表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/144

七日目 vs祝福闘士

 ―しばらく二人で会話を楽しんだ後にトルーカと別れ、彼は決勝戦の会場に向かっていた。

 雨はまだ降り続けており、彼は憂鬱そうにため息を吐いて、今日最後の戦場に辿り着いた。

 歓声が彼を出迎えるが、彼の意識はその先―革の鎧に身を包んだ、ずぶ濡れのサクに向いていた。

 先日の印象とは異なり、彼には明確な敵意が感じられ、マクスウェルも少し身構える。そんな雰囲気の中、空気を読まない司会の声が響く。


『さぁ、決勝戦となります! 二連続で決勝まで勝ち抜いたのは"天魔"! このまま勝利を勝ち取り、天使となるか、悪魔となるかは見所です!

 そして対するは"祝福闘士(ブレディエーター)"! スキルを持たない人間と、相手のスキルに応じて強くなる人間のような悪魔の戦いはどうなるのでしょうか!?』


「…スキルを持たない?」


 司会の言葉に引っかかりを覚え、その意図を理解しようとしたが、その前に試合のゴングが鳴り―眼の前に拳が迫っていた。


 鈍い音と共に、彼の体は弾け飛んで壁に激突する。


「…ちっ、」


 砕けた壁の中で彼は舌打ちして、追撃の一撃を転んで避け、改めてサクに向き直るが―彼は冷たい殺意と共に既に目の前に居た。再び電光石火の一撃が彼を襲うが、マクスウェルはそれを軽々と受け止めた。


「落ち着けよ若者。随分な殺気じゃないか」


「……、あんたと話すことはない」


 サクの拳を受け止めた手を振り払い、その勢いで返しの拳が飛んでくるが、彼は紙一重のようなスレスレの回避をする。

 そして一撃、一撃とサクは追撃の手を緩めないが、彼はそれを寸での所で回避を続ける。あと数ミリズレていれば直撃しているはずの攻撃を、弄ぶように回避され、彼は苛立ち気味に距離を離したが、それと同時にマクスウェルが攻めに転じる。

 彼のバックステップより更に一歩踏み込んだ彼の掌底が腹に突き刺さるが、衝撃は後ろに流されて決定打には至らない。

 サクはその勢いで地面を転がり、距離を離して体勢を整える。そして仕切り直しと言わんばかりに拳を構えた。それを見て、マクスウェルは左手を前に、盾のように構えて重心を落とす。

 一瞬の静寂の後、二人は同時に駆け出した。サクは勢いのまま、全体重を乗せた突きを繰り出すが、マクスウェルは左手で勢いを流し、その勢いを利用して彼の側頭部に回し蹴りをぶちかます。

 それは直撃して、鎧込みで相当の重さがある体が大きく飛ばされる。しかし、先程のサクの一撃のような重さはなく―ただの格闘家が放った一撃のように、この闘技場には似つかわしく無い、軽い一撃だった。


(…まぁ、私の素の筋力ならこんなものか)


 ほとんどダメージを受けた様子もなく立ち上がる祝福闘士を見て、彼はため息を吐いた。

 ―司会が話していたのは真実だったようで、彼と対峙しているマクスウェルの魔力はほぼ全て制御されている。なんてことは無く、むしろ一切の制限がかかっていない状態であった。

 彼にとって、真面目にやれば勝つのは容易だが、己に与えられた仮初の"スキル"を否定することとなる。今後を考えた時、不用心な行動は慎むべきだと判断し、必要最低限の魔力だけを用いて、この戦いに挑むべきと結論付けた。

 そんな圧倒的に不利な戦いに、彼は久々に笑みをこぼした。


「なに、笑ってんだよ!」


 不敵な態度の彼に苛立ちを隠せない祝福闘士が攻め立てるが、その拳を受け取って、彼は答える。


「いやなに、久々だったからな。

 精々、この老人を楽しませてくれよ、若いの!」


 手を離し、彼が横に飛び退き、それを追いかけるように祝福闘士が一歩踏み込んで向き直る。曲がった勢いのまま振り抜かれたフックを掴み、その勢いを利用して大きくスイングし、壁に向けて投げ飛ばした。

 投げられた状態から、祝福闘士は空中で体勢を整えて壁に着地、そのまま砲弾のように飛んでいく。

 咆哮と共に、凶器の塊が彼の首を狙うが、天魔は軽々と避けて―拳で顔面を撃ち抜いた。

 その衝撃を丸々直撃した砲弾は空を舞う。その隙に天魔は追撃の準備、を出来るわけなく、砕けた拳を押さえて苦悶の表情を浮かべている。

 その隙に祝福闘士も着地し直し、揺れる視界が正常に戻るまで、数秒固まった。二人が動き出せる頃には、お互いの傷は完治していないものの、戦える程度には回復していた。地面を己の血で濡らしながら、二人は再び戦闘を開始する。

 ―一見、天魔が優勢と見える試合。祝福闘士が攻撃を仕掛け、天魔がカウンターで返す。しかし、その代償として天魔の体が徐々に破壊されていく。治療も行っているようだが、祝福闘士の再生の速さには及ばず、いつの間にか天魔の立つ場所には血溜まりが出来ていた。


「…クソ、」


 ついに、タフな彼も肩で息をしながら悪態をつく。彼も彼でダメージはゼロでは無いため、いたるところに切り傷やアザが出来ており、口はもうズタボロなのか、血を吐き出しながら息をしている。

 それでも二人の闘志は消えることはなく、幾度目か分からなくなるほどの肉弾戦を始める。

 先手は天魔。まだキレの衰えない左の掌底が彼の顎を狙うが、祝福闘士は流れるように彼の左側、伸びた腕が邪魔になる場所に避けて、隙だらけの側頭部を狙うが、その前に腕を止めていた天魔の腕が戻り、そのままガードする。

 鈍い音と共に、彼は衝撃を受け止めてずり下がる。雨天の中でも滑ることはなく、彼は地面を踏みしめて体勢を整えた。

 その隙を見逃さず、祝福闘士が襲いかかり、振り下ろされた腕を半歩進んでかわして、その勢いのまま顔面を殴り飛ばして地面に叩きつけた。

 硬化した骨を殴り、天魔の拳も砕けて出血が起きる。それでも彼は動きを止めずに倒れる頭を踏み潰そうと足を上げたが、降ろされる前に祝福闘士は地面を転がって距離を離し、その勢いを利用して立ち上がる。


「……しぶ、といな!」


 最低限、出血を止める程度の治療をしながら天魔が叫ぶと、彼も牙を剥き出して吠える。


「あんたもなぁ!」


 短い会話を交えて二人は再び走り出し、今度は祝福闘士が先手を取る。重心を前に、全体重を乗せた拳を放った、瞬間手を止める小賢しいフェイントを混ぜて、その勢いのままタックルをした。

 不意を突かれた天魔はそのまま押し倒され、マウントを取る形に持ち込まれる。


 祝福闘士は余裕を見せる間もなく、彼の無防備な顔面に向けて拳を振り下ろすが、その拳は簡単に受け止められ、空いた手が手首を掴み、締め上げていく。

 祝福闘士も苦悶の表情を浮かべながら空いた手で彼の顔面を何度も殴りつけるが、その手は離さない。十数発殴った所で鈍い音と共に祝福闘士の片腕をへし折り、彼は叫びと共に天魔を解放する。

 彼はすぐに立ち上がり、隙だらけの頭を踏みつけ、怯んだと同時に足を放して蹴り飛ばす。

 サッカーボールのように蹴り飛ばされた体は地面を転がっていく。更に追撃をしようと天魔も走り出すが、数歩歩いた所で足がもつれて転んでしまう。

 その間に祝福闘士は立ち上がり、揺れる視界が天魔を捉える。

 それに対して天魔も体勢を整え、焦点が定まらない視界でも、敵意だけを感じて構えを取る。

 骨は砕け、血まみれの満身創痍な体で、二人は再び駆け出した。

 恐らく、お互いこれ以上の継戦は不可能。故に、一撃に賭ける。


 先に当たった方が落ちる試合、先に攻撃をしたのは天魔。

 気配だけを頼りに、少しでも巻き込める確率を上げるためであろうフックを放つが、祝福闘士は冷静にそれを引いて避ける。

 そして、トドメの一撃を―振るう前に、天魔が倒れ込んで彼はそれに巻き込まれた。


「―、!!」


 それまで避ける余力はなく、二人は倒れ込んで祝福闘士はそのクッションにされる。

 満身創痍の体には重い一撃だが、彼の意識はまだ折れない。這いずるように離れてから立ち上がり、倒れたままの天魔の腹を蹴り飛ばした―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ