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二日目 来訪者

 アクレが大人しくなり、パラナは不機嫌そうに頬杖を着いたまま、静かに聞いた。


「で、だ。本来ならば、会議以外での接触は禁止とされている中、わざわざ私の屋敷まで来たのは何の用だ」


 パラナに指摘されて、リンに首根っこを摘ままれたまま、降ろしてと言わんばかりにバタバタと暴れだし、彼が仕方なく手を離すと机に身を乗り出してきた。


「言い忘れてた! 今から三日後に会議があるの!」


 迷惑そうな顔をしていたパラナも、会議という単語を聞いて顔つきが変わった。


「定例会議ならもう少し先だろう。何故こんな直近にやる?」


「心当たりがあるのではなくて?」


 彼の言葉にアクレがわざとらしく、にこやかに聞くと、パラナは心外だと言わんばかりの顔をしていたが、マクスウェルと目があって、納得したようにため息を吐いた。


「…あぁ、結構あったな」


「多分そういうことよ。

 昨日、うちの子の新薬の実験ついでに送り出したのに、"赤の天使"以外にぼこぼこにされてるとは思ってなかったからね」


「おいちょっと待て、今なんつった?」


 聞き捨てならない台詞があったようで、二人の会話を聞き流していたリンが混ざってきた。それに対してアクレは、不思議そうに聞き返す。


「あれ? 薬を注射したとき、スキルの活性化させる薬だって言わなかったっけ?」


「聞いた覚えねぇぞ。というか、いつ注射なんかしたんだよ」


 会話に齟齬が生じていることにお互い首をかしげていたが、アクレが先に思い出したように指を鳴らした。


「あぁ、そういえば先に理性飛ばした後に、打つの忘れてたの思い出して、拘束して注射したんだ。ごめんね」


 全く悪びれた様子のない謝罪を受けて、リンは大きなため息と共に眉間を押さえる。


「…俺さ、そろそろ他の領主のところに逃げてもいいか? というかパラナ氏、俺を雇ってくれないか?」


「だめだよ、"巨人化"のスキル持ちは少ないんだから」


「現主人が手放さなければ、私に契約を結ぶ権利はないんだ、悪いな」


 リンの真面目な相談も、無慈悲に二人の領主は断りを入れ、彼も諦めたように項垂れた。そして、落ち込む彼を尻目に脱線した話を元に戻す。


「とりあえず、会議については緊急だったから、こちらから連絡させてもらったよ。他の領主の子供たちには伝わってるから、これ以上の連絡は大丈夫」


「お前も忙しいというのに、わざわざ済まないな」


 緊急の来訪の理由を聞いて、彼も態度を改めて座ったまま頭を下げると、彼女は気分を良くして、べらべらと余計なことまで話し出す。


「大丈夫大丈夫! 一番の用事はリンのスキルの"抽出"がうまくいかなくて、嫌になったから、君をからかいに来ただけだから!」


「おいマクスウェル、その女つまみ出せ」


「相変わらず君は冗談通じなくて面白いネ! だけど本気でつまみ出そうとしないで、まだ話したいことあるから」


 全開で煽り散らす彼女だが、マクスウェルが動き出そうとしたのを見て、即座に弁解を求めた。


「パラナ、そう言ってるが?」


 一応、マクスウェルが行動を起こす前に確認を取ると、仕方ないと言わんばかりに頷いた。


「で、改めて用件はなんだ」


 パラナの了承を得たところで、アクレは彼、ではなくマクスウェルに向き直った。


「マクスウェル、と言ったね。単刀直入で聞くけど、君は何者なんだい?

 正直にいうけど、我々は君を警戒している。一部は"計画"の支障を生じる故だろうけど…私は、君の底が見えないことが心底恐ろしい。

 赤の天使を殺したときも、本気ではないだろう? 君には遊んでいる節が見えた」


 先ほどとは人が変わったような、真面目なトーンでアクレが聞くと、彼は腕を広げてカモフラージュを解除し、翼と角を露にした。


「まず、話しておくと、私は魔族と呼ばれる種族であり、こちらの世界では"魔法"と呼ばれる力を使える。

 私の体から生成される"マナ"と呼ばれる物を基に、"魔力"を使って"現象を作り出す"術だ」


 マクスウェルはそう話し、左手を突き出して魔力を纏わせ、小手のような物を作り出す。


「…それが、時間や空間に作用できると?」


 彼は小手を消し去り、今度は右手を掲げると、空間が歪み―ティーポットを取り出した。


「マナに更に魔力を加えて、変質させることで、ある程度は可能だ。こんな風にな。

 ただ、ある程度の物理法則には従う。例えば、時間を加速させた時の衝撃の反射とかな」


 そう話して、ティーポットを一旦机に置き、話を続けた。


「本題は、私の底が見えない、か。そこに関してはどうしようもないな。

 自分で言うのもアレだが、私は化け物だ。本気を出したら、余程の相手でなければ勝負にすらならんよ。

 だが、それでは興業が成り立たん。だから、相手に合わせて手を抜く理由がほしかった」


「それが、"共鳴"とかいうふざけたモノを提出した理由?」


「そうとも」


 彼が即答し、アクレはその回答にあまり納得した風ではなく、うーんと唸っている。


「まぁ、君に悪意がないのは良く伝わったんだけど…納得は出来ないよね。要は、どうするもこうするも、君の気分次第な訳だし」


「闘技者が敗者を好き放題するのも、気分次第じゃないか。それと然程変わらんだろう」


 彼も言い返すと、アクレはまぁ、と言葉を濁した。


「一応、会議としては君の処遇が一番なんだろうけどさ…このままだと、君の契約印の呪いに、いくつか制約が追加されるんじゃないかな」


「私の力を縛る、というものか?」


 不満げにため息を吐くが、彼女も悩ましいと言いたげに唸っている。


「多分そうだと思うけど…パラナは当然だけど、正直、私も君の悪意がないなら反対なんだよね。それで、他の仲間にも話をして、談合をしてもらおうかなとは思ってるんだよ。

 これを賛成派連中に聞かれたら問題にされそうだから、わざわざ直接来たってのもあるんだよね」


「そうだったのか」


 静かに話を聞いていたパラナが反応すると、アクレは胸を張って答える。


「そうだったのさ! だからお茶だすとか、もう少し歓迎してくれてもいいのよさ」


「マクスウェル」


「御意」


 善意での来訪が判明した途端に、パラナの合図をして、マクスウェルもすぐに紅茶と茶菓子を用意し始めた。


「いや、まさか本気でもてなしてくれるとは思わないじゃん…」


 突然の手のひら返しに、流石の彼女も困惑していた。

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