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八日目 検査結果

「あー、居た居た。マクスー、呼んできたよー」


 闘技場にて、ボコボコにしたサクを治療して、当初の予定通りに指導をしていた所で、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ん、」


「おらぁ!」


 声の主の方を向いた瞬間、隙ありと言わんばかりにサクが彼の顎に拳を突き出すが、見向きすらせずに受け止めて、返しのチョップを脇腹に当てる。

 サクが痛みで怯んだ所で、彼は完全に背中を向けて声の主―アクレの方に向かっていった。


「あぁ、御使いありがとうな」


「まぁ、君とは少し話したいことがあったからね。そのついでと思えば構わないさ」


 はい、と手渡された二人分の飲み物とタオルを受け取り、服に着いた埃を払ってから、額の汗を拭って飲み物を一口含む。


「随分ボコボコにしたねぇ」


「"教育"もしたからな。一度の試合の結果で調子に乗るからだ」


 どうでも良さそうに話すアクレに向けて、彼は少し呆れつつ答え、向こうでうずくまっているサクの下に歩いていって、差し入れを渡した。


「とりあえず、今日の訓練はこの辺で終わりだ。話したことで、役に立つと思ったものは覚えておけ」


「…はい、」


 サクは苦しそうに答えて立ち上がり、マクスウェルから飲み物を受け取って口にした。


「ところで、トルーカは?」


「どうして私が知ってると思ったの?」


「状況判断だ。…というのは置いといて、あの子と話をしていて、お前が一番可能性が高いと思ったからな。

 知ってるんだろう?」


 マクスウェルの問いかけに、アクレはとても言いにくそうに目を泳がせるが、観念したのか、ため息まじりに答えた。


「オーケー、諦めた。そうだよ、私はトルーカを知ってる。

 君との接触は危険だろうから、隠してたけど手遅れだったんだね」


「そう言うことだ」


 マクスウェルは淡々と答え、いつまでも痛そうにしているサクを治療しながら再度聞いた。


「して、どこにいる?」


「私の個人的な別荘。サクの自主練もあったから、その迎えも兼ねてた」


 その言葉を聞いて、マクスウェルはふむ、と顎に手を当てる。


「成る程。

 だが、あまり人目につくわけにはいかんな。サクは食堂に連れてきてくれ。アクレは、シナロアを連れてきてくれると助かる」


「君は?」


 どうするのか、と聞かれて、マクスウェルは楽しそうに笑った。 


「お茶会の準備でもしていようじゃないか」



 ―闘技場の食堂。利用者は本来居ない場所で、灯るはずのない明かりをつけて、マクスウェルは茶会の準備をしていた。


「連れてきたよ」


 一番乗りはアクレ。楽しそうに扉を開いて、マクスウェルが何か話す前に、部屋を並び替え、中心に用意した島の席に座った。


「今日の茶菓子はなにかな??」


「どうしてお前が参加してるんだ???」


 平然と席に着いているアクレに向けて、至極真っ当な言葉を投げかけると、彼女は当たり前のように答えた。


「え? お使いの御駄賃じゃないの?」


「……はぁ、」


 マクスウェルは頭痛がすると言わんばかりに、額に手を当てるが、しばらく考えてから、深い溜め息の後に頷いた。


「まぁ、いいだろう。シナロアは?」


「あの子は置いてきた。私がお菓子を独り占めするためにな」


「今すぐ追い出してやろうか?」


 キメ顔でとんでもないことを言い出した女を追い出そうとする前に、アクレは真面目に弁解した。


「それは嘘に決まってるでしょうに。君に用事があるって話したでしょ。

 ―シナロアのスキルについて、さ」


「―何かわかったか?」


 彼女の行動にもちゃんと理由があったことを理解して、マクスウェルは追い出すのを中断して話を続けた。


「簡単に言えば、スキルが発展してるくらいだね」


「発現でも、進化でもない、"発展"…?」


 彼女のスキルは変質、もとい"進化"をしているとマクスウェルは考えていたが、それとはまた異なると彼女は伝えた。


「そ。元々、"再生"のスキルには傷の治癒が主な能力だ。"回帰"なんて性質は持ち併せていない。それは進化したとしても同じこと。

 君に言われてあの子のスキルを鑑定してみたら、なんと"回帰"のスキルが発現してたんだ。

 話には聞いたことはあるけど、少なくとも私が受け取った患者の中に、それを発言してる相手はいない。恐らく、かなりレアなスキルじゃないのかな」


「それは…時間への干渉と、再生の発展型ということか?」


「そう言うことだね。何が原因かは分からないけど、あの子はそういう資質が本来あったみたいだ。

 きっと、バイーアの下にいて極限状態だったのもあって、回復後に時間系のスキルを発現して、発展したんだろう」


 彼らはそこまで纏めてから、同時にため息をついた。


「君、とんでもない買い物をしたかもね」


「かもしれないな。で、その他にスキルに変わりはないか?」


「スキルの強度は、鑑定じゃ判別はつかないからなんとも。"進化"してた場合は、実際に使わせないことには分からないな」


「心得た」


 マクスウェルは淡々と答え、紅茶をそれぞれ魔法瓶に注いで保管する。それを眺めながら、彼女はにやにやしながら聞いてきた。 


「ところで、お使い以外にも報告と検査費用として対価をもらいたいんだけど」


 本来ならば、診察だけの予定が、余計なことまでやらされた対価―茶会の同席―を求められ、彼は心底深いため息を吐きながらも了承した。


「…まぁ、許してやろう」


「やったね!!」


 露骨な喜びように、流石に悪い気はしないものの、彼はティーセットを用意しながら念の為釘を刺した。


「あまり、余計なことはするなよ」


「分かってるって。じゃあ、あの子たち呼んでくるからさ」


「あぁ、待ってる」

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