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一日目 準備室にて

 召喚された翌日、先日召喚の間にいたローブ姿の者から屋敷の地下にある、"ポータル"と呼ばれる転送装置―一見、マクスウェルの世界にもある転移魔法の陣と良く似たもの―から転移し、どこかの石造りの部屋に通された。

 家具もなにもない殺風景な部屋で、彼が興味深そうに周囲を眺めていると、ローブ姿の従者が早く来いと手で催促する。仕方なく彼も着いていき、部屋を出るとまた石造りの殺風景な廊下が続いていた。


「ここが、お前が戦うことになる闘技場だ。まず、先ほど通ってきた陣は他の陣営も共有して使っている。時間で区切られているとは言え、余計な事故を起こしたくなければ、早急に出た方がいい」


 背丈は160cmほどで良く分からなかったが、この従者は男なのか、歩きながら低い声でそう説明する。


「成る程。私の契約の制限範囲が妙に飛んでいると思ったが、転移して繋いでいるからなのだな」


 マクスウェルは納得した風に呟くと、従者の足が止まる。


「そういうことになる。―いやちょっと待て、昨日、お前に移動制限の話をしたか?」


 彼の問いに、マクスウェルは小さく笑って左手を、鎖のような契約印を掲げる。


「してないが、暇だったから少し調べさせてもらった。私が"魔王"と名乗っていたのは別に伊達や酔狂でも何でもないぞ?」


 彼は悪気もなくそう言い、従者も何を言っても無駄だと悟ったのか、ため息混じりに歩き始める。

 石畳を歩く軽い足音が続いてしばらくして、ようやく従者が話し出した。


「ここのシステムだが―基本的に参加する八人を募集して、勝者が勝ち進むトーナメント形式だ。ただ、組み合わせは運営のみが知っていて、我々やホストとなる、パラナ様含む領主でさえその詳細は分からない。そしてその八人のなかから最後に勝ち残るものを予想し、賭けるのが基本となっている」


「どうやって稼ぐのかと思ったが、賭け事なんだな」


 率直な感想をぶつけると、従者もそうだな、と空返事で答える。


「賭け方も優勝者のみを賭ける単勝と最後の二人を賭ける二人制、優勝と準優勝を賭ける二連単の三種類が基本だ。

 簡単なシステムだが、この賭け事は国が大手を振って盛り上げていて、我々国民の娯楽のひとつとして浸透している」


「子供の教育に悪影響じゃないのか…? それは…?」


 冷静にツッコミをいれるも、従者もそれは流石にとフォローする。


「流石に子供には見せられんし一定の年齢未満の観覧は違法になっているから安心しろ。

 話が脱線しそうだから戻すが、戦闘については、どちらかが"戦闘不能になるまで"続けることとなる。つまり、気絶でも死亡でも、戦闘不能になるまでは戦い続けるんだ」


「生死問わず、か。なかなか手厳しいな」


「それに、戦闘不能になった後、スタッフが入るまでの間は敗者に何をしようと勝者の自由となっている。陵辱、殺害、捕食しようと誰も止めることはない」


「行くところまで行ってるな…。人の鬱憤の解消には多少なりとも貢献するだろうが、そこまでやるのはどうなんだ?」


 流石に引きつつ聞き返すも、従者は淡々と続ける。


「"ここ"はそういうところだ。時には猟奇的とも言われる暴力が求められることもある」


「なんというか…私たちの人権も糞もないな」


「ここで戦う連中は端的に言えば奴隷だからな。観客も人扱いしてないし、猛獣同士が戦うショーみたいなものだと思っているんだろう」


 従者の言葉に納得したのか、マクスウェルはため息混じりに頷いてから質問をぶつける。


「確認だが、別に相手は殺さなくても特に問題はないんだな?」


 それに対しても、従者は淡々と答えた。


「基本的には、な。だが相手によっては逆恨みして夜襲まがいのことをしてくることもある。そこの判断はお前ならできるだろう」


 戦場に放たれた後はお前の好きにしろ、そう遠回しに言われたところで、従者の足が止まった。

 目の前には木製の両開きの扉があり、彼は扉に手を掛けて、開く前に話し出した。


「最低限とは言え、お前には縁がある。せめてこの世界で生きる者としての忠告をしておこう。

 あまり軽率な情はかけない方がいい。戦いを楽しむ者もいるが、逆に死を願う者もいる。前者はともかく、後者であれば、勝ったのならトドメを刺してやるのも相手に対する救済だ」


 無表情だった声に、初めて後悔のような感情が見えた。彼は何を見てきていたのか、それはマクスウェルには分からない。ただ、詮索はせずに頷くだけだ。

 それを感じとり、従者は扉を空ける。その先には光が差し込んでいて、きっとこの先が戦場になるのだろう。


「さぁ行ってこい。―パラナ様の考えは理解できんが、今回はお前の単勝のみに賭けている。

 期待しているぞ、"魔王"」


 気に入らないが、主が信じる相手を信じるしかない。そう言わんばかりの態度に彼は小さく笑って彼の横を通り、見せつけるように左手を、その契約印を掲げる。


「任せておけ」

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