながら、マクスウェルが聞くと、アクレは当たり前のように答える。
「パラナに問い合わせて聞いたからね!!」
「ぶん殴るぞお前」
本気で迷惑そうに答えるが、彼女は悪びれた様子もなく、まぁまぁ、とへらへら笑う。
「私が来たのも理由があるわけだから、そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか」
「…話してみろ。くだらないことを言い出したら、その時点で叩き出すからな」
不満げではあるものの、きちんと話を聞こうとしたのを見て、アクレはうん、と話を始めた。
「スキルの装備についての情報なら、君も欲しいんじゃない?」
マクスウェルの眉がぴくりと動いたのを見逃さず、アクレは嬉しそうに話しだす。
「興味を持ってくれて良かったよ。
まず、国側に提供しているものと、一般に提供しているものは微妙に違う。これは前提知識として知っておいてくれ。
大きな違いとしては、出力や、使える範囲のスキルだ」
「当然、国側のほうがより危険なスキルを提供しているということだな」
マクスウェルの言葉に、そうだね、と返して話を続ける。
「特に軍部では、より戦闘向けのスキルを優先的に支給されている。
それは闘技場でもよく見られる再生、加速、振動、転移―まぁ、君も見たことあるスキルだ」
そこまで話して、彼女は前提はこんなものでいいでしょ、とつまらなそうに話してから本題に入る。
「で、本題に入るけど、スキルを装備と言われるけど、基本的にスキルってのはこんな装置に"抽出"されてる」
そう言いながら彼女が取り出したのは、掌に収まる程度の小さな長方形の端末。コードなどは付いておらず、ボタンらしきものも見当たらない。
「特に軍部では、この装置をスーツに取り付けて、スーツを介してスキルを起動させる」
使い方について説明したところで、マクスウェルは小さく手を上げた。
「質問いいかな?」
「どうぞ」
「スーツに元々細工をされているのか?」
「私は専門外だから詳しくはないけど、脳波とか電気信号を利用してるのかね。詳しくは分からないや、ごめんね」
マクスウェルの質問に対してアクレは申し訳無さそうに答え、彼も首を横に振る。
「都合の良い知り合いがいるから、後でそいつに聞く」
「……そういう時は"機神"の天啓に頼るとは、考えたね」
「悪知恵だけは働くだろう」
察しが良いアクレに向けて、どこか誇らしげに彼は胸を張り、脱線した話を戻す。
「とりあえず、スキルを装備してる連中は、恐らく今でもほぼ全員があの悪趣味なスーツを着てる。で、あのポケットのどれかに端末が入って起動してる感じだね」
「なるほどな。有意義な情報助かる」
「どうもいたしまして」
二人は話の一区切りと言いたげにお茶を飲んでから、マクスウェルが今更聞いた。
「で、そんな情報を渡すとは、どんな心変わりだ?」
「お昼の対価さ」
彼女はにやりと笑って誤魔化し、マクスウェルも何かを察したのか、それに釣られて小さく笑った。




