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再臨

「……う、」


 マクスウェルは魔力の浪費による倦怠感に襲われながらも目を覚ました。


「魔王、起きたか」


 薄暗い自室のソファーで寝かされていた彼は、友人の声で完全に目を覚ます。


「…勇者、今何時だ」


「あれから六時間ほどだな」


 扉付近の調理場で作業しているため、姿は見えないが彼は特に隠す様子もなく答える。


「……そうか」


「とりあえず、飯にするか。こっち戻ってきてから何も食ってないだろ」


 彼はそう言ってから調理場から顔を出し、ビーフストロガノフとパンを乗せたトレイを持ってきた。


「……お前が作ったのか?」


「何変な顔してんだよ。昔、何度も作ってやっただろ」


「それもそうだな。いただこう」


 グランは呆れ気味に言い、彼はありがたくスプーンを手に頂くことにした。


「―ごちそうさま。久々に食った気がするが、お前の料理も悪くないな」


 マクスウェルの言葉に、適当な椅子を引っ張り出して座っていたグランは笑う。


「お前、いつもそう言うよな」


「そうなのか?」


「その反応もいつも通りだ」


 特に怒る様子もなく、懐かしそうに彼は笑って、立ち上がってトレイを片付ける。


「少し休んだら、行くんだろ?

 片付けをするから少し待ってくれ」


「…悪いな、いつも」


「気にすんな。お前もいい加減、他人に頼ることにも慣れろよ」


 彼に指摘され、マクスウェルは苦情する。


「それはそうなのだがな」


「ま、お前は基本的に一人で何でも出来るからな。分からんでもないが、全部一人で完結させようとするのは悪い癖だぞ。

 お前がわかっていようと、俺は何度でも言ってやる」


 グランは洗い物をしながらそう言い、マクスウェルは困ったようにソファーに体重を預ける。


「……それなら、少し甘えさせてもらおうかな。

 グラン、三時間後に穴を開く。それまでに前提の術式構築を頼めるか?」


「任せてくれ。お前はそれまで休んでろ」


「そうしておく」


 洗い物を終え、手を乾かしつつ厨房から出てきたグランは、彼を指差しながら指摘し、今度は大人しく従うように、目を閉じた。


「よし、良いな」


 その姿を確認して、グランは部屋を出ていった。


 部屋から出ると、すぐ目の前に女神が待機していたが、特にぶつかること無く彼は避けて歩き出す。それを待っていたかのように彼女も並んで歩き出し、早速聞いてくる。


「ちゃんと寝かせられた?」


「あいつとも付き合いは長いからな。説得はできたが、三時間後にはすぐ出るようだ」


 グランの言葉に、ラフィエルもんー、と悩ましげに唸る。


「まぁ、多少なりとも寝かせられただけマシか」


「そうだな」


 二人は淡々と言葉をかわし、ふとグランが口を開く。


「一つ聞きたい」


「何かしら?」


「アルマロス相手にして、魔王は殺せるか?」


 その問いかけに、彼女は自信満々に答える。


「あの程度の相手なら、本気の魔王様なら余裕よ。ただ、少なくとも入れ物にも情が湧いてる状態だからね。容赦なく斬り捨てられるなら、って前提」


「そんなもんだよな」


「そんなところね」


 お互いの認識が間違いないことを理解したところで、先ほどの部屋の前に戻ってきた。そこで、グランは憂鬱げに口を開く。


「ここにきて言うけど、アイツが当たり前のようにやってた作業量バカすぎて、三時間で準備全部終わらせるのキツいんだけど」


「奇遇ね。私も同じこと思ってた」


「まぁ、でもやるしかねぇか」


「そうね。覚悟決めましょう」


 二人ともふざけた様子で話し合い、扉を開いて中に入っていった。



 きっかり三時間で目を覚ました、鎧姿のマクスウェルが転移用の部屋に戻ると、二人は床に座り込んで一息ついていた。


「その様子だと、終わったのか?」


「あと少し、直接"穴"までの座標を書き込むだけだ」


 疲れたようにグランが答え、マクスウェルは小さく頭を下げる。


「無茶振りさせたんだが、助かる」


「おう、これでお前も気兼ね無く行けるだろ」


「……そうだな、本当に迷惑をかける」


 マクスウェルの言葉に、ラフィエルが代わりに答える。


「魔王様の無茶振りなんて、そうそうないですから。たまにはこんな風に頼ってください」


 彼女の言葉に、彼は笑って魔法陣に立ち、魔力を解放する。


「お前ら、一旦離れてろ。"扉"を開く」


 二人はその言葉に素直に従い、部屋の隅に避難する。それを確認してから、マクスウェルは集中して指定した座標を入力すると、大きな抵抗もなく―次元が裂け、暗いものの、先ほどの暗黒空間とは全く異なる、世界への入り口が見えた。


「じゃあ、行ってくる。

 今度は出来るだけすぐ戻るから、溜まってるメールがあったらまとめといてくれ」


「おうよ。行ってこい」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 開いた入り口に向かいながら、二人はいつもと変わらない様子で見送り、普段の姿に安心しながら、―彼は世界を超えて行った。


「―ところで、俺の予想が間違ってないならあそこって」


 マクスウェルが消えたあと、グランが不安そうに呟くと、彼女も続いた。


「多分深海だろうけど、魔王様なら大丈夫でしょ」


「そうだな!」


 二人はそんな話をしながら、それぞれ頼まれたり、やるべき仕事に戻ることにした。




「――!!」


 この穴を作った相手は、恐らくまともに利用させるつもりはないのだろう。スキルの世界にたどり着いた瞬間、襲ってきたのは暗黒と水の圧だった。

 しかし、マクスウェルも並の使い手ではなく、深海の水圧すらものとせず、傷一つつかない鎧の表面に膜を作り、水中の圧を軽くする。


 そしてここに長居する必要もないので、早急に海面まで脱出しようと上昇していく。水圧の変化によるダメージは、膜を作ったことで無効化し、彼は難なく水中から飛び出し、空に足場を作って膜を解除する。


「…全く、泳げないというのに深海に穴を作るな。せめて宇宙空間ならもう少し楽だったというのに」


 鎧の隙間から海水を落とし、口の中に入り込んだ塩辛い水を吐き出してから、彼は目を閉じ―数キロ間隔で"千里眼"を展開して周囲の状況を確認する。

 しばらく観察を終えてから、彼は目を開き―ジャイロの治める国の方角を向く。


「では、行くとするか」


 彼は翼を折り畳み、空気の抵抗を出来るだけ少なくしたフォルムに鎧を変形させ―その場からミサイルのように駆けていった。

 目指すは遥か遠く、スキルによって発展した国。


 音速で飛行していくその最中、鎧も、更に変形していった。


 ―彼が王国へと戻っている途中のこと。異質な魔王の再臨を感じ取った者たちもいた。

 ある者は興味を示し、ある者は対策を講じ、相まみえることを願いながら、遥か遠くで待ち構える。

 それに対し、魔王は特に興味も示さず、ただ己の為すことだけを考え、随分と待たせてしまった主人の下へと向かっていった。

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