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奪還開始

 神成と総司令との会話から、また数日経過した後。その間にマクスウェルを再度召喚しようとして失敗したり、パラナの周辺の警備がさらに強化されたりと、何かイベントはあったものの、大きな変化はなく彼らは日々の業務をこなしていた。


 多くの場所で復興も進み始め、民も元の生活に戻り始めた頃、早朝に神成が屋敷を訪れた。


「―皆、集まってくれたね」


 主人の居なくなった空き部屋に三人が集まったのを確認し、真剣な面持ちの神成は早速話しだした。


「単刀直入に言うけど、今朝、総司令が失踪した」


「……失踪?」


 クルドが聞き返すと、彼女は言い直す。


「厳密に言うと、誘拐、ないし拉致とでも言えばいいかな。何にせよ、今朝の時点で総司令の姿が見えなくなった」


「どれだけの人がそれを知ってるの?」


 ヴェルディの問いかけに、彼女はすぐ答えた。


「今のところ、私と側近の数人だけ。とは言え、悠長にしてられる時間はないだろうね」


「指揮なしで、王城に突撃すると?」


「それしか手段がないよね。頼れる人たちは皆、もう"居なくなった"」


 彼女は暗に、信頼に値する人々は全て国王の手によって洗脳されていると伝えた上で、彼らに告げる。

 彼女の意図について、洗脳装置についての情報は分けてもらっていたこともあり、全員は理解してすぐに思考を切り替える。


「軍部の仮面は使えるか?」


「パラナが私用で用意していた仮面の通話機能には、まだ介入されていないはず。それを使ってやりとりするしかない。

 数は足りるかい?」


「四人分なら問題ない」


「OK。すぐに用意できるかな?」


「分かった。先に話を進めていてくれ」


 短いやり取りを終え、クルドが真っ先に部屋を出ていき、残された三人は流れを擦り合わせる。


「とりあえず、計画は変わらない。私が陽動して、その間にパラナを助け出す。少なくとも人質さえいなくなれば、私も気兼ね無く暴れられるから」


「総司令はどうするの?」


 シナロアの言葉に、彼女はきっぱりと言い切った。


「あの人はとうに巻き込まれる覚悟が出来ている。―それでも余裕があれば、助けてほしいかな。

 私の探知がまだ誤魔化されていなければ、王城の地下牢に監禁されているみたいだから頼みたい」


「了解。助けてみせる」


 即答したシナロアに向けて、彼女は目を丸くして聞いた。


「……君さ、総司令のこと嫌いじゃないの?」


「嫌いですよ。それでも、あの家族はまだやり直せますから。―二人とも、分かり会えないまま、二度と会えないのって悲しいじゃないですか」


 二度と会えない家族を思い出し、彼女は暗く笑う。彼女の言葉の裏側の全ては分からないものの、何かを察した神成は小さく頭を下げた。


「―ありがとね」


「戻ったぞ」


 話の流れを断ち切って、クルドが鉄仮面を手に戻ってきて、有無を言わせずに彼女たちに渡す。

 そしてヴェルディには銀色のコートを渡した。


「お前にはこれだ。―"接続者(コンス)"が使っていた装備を粗方セットしてきた」


「これは…ありがとう」


 ヴェルディはコートを受け取り、すぐに羽織り、その上に、装備を隠すように軍部のえんじ色のマントを纏った。

 クルドも同じくコートに着替え、えんじ色のグローブを手に填める。そして胸のあたりを叩くと、真っ黒なコートがそれを覆っていった。


「話には聞いてたけど、それがクルドの正装なの?」


「20年前に引退した諜報員の正装なんて、とうに忘れたな」


 彼は慣れた手付きで手を前に突き出すと、十数本の暗器が出現し、彼はコートの下にしまっていく。


「…染み付いた技術は抜けないって感じかね」


「さてな。老兵は死なず、ただ去りゆくだけと思っていたが」


 彼は多くは語らず、準備を終えて向き直る。


「さて、時間はない。確認だが、方向性は前と変わらないな?」


「そうだね。余裕があれば、総司令が地下牢にいるから助けてほしいってさ」


「了解した」


 シナロアから手短に流れを確認し、神成は手を広げる。


「じゃ、飛ぶよ」


「ポータルは…使えないから仕方ないか」


 彼女の転移で移動するということを理解し、クルドとヴェルディが彼女の両手をそれぞれ握り、どうすればいいか困っているシナロアに、ヴェルディが教える。


「手を繋げて。それで、みんな一緒に転移できるから」


「は、はい」


 シナロアがヴェルディとクルドの手を握ったところで、神成が最後の確認をする。


「じゃあ、転移するよ。―パラナと、総司令を頼みました」


「――」


 任せて。そう言う前に空間転移が起動し、彼らはその場から姿を消した。



 ―気が付くと、一面の青空が見えた。

 王城の屋根の上に転移した四人は、少しの目眩を覚えながらもすぐに調子を取り戻して、お互いを確認する。


「―ここは、屋根の上ですか」


 周囲を見渡して、位置を確認しながら、ヴェルディが呟き、神成はそうだね、と答える。


「パラナはあっちかな。細かい場所までは聞かされていないけど、地上階の何処かだと思う」


 神成が指差した先を三人は確認し、中庭を越えた先の建物であると確認する。その確認と共に、警報が鳴り響き―神成が舌打ちする。


「屋根まで転移すればうまく誤魔化せると思ったけど、そうはいかないか」


「どうするの?」


「陽動とは言ったけど、正直なところ、雑魚の相手をするつもりはない。しばらくは私も同行するよ」


「それは助かるな」


 クルドはそう言って、すぐにシナロアを抱きかかえ、軽々と跳躍して中庭を飛び越えて目的の建物の屋根に着地する。


「――!!?」


 予想外の行動にシナロアが声をあげる前に、流れるような動きで近くの窓にぶら下がり、触れずに解錠した上で中に入り込む。


「これで行けるな」


 シナロアを降ろし、後ろから着いてきた二人に伝え、ヴェルディが呟く。


「…流石の手際ですね」


「この程度、暗殺専門の出身なら基本中の基本だ」


 特に誇るわけでもなく、彼は淡々と語り、服の下に隠していたナイフを一本取り出し、先へと進んでいく。

 クルドを先頭に歩いているが、彼の存在は何処か気迫で、意識していないと見失いそうになる。


「あれは"隠密"と"認識阻害"。軍部最高の暗殺者として名を馳せたクルドの基本装備です。

 離れるのも良くないですし、このまま着いていきましょう」


 隣を走るヴェルディが小声でシナロアに教え、彼女もそれに従って着いていくことにした。

 初めて来る場所と思えるが、彼は特に迷いなく階下へと降りていき―その途中、十数人程度の分隊と出会した。

 しかし、存在が希薄化しているクルドは認識されることなく、そのまま通り抜けるように全員を刻んでいくと、糸が切れたように崩れ落ちていった。


「……悪いな」


 倒れる人々に一瞥して、握っていたナイフに着いて脂を払い落とすが、その切っ先に血液は付いていない。


「…傷を与えない暗器、"不殺の刃"にあんな使い方があるんですね」


「マクスウェルやシナロアがやってる、スキルを打ち込むことと同じ原理だ。傷をつけない特性でも、スキルを刻み込むことはできる。

 それで、この刃には拘束系のスキルを付与してある」


 ヴェルディの言葉が耳に入っていたのか、彼は淡々と答えて先に進む。三人もそれに着いていって、更に階を降りたところて、足を止めた。そして、先頭で先に止まっていたクルドが呟く。


「……陛下」


 その先にいたのは、灰色のスーツを纏った国王。特に側近は連れておらず、こちらを持っていたように微笑んでいた。


「想像通りだな、反逆者たち。

 結局、お前らは我々の計画に従うつもりはないということでいいな?」


 彼は冷たい声色で確認する。それに対し、神成が代表して答えた。


「神のための傀儡になるために、私は産まれたつもりはないよ」


「お前の意志に関わらず、既に決まったことだ。それに抗うとでも?」


「その通り。私は、その為にここにいる」


「そうか」


 神成がはっきりと抵抗の意志を見せたことに、彼は静かに息を吐いて―明確な敵意を見せた。


「それは、残念だ」


「―ここは、私がやる。パラナを頼んでいいかな」


 神成は覚悟を決めた顔で構えをとり、一足先に国王、アルマロスへと向かっていき―"降神"による力で空間を歪めた。


「…今のうちに行け、か」


 彼女の意図を汲み取ったクルドがそう呟き、直ぐに二人の脇を通り抜け、後にヴェルディとシナロアも続く。



 三人が先に行ったところで、歪められた空間は戻り、神と紛い物は再び相対する。


「―まさか、お前が残るとはな」


「意外だった?」


 小馬鹿にしたように彼は言い、神成が聞き返す。


「意外というより、お前がわざわざ私と接触するとは思わなかったからな」


「勝算があるってことだよ」


「よく言う」


 神成の自信満々の言葉に、アルマロスは鼻で笑い、お互いの奇跡が起動する。

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