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八日目 教育

 いつもの朝。昨晩、降り続いていた雨はようやく止んでいた。日の出前に目を覚ましていたマクスウェルは、普段通りに普段着のスーツに着替えて、髪をかき上げて、邪魔にならないように一つにまとめた。


「さて、今日は晴れそうだな」


 カーテンを少し開き、窓越しに天気を確認してからいつもの仕事を始めることにした。


 ―いつもの仕込みとその他雑務を手伝い、用意してもらった二人分の朝食を持って部屋に戻ると、仕事着に着替え終わっているシナロアが出迎えた。


「お帰り。相変わらず早いね」


「老人の眠りは浅いからな」


 マクスウェルはにやりと笑って答えると、彼女は呆れた風に聞く。


「マクスって老人って言う割にはエネルギッシュだし、そんなに老人かね」


「年齢としては間違いなく老人だよ。お前の何十倍も生きているからな」


 隠す様子もなく答えつつ、テーブルに二人分の食事を置いて、彼はさっさと席に着く。


「無駄話はさておいて、いただくとしよう」


「そうだね」



 他愛もない会話をしながら食事を終え、片付けを始めた所で、マクスウェルが切り出した。


「そういえば、今日はお前を知り合いに会わせたくてな。アクレの診察ついでに連れ回すから、仕事は一旦休みだ」


「へぇっ?」


 突然の言葉に、食後の薬を取り出していた彼女は素っ頓狂な声を出して、落としてしまった薬を拾ってすぐに飲み込んだ。


「昨日伝えておくべきだったんだが、報告をまとめていたのもあって忘れてしまってな。悪いが、このあと同行をしてもらうぞ」


 彼の有無を言わさない言い方に彼女も諦めて、水を飲みながら頷いた。


「…分かったよ」


「良い子だ。

 片付けついでに、パラナに外出許可を貰ってくるから、大人しくしていろよ?」


「子供扱いしないでってば」


 シナロアの、不貞腐れたような言葉にマクスウェルはただ楽しそうに笑っていた。



 ―その後、問題なくパラナの許可を得たマクスウェルは、アクレの所にシナロアを押し付けて闘技場に移動していた。

 早朝の闘技場に、誰もいないと思いきや、一人の少年が汗を流していた。


「サク、精が出るな」


「……アンタ、」


 マクスウェルが気さくに声をかけたのに対し、サクは睨みつけてくるが、彼の余裕は崩れない。


「まぁそんな怖い顔をするな。私はお前らに危害を加えるつもりはない。本当にそのつもりなら、とっくにお前の姫様は捕らえられていると思わんか?」


「むぅ、」


 マクスウェルの言葉に納得してしまったのか、彼は不満げに黙り込む。それを見て、マクスウェルは普段通りに話を続ける。


「何にせよ、私としてはお前らに手を出す理由はない。例の話については、私の協力者―シナロアとの接点の確認のためにブラフをかけただけだ」


「…シナ、ロア? あんた、もしかして…」


 協力者の名前を聞いて、聞き覚えがあったのか、サクが反応した所で、マクスウェルも説明を始める。 


「やはりお前も知っていたか。

 私の協力者はシナロア、お前らの国でも貴族の娘で知られているはずだ」


「いや、おかしいだろ! なんでアンタがそれを―」


「バイーアの闘技者だった彼女を買い取ったからに決まってるだろ。

 当時の私には必要な事だったからな」


 マクスウェルが即答した所で、全てを理解したサクは大きく頭を下げた。


「……、今までの失礼をお詫び申し上げます。まさか、貴方がそんなことをしていたなんて―」


「必ずしも、知らぬことは罪じゃない。何せ、私の行動もお前らにとっては地雷を踏みぬく行為でしかなかったからな。

 当然の反応だし―そんな頭を下げるな」


 マクスウェルはいつもと変わらない様子で、サクの頭を上げさせて、笑いかける。


「そこで、だ。この後、シナロアとトルーカを合わせる約束をしている。その時、二人を見守ってくれないか?」


「良いんですか?」


 マクスウェルの提案に、彼は逆に聞き返し、それを承諾と理解した彼は手を差し伸べる。


「頼む」


「えぇ…!」


 差し伸べられた手を握り返し、二人はこの後の約束を取り付けた。

 そしてマクスウェルは手を離した後、少し距離を離してサクに向き直った。


「さて、話はこのあたりでいいだろう。お前の稽古をつけてやる」


「え? 稽古って言っても貴方、俺に負けたじゃないですか」


「ぶちのめされたいようだな。構えろ。まともに攻撃を当てられたら褒めてやる」


 先の試合の結果で調子に乗られるのは非常に不愉快なので、まずは教育(しつけ)からすることにした。


 ―結果は言うまでもなく、マクスウェルに完封され、ひどい怪我はないものの、擦り傷とアザだらけにさせられたサクが居た。

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