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親友

 ―一方、元の世界へと強制的に送還されたマクスウェルは、魔力を再封印して人の姿へと戻る。

 久々に魔力を使いすぎた影響か、どっと疲れが出てモニターに備え付けられているソファ・チェアに座り込んだ。

 それを見越していたかのように、彼が親友と呼んだ人物―真っ黒な機械の鎧は、違和感のない動きで彼の前に紅茶を淹れて寄越す。


「随分と疲れてるな」


「久々に真面目に戦ってきたからな」


「そうか」


 彼は早速紅茶を飲みながらそう答え、鎧は何処からか丸椅子を取り出して腰掛ける。


「で、どうするんだ? お前の口ぶりから、また行くんだろう?」


 彼をよく知るからこそ、すぐにでも追いかけにいく前提で聞くと、彼も迷いなく答える。


「それはそうだが…今は、少し疲れた」


「見た所、そんなに疲れてるようには見えないが、遂に歳か?」


「…とっくに私は老人のつもりなんだがな」


 親友の茶化しに彼は呆れ顔で答えると、親友はカラカラと笑う。


「そうだな、お互い随分と年をとった。肉体じゃなく、"魂"がな」


「それもそうだな」


 二人の老人はしみじみと呟き、親友は椅子に体を預けて休んでいるマクスウェルに、毛布を持ってくる。


「疲れただろう、今はゆっくり休め」


「…いや、その前に調べておきたいことが…」


 うつらうつらとしていても、動こうとしているマクスウェルを彼が抑える。


「安心しろ、俺らが調べておいてやる。お前が連れてかれた世界の座標と、時間軸のズレの調査だろ?」


 マクスウェルの目的を的確に言い当て、彼は目を閉じながら納得したように深く息を吐いた。


「お前ら、その話の速さはもしかして…いや、あいつもいるし当然か」


 表情のわからない機械の仮面の下、彼は笑った。


「そうだな、お前の想像の通りだ」


「なら、頼んだ。…私は、少し眠る」


「おう、任せておけ」


 安心して眠りに就いたマクスウェルを置いて、彼はコップを片付けつつ部屋を出ていく。

 すぐ外にある洗い場で食器を洗い、立てかけて水気を切っておく。そして殺風景な白い廊下を歩いていき、機械仕掛けの扉を開いた先には―光に包まれた畑が広がっていた。


 ここは、マクスウェルが丹精込めて創り上げた畑。自動化させたゴーレムたちを使役して、度重なる品種改良の果てに作り上げた茶葉と珈琲豆を収穫するために作った空間。

 しかし、ここしばらくは畑の主が不在だったこともあり、"二人で"この畑、というよりもゴーレムたちの手入れを行っていた。

 外界と切り離されたこの空間では雑菌や害虫の危険な全くない。そんな、農家の楽園のような世界で暇そうにしていた人影が一つ。


「ラフィエル、暇そうだな」


 それは、テンプレートの天使のような女性。美しい銀色の長髪に、四枚の白い羽。絵画のように整った顔立ちに紅い瞳は宝石のように輝いている。しかしその身に纏うのは戦乙女を彷彿させる重厚な銀色の鎧であり、この穏やかな畑には到底似合わない。

 ラフィエル、そう呼ばれた彼女は彼の顔を見て、笑って手を振った。


「グラン、お帰り。

 魔王様はどうだった?」


「随分と疲れてたようだったからそのまま寝かせておいた」


 親友ことグランがそう言うと、彼女は先ほどまでの佇まいから想像はつかないような下品な顔でヨダレを垂らす。


「じゃあ今なら魔王様の無防備な寝顔見放題ってことです!? 今すぐ行きま」


「仕事だアホ女神」


「…どうせ、数分程度で終わる仕事じゃないですか」


 即座にグランが止めると、彼女が物凄く不満げに言うと、面倒そうにグランは説得する。


「お前のその無駄な行動で精度が落ちたらアイツ、間違いなくキレるぞ」


「最近放置されっぱなしでしたから、それもいいですね!」


「ダメだこの変態…」


 どうしようもない彼女の説得を諦めかけたが、流石に彼女も冗談よ、と言ってようやく立ち上がる。


「さてグラン、行きましょう。あの人が連れてかれた世界の同定ですよね?」


「話が早いな」


「まぁ、あんな所で帰らされてあの人も不完全燃焼でしょうし…それに、あの親子を放っておきたくはないでしょう?」


「それもそうだな」 


 二人はそんな話をして部屋を出ていき、二つの金属の足音を鳴り響かせながら、一際大きな扉の前で止まる。


「じゃあ、頑張りましょうか」


「そうだな、アイツを休ませてやらねぇと」


 二人はそんな事を話しながら扉を開けると―その先には足場もわからないような、光の空間が広がっている。

 光の先に、ぽつんと一つの水晶玉が置いてあり、二人はしっかりと足場を踏みしめながら水晶玉まで歩いていく。


「まぁ、今までずっと覗き見してたこれで逆探知かけるのは良いんだけどさ、一つ懸念点があってね」


 水晶玉に手をかざしながらラフィエルが今更話し出す。


「確かあの子―神成だっけ? あの子、もしかしたらここで覗き見てた私たちのこと感知してる可能性あるんだよね」


「お前なんで今それ言った」


 今更過ぎる言葉にグランもツッコむが、彼女は不貞腐れた子供のように言い返す。


「だってさ、この位置から空間軸にほぼ干渉してないこの力が感知されるわけないと思うじゃん!」


「でも、感知された素振りがあったんだろ?」


「まぁ、それはそう」


「報連相が足りてないだろ」


 冷静なツッコミに対し、彼女は冷静に言い返す。


「でも君に相談した所で何の解決にもならないし…」


「しれっと俺をディスるな。そろそろ泣くぞ」


 ぐうの音も出ない正論を突きつけられ、彼も言い返す言葉が見つからなくなるも、更に追い討ちする。


「やめてよね、大のオトナがみっともない」


「こいつ…!」


 グランが苛つきながら身を乗り出しそうになるが、彼は抑えて本題に戻る。


「まぁその事は良い、覗けそうか?」


「今やってるよ」


 彼女は既に水晶玉に手をかざして、その先の景色を覗き込もうとするが、水晶玉に映る景色は暗雲が立ち込めたままだ。


「…あの子、本気ぃ?」


 信じられないと言いたそうに、彼女は唸る。


「どうした? 世界を閉じられたか?」


 マクスウェルを存在を探知して、彼の行動をずっと覗き見ていた、世界を飛び抜けて映す水晶玉でさえ映せない世界。それは、最悪のパターンであった。彼女はため息混じりに説明をする。


「その通りって言いたくないけど、その線が強いかな。今までは魔王様を探知して覗き見してきたから、残ってる座標の記録使って今確認してるんだけど、何も見えないしね。

 ―閉じられてることの何が問題ってさ、私たちのいるこの"世界"だけではなく、今は魔王様が居たところ―仮に"スキルの世界"と呼んでおくけど―スキルの世界は今、外の世界全てのアクセスを遮断してるって事なんだよね」


「つまり、どうやっても侵入できないってことか?」


「侵入するには、その閉じた奴が指定した、空間の"穴"を見つけ出してそこから侵入するしかない。

 まぁ、少なくとも座標は特定できたから魔王様に報告は出来ると思うけど」


 その説明を聞くも、彼らの顔に絶望の色はない。


「あんまり、アイツに手間を掛けさせるのもなぁ。ラフィエル、穴まで調べられるか?」


「やってみる」


 即座に思考を転換し、その穴を見つけ出す作業に切り替える。水晶玉とにらめっこしながら、彼女は面倒そうに呟いた。


「でも、不思議なんだよね」


「何がだ?」


 女神の疑問にグランが聞き返すと、彼女は話し出す。


「私も聞いたことしかないけど、世界の閉鎖なんて力は、正真正銘、"形を持たない"神の力なの」


 形のない神。それは人々の空想(神話)から力を切り取られることがなく、世界の根幹により近い"力の概念"。そんな力が何故ここにあるのか、彼女には理解ができなかった。


「…なんで、そんな力がここに発現してる?」


 尤もなグランの言葉に、彼女は一つの憶測を語る。 


「一瞬でも降ろせれば、確かに使えなくはないけど…他の神と比べて根源である唯一神に近い存在だからね。生半可な精神では受け止められない筈だし。魔王様と戦っているところを見たけど、根源への知識もなさそうな感じだったし、偶然で呼び寄せたとは考えにくいんだけどなぁ。

 ―でも、それは関係ないことだよ。私たちは、魔王様の進む道を作るだけ」


「そうだな。…で、俺の手伝うことはあるか?」


「正直ない。あ、強いて言うなら話し相手になってよ。この作業、めちゃくちゃつまんないんだよね」


「…………おう」


 あいも変わらずどうしようもない扱いに、彼も泣きそうになりながらも、逆らえるはずが無いので仕方なく付き合うことにした。

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