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帰る理由

 ―ラフィエルがグランと雑談しながら侵入口を探していると、部屋の扉が開いた。


「お前ら、随分と長くやってるな。何かあったのか?」


 目を覚ましたマクスウェルが、眠そうに目を擦りながら部屋に入ってきて聞くと、彼女の代わりにグランが答える。


「座標までは特定できたんだけど、世界そのものが断絶されてるみたいでな。その穴を探していたんだ」


「……世界の断絶? そんな事があるのか?」


 初めての現象に彼が聞くと、ラフィエルが代わって答える。


「普通は無いんですけどね。…空間を終わらせる力を持った神が紛れ込んだりしない限りは」


「成る程。お前らの言い方からして、神成の影響ではなく、たまたま余計な異物が紛れ込んだと考えてるわけか」


 すぐに彼らの仮定を理解し、一緒に水晶玉を覗き込むが、まだ暗雲がかかったかのような暗闇だけが続いている。


「厳しそうだな。座標の特定自体はできたのか?」


「そちらは問題ありません」


「分かった、お前らも長い間やってもらって疲れただろうし、あとは任せろ」


 ラフィエルの報告を受けて、彼は伸びをして部屋の出口へと視線を向ける。


「魔王様、どうするつもりで?」


「"ラストスペル"で無理矢理こじ開ける」


「…行けますかね?」


 即答するマクスウェルに対し、不安そうな彼女に向け、背中を向けつつ答えた。


「やってみてから考えれば良いだろう。"穴"以外、完全に閉じきってしまったなら、閉じた本人も困るだろうしな。その油断を突いてぶち抜くだけだ。

 一旦、茶葉と珈琲豆の整理も中途半端だったみたいだから、お前らも手伝ってくれ」


「おう」


「はーい」


 マクスウェルの頼みを受けて、彼らもようやく水晶玉から手を離し、畑に向かっていった。



 畑に向かい、三人で遅れていた出荷用の品物を整理した所で、三人は久々のティータイムにすることにした。


「―あちらでは一月半ほど過ごしていたが、こちらではどれだけ経っていた?」


 畑の隅で、ゴーレムを働かせながら紅茶を淹れたマクスウェルが聞くと、二人は少し考えてから答える。


「大体一月くらいだな。こっちの方が多少時間の流れが遅いみたいだ」


「そんなくらいか。それで、大陸の方は特に何もなかったか?」


「大したことは無かったな。ただ、お前が楽しみにしてた学会発表は終わっちまったが」


 グランの言葉にしばらく考えていた彼は、思い出した風に相槌を打つ。


「…あぁ、あれか。何か面白そうなテーマはあったか?」


「いや、特には。あー、でも召喚魔法について面白い発表があったな」


「召喚魔法、か」


 少し、思い当たる節があって聞き返すと、グランは要点を話す。


「召喚魔法は、基本的に異界を介した召喚が基本だが、この星の人間を対象にできないか、って奴だな」


「…誘拐でもするのか?」


 マクスウェルは当然のように言い、グランもそれに賛同する。


「それは俺も思った。でも、発表した当人はこの閉鎖した大陸の外から人間を呼び込めるのではって熱心に語ってたが、当然発表の途中で打ち切られた」


「だろうな。犯罪にしか使われんだろ、そんなの」


 マクスウェルはそこまで話してから、ふと思い出したことがあった。


「少し気になったのだが、その召喚魔法について、いわゆるマーカー、"タグ付け"が間違った場合、誤った対象が召喚されるな?」


「そりゃそうだろうな。

 召喚魔法自体、無理矢理引っ張ってくるような魔法だし、同意のない相手なら尚更、当人と確定する何かしらの要因がなきゃ、ただの無差別誘拐だ。

 何か引っかかったのか?」


「…まだ憶測の範囲だがな。その案、割と使えるかもしれん」


「犯罪の片棒担ぐのはやめてくれよ?」


 グランが冗談混じりに言い、マクスウェルも笑って答える。


「そんな真似はせんよ。ただ、少し利用できそうだなと思ってな」


「ほう?」


 興味を持ったグランに対し、何かを察したラフィエルが、紅茶をちびちび飲みながらツッコむ。


「魔王様、とんでもないことやろうとしてません? 最悪、タグ付けした相手が死にますよ?」


「死なない相手を使えばいいだけだろ?」


 彼女の言葉に彼は悪そうに答え、ため息混じりにマドレーヌに手を伸ばした。


「どうします? すぐやりますか?」


「いや、理論を改めて確認したい。このお茶会が終わり次第、資料集めを手伝ってくれ」


「召喚魔法関係以外に何がいる?」


 マクスウェルの提案に、グランはすぐに必要なものを察して手伝いを進言する。


「図書室に召喚系の論文を適当に纏めた束があるはずだ。それを全部持ってきてほしいのと、他に補完として空間軸への干渉を題材にした資料だな。今回の"断絶"はレアケースだから、それについて何かしらでも触れていた資料が見付かったら一緒に教えてくれ」


「了解した。

 骨が折れそうだし、俺は一足先に向かってるよ」


「頼む」


 親友を送り出し、二人は無言で紅茶を楽しんでいたが、女神も立ち上がった。


「私も休んだし、そろそろお手伝いしてくるよ」


「助かる。…いつもすまんな」


 マクスウェルの言葉に、彼女は楽しげに笑う。


「魔王様に頼られるのは悪い気がしませんし、お気になさらず」


「そうか。これからも色々頼ると思うが、よろしくな」


「任せなさいな」


 そう元気に言って、彼女は部屋を出ていく。


「………」


 一人、残ったマクスウェルは自身の左手首を見つめる。

 そこに刻まれていた、鎖のような契約印は既に消えている。つまり、マクスウェルとパラナの関係自体は既に断たれている。

 それでも、彼は再びスキルの世界へと戻ろうとする。その理由は至極単純、どんな形であれ、契約を結んだからにはそれを果たす。


『―お前を、信じて良いのか?』


 本心から人を信じることが出来なかったパラナが、不安そうに言った言葉。マクスウェルに、それを裏切ることは出来ない。


「さて、そろそろ行こうか。手のかかる主人が待ってる」


 短いティータイムを終え、彼は四枚の翼を広げ、紅い鎧を纏いながら部屋を出ていった。

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