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神へと通じる子どもたち

 階を降りたと同時に起きた轟音と振動によって、入ってきた道が崩れていく。

 間一髪、巻き込まれずに逃げられた三人は互いに無事であることを確認して先に進む。


 そして下っていった先に、やたらと警備の厚い部屋を見付けた。


「……あれは、」


 見覚えのある顔を確認したヴェルディは何か言おうとしたが、それよりも先に見えた敵意に、彼らは身構える。


 敵の数は五人。外見からは分からないが、スキルを装備しているのは想像に容易い。シナロアが真っ先に飛び出し、牽制代わりの"振動"を放つが、簡単に打ち消される。

 しかし、それは注意を逸らすための囮。本命は存在を希薄化させたクルドによる、速攻。

 しかし、その一撃必殺の攻撃は簡単に受け止められ、存在を認知されたクルドは咄嗟に距離を取る。


「先輩、あんたの手段は軍部でも有名だったのは知ってるだろ?

 全盛期ならまだしも、老いた上、前線から離れたアンタを見付けられないほど、今の世代もなまっちゃいねぇよ」


 配置されていた近衛兵の一人―元諜報部のズィーナがそう言うと、彼は無言で不殺の刃を捨て、薬品に漬けられた刃を抜いた。


「なら、その老兵に負けるなんて無様な真似は見せないでくれ」


 彼の挑発に対し、彼らは不敵に笑うが―その瞬間、一人の背後ににじり寄っていたクルドは、その首を容易く掻っ切った。


 鮮血が石畳を濡らすより早く離脱し、近くにいた兵士の一人の鎧の隙間に刃を捩じ込み、その刃を残したまま元の位置に戻る。


「青いぞ、若造共」


 冷たい声で彼は一言呟き、再び暗器を一本引き抜いた。それと共に、麻痺毒に侵され、一人倒れ込む。


「これで、数的有利はなくなったな」


 再び暗器を構えたクルドを確認し、彼らはようやく、目の前にいる老兵の―軍部に語り継がれる、伝説の暗殺者は健在であることを理解した。


 彼の腕に圧倒されていた二人に向け、クルドは面倒そうに声を掛ける。


「正面衝突は俺の分野じゃない。これ以上の突破口はお前らがやってくれ。補助はする」


 先ほどまでの威勢は何処へやら、彼は当たり前のようにそう答え、再び存在が薄くなってしまう。

 しかし、敵としては隙を見せれば暗殺してくる相手が常に見張っているとなれば、普段通りに戦える訳がない。この一瞬で数的有利をなくした上、更に相手に恐怖を植え付けたのは、最大の功績でもある。


 その事に後押しされた二人は、覚悟を決めて戦闘に参加しようとした時―彼らが守っていた扉が開き―えんじ色のコートを纏った背丈170cmほどの人物が出てきた。


「…騒がしいと思ったら、客人が居たのか。それに、上の騒ぎも何事だ」


「……!!」


 その敵の異質な雰囲気に呑まれそうになるが、シナロアは反射的に攻撃をするが―何かの壁に阻まれて防がれる。


「成る程。君らが"兄"の部下たちか。

 ところで、一緒にいる"姉"はどこに―理解した。上で陛下と戦っているのか」

 

 聞き慣れない単語に、彼らが困惑すると同時に、年長者の勘か、クルドがすぐに二人を伏せさせると、頭上を風の刃が通り過ぎていった。


「…首でも持ち帰れば、いい反応が貰えると思ってたのに、どうして抵抗するのかな」


 彼は不満げに呟き―クルドに目を向ける。


「ここのリーダーは君みたいだね」


「……お前は、何者だ」


 必要最低限の問いかけに、彼は笑う。


「面白い質問だ。さっき言っただろう、"神成"を姉、君らの主人を兄と呼ぶんだ。同じ腹から産まれた子どもの一人だよ」


「それが、"あり得ない"から聞いているんだ! パラナ様を出産した後の母体も、父親に当たる者も、とうに、"∆∂∆∑"に喰わせたと聞いている。お前が産まれていい筈がない!」


「―え…」


 クルドの言葉にシナロアは混乱しているが、彼女のことには誰も興味を示さず、彼は楽しげに説明した。


「ボクも聞かされただけだから分からないけどさ―∆∂∆∑の処理は、厳密に言うと、死んだわけじゃなくて融合ってことだから、厳密に言えばアレと同化して生き続けているみたいなんだよね。ただ、不要な部位はそのまま栄養素にされるみたいだけど―それは今話すことじゃないしどうでもいいか」


「なんだと…!」


 知らなかった真実を伝えられ、そこから導かれる結論を理解し、彼は歯軋りする。


「つまり、そこからお前が産まれたと言うことか」


「そういうこと。その作業には"医療"側に置いてある、スキル抽出用の"∆∂∆∑"の断片を通じてやったみたいだから、総司令が知る由もなかったってワケ」


「事情は分かった。―だが、そう易易と"降神"が生まれるわけではないようだな」


「……黙れ」


 図星と言いたそうに、彼は明確な殺意をクルドに向ける。


「"接続者"、やれ」


 クルド以外が意識の外へと向かった隙を見逃さず―青年の背後に居た兵士の一人が、霞んだと思った瞬間、ヴェルディの姿へと切り替わり、その手に持っていた棒状の注射器を首元に撃ち込んだ。


「―!!?」


 不意打ちに彼も対応しきれず、ヴェルディの一撃は首元へと吸い込まれていき、打ち込まれた薬品によって、彼は崩れ落ちる。

 周囲に居た残りの近衛兵たちが一斉に中心にいるヴェルディに攻撃を向けるが、彼女の代わりに立っていた鏡の柱がその攻撃を全て乱反射させ、廊下を破壊する。

 完璧な奇襲による隊列の乱れを察知したクルドとシナロアが再度突撃し、残る三人を鎮圧する。


「―悪いが、我々は一人じゃない。個々の危険性だけを把握したところで、活かせなきゃ意味がないぞ、小僧ども」


 クルドは淡々とそう言い、命までは奪っているわけではなく、動けなくさせた彼らに視線を外し、開いた扉の向こう側を見ると―そこにあったのは怯えた目で、こちらを見る20代ほどの女性。


「あなたたちは、何ですか…?」


 怯えながらも、こちらについて質問をして来たが、クルドは失望したように部屋を出ていく。


「―いえ、お邪魔しました。御夫人」


「更に下の階かな?」


 シナロアたちも部屋にいる彼女を確認してから、興味なさそうに廊下に出て、廊下の向こうにある階段を指さす。


「……いや、ここは彼女に聞くとしよう」


 クルドも先に進もうとしたが、その前に情報を集めようとして戻ろうとした時、ヴェルディが仮面を外しながら、手を挙げた。


「私に任せて」


「……あまり、手荒な真似はするなよ」


「任せてって」


 クルドの忠告を聞いて、彼女を送り出し、扉を閉めた。


「…扉、閉めていいの?」


「アイツを信じてる」


 クルドは淡々と答え、少しの物音と数分の時間が経ったあと、仮面を付け直した彼女が戻ってきた。


「ただいま。この階に、それらしい警備とか、食事が運び込まれたらしい人が居るみたい。もしかしたら、隠し扉とかがあるのかもね」


「なるほどな」


「…この短い時間で一体何を…?」


「それはあんまり言いたくないから、また後でね」


 ヴェルディはイタズラっぽく人差し指を立てて言い、二人はすぐに切り替えて周囲を観察する。


「……見付けた、あそこに妙な反応があるな」


 廊下の先に、不審な場所を発見したクルドが指差し、三人はそこに向かっていく。


 ―近付いたところで、違和感を感じる壁を見付け、クルドのヴェルディの二人はその周辺の仕掛けがないか確認していたが、シナロアは手に光を溜め始めた。


「この際、形振り構う必要ないんじゃない?」


「―そうだな」


 律儀に正面から突破しようとしていた二人は、その意見に賛同して距離を離すと同時に、"振動"によって壁を破壊すると、破壊された扉と通路が現れた。


「行こう」


 彼らはお互いの顔を見て頷き、先に進んでいく。




 ―更にしばらくして、戦闘の跡を見付けた黒い影が、破壊された扉の前に降り立ち、その痕跡を調べて呟いた。


「……◣∈∫∈(ここか)

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