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序章 契約が成立したからには頑張ります

※この作品の主人公はpixivにてひっそりと書いていた『王は何を為す』シリーズの主人公と同一人物です。時系列的には完結後相当な年数が経過しています。

彼の元の世界の世界観などは適宜幕間に補足を入れますが、需要があればこちらにも少し手を加えて載せようかなとは思っています。


※こちらは久々に物語を書くのでこちらはリハビリとしての作品です。比較的カロリーは低めに、一月くらいで書き切る内容を予定しています。(書き切れるとは言っていません)

こんな作品でも気に入ってくれる方がいたら幸いです。

 視界が暗転する。猛烈な目眩と吐き気が襲いかかる。きっと呼び出された影響なのだろう、と彼は無理やり納得させて、この状況を我慢することにした。


 そうして耐えること数分。視界が少しずつ明るくなり、猛烈な目眩は耐えられる程度にまで軽減された。


「こいつが呼び出されたやつか」


 ぶっきらぼうに言う低い男の声が聞こえ、彼の視界は突然開かれた。

 天井の天窓から陽の光を集め、それをガラスで反射することで灯りを確保しているのだろう。柔らかな光に照らされた部屋だった。しかし部屋自体は殺風景な石造りの密室。そして彼の足元にはやたら派手な魔方陣が書かれており、恐らくこれで召喚されたのだろうと理解した。そして、陣からは脱出を妨げるような淡い青色の膜が張られている。


「随分な術式だな。こんなに術を組み合わせなくても私を呼ぶくらいなら容易いだろうに」


 ふと、素直な感想が漏れてしまう。そこで周囲の景色にしか目を向けていなかったことを思いだし、視界から外していた目の前の人々―怪しげな黒いローブを手足どころか顔まで覆い隠すように着こんだ三人組と、その真ん中にいる、赤を基調とした礼服に身を包んだ、金髪のボブカットの二十歳前後の男に目をやった。

 彼らも召喚に集中していたのか、なにやら話し込んでいて彼の独り言は聞こえていなかったのか、若い男が代表し、素知らぬ風に話を切り出した。


「ようこそ我々の世界へ。気分はいかがかな?」


「勝手に呼び出しておいて気分がいいと思うか?」


 社交辞令に対し、いつもの癖で皮肉で返してしまい、ローブの三人組が殺気立つ。当の男も癪に触ったのか、口元をひくつかせるも平静を保ったまま会話を続けた。


「それは失礼したな。ただ、我々にも事情があって君を呼んだのだ」


「だろうな。でなければこんな大層な術式を用意しないだろう。―で、単刀直入に聞こうか。契約の詳細は?」


 彼は特に動揺した様子もなく流し、話を本題に移すと顔に警戒心が現れる。


「"こういうこと"は初めてじゃなくてな。私も友人を故郷に残しているんだ。手早く要件を済ませて帰らせてくれ」


 質問される前に彼が答えると、男はそうか、と空返事をしてローブの一人に聞いた。


「こいつの"スキル"は?」


「――、」


 何やら小声で話をしているが、彼には聞こえる大きさではなく、暇になったので座り込んで体調を確認する。


(さて、異界に召喚されたが―案の定"マナ"はない世界か。今のところ怠さと言った症状はない。そして―)


 彼らが見ていないことをいいことに己の中にある"魔力"を使用して、この部屋から遥か上方であろう場所に魔法の目を生み出す―"千里眼"を起動する。


(遠方の千里眼の起動は確認、同期も完了できた。私の魔力は問題なく使えるなら、このまま捨てられても生きるのには困ることはないな)


 何やら向こうではヒートアップしているようだが、彼は我関せずと言わんばかりに千里眼を通じての情報収集に勤しんでいた。


(ふむ、ここは何かの屋敷の一角だな。先程の態度から、この男が主か、それなりの地位にいる者で間違いないか)


 今置かれている状況を分析しているところで、わざとらしい咳払いが聞こえて彼は自分の世界から引き戻される。


「―こちらから呼んでおいて失礼なのは重々承知だが…君は我々の望んだ対象ではなかった」


「そうか。なら帰してくれ」


 主と思われる男の言葉に対して彼は淡々と返すが、男も困った風に肩をすくめた。


「こちらとしてもそうしたいのは山々だが…君を呼び出すのに使った資源も馬鹿にならなくてね。少なくとも君を返す材料を集めるのにも一月以上かかる」


「なるほど。つまり私を追い出すか、その材料集めを手伝うか選べと言うのだな」


 話の流れを理解した彼が要約すると、男も話が早くて助かるよ、と力なく笑う。


「そういうことだ。こちらとしては多少なりとも足しになる後者の方がありがたいが」


「私が重荷になるという可能性はないとでも?」


「お前の反応から少なからず、異界での処世術は身に付けていると見た。違うか?」


 彼はカマをかけたつもりだったが、男は思ったより冷静な判断をしており、少し考えた後に頷いた。


「分かった。お前の手助けをしよう。

 私は"マクスウェル"。お前は?」


 彼はマクスウェルと名乗り、相手の名前を聞くと、不思議そうに首をかしげた。


「…? お前の名前は"グラン"と聞いていたが」


「―それこそ人違いだ。グランは私と共にいた友人の名前だよ」


 マクスウェルの言葉に男は全てを理解したのか、大きなため息を吐いた。


「―理解した。我々は君の友人を召喚しようとして、君を召喚してしまったのだな」


「話の流れからして、そういうことだろうな」


 お互いに誤解の理由が分かったところで、男は思い出したように胸に手を当て、一礼してから名乗った。


「長々と失礼した。私は"パラナ"と言う。これからよろしく頼むぞ、マクスウェル。

 そして―これが契約だ」


 突如、足元の魔方陣が怪しく光り、マクスウェルを飲み込んだ。しかし、彼は声すらあげずに光を受け入れる。数秒後にその光が収まった時には、彼の左手首に鎖のような痣が刻まれていた。

 何事もなかったように痣を眺めてから、ふん、と鼻をならした。


「お前の言う"スキル"を持たない身にするには随分な制約だな。隷属とまではいかんが、行動を制限する呪いか。

 この大層な魔方陣もこの契約があるからこそか」


 確認のために、己に掛けられた術式について見解を示すと、パラナは興味深そうに問いかけた。


「お前、本当にスキルなしか? 随分とそういった術に精通しているようだが」


「無理矢理呪いを掛ける相手に答える義理はない。

 私は今でもお前との立場は対等と思っているからな。知りたいなら先にお前の情報を寄越せ」


 流石に彼も不服なのか、不満げにそう言い放つと、ずっと彼の後ろで沈黙を保っていたローブの三人が我慢できないとばかりに構える。しかしマクスウェルは面白そうにそれを眺めていた。


「何だ、やるか?」


 子供がオモチャを見つけたような、楽しげな声で挑発したのが遂に彼らの琴線に触れたのか、一斉に手を上げると同時に魔方陣が光り輝く。


「―お前ら!」


 部下の暴走にようやく気がついたパラナが、制止の声を上げたと同時にマクスウェルが一言、言い放った。


「静まれ」


 魔方陣の光が逆流し、密室の中で吸い込まれるほど強い風が吹く。

 突然の暴風に彼らは身構え―数秒後にそれが収まったところで、マクスウェルを捕らえていた魔方陣の機能を破壊されたことに気が付いた。


 ―背中まで届く、黒く長い髪。切れ長の目に瞳は蒼。目を奪われるほど整った顔に、執事のようなスーツを身に纏った褐色肌の男の頭には、人には存在しない筈のまっすぐ後ろに延びた二本の角と、体を覆う程の翼が背中から生えていた。

 魔方陣を破壊し、人ならざる姿で現れたマクスウェルは、左手を差し伸べて改めて名乗りをあげた。


「私はマクスウェル。人ではない、魔族と呼ばれる種族であり、元にいた世界では魔界の王として君臨していた。

 今は隠居生活を楽しむしがない農夫の一人だが、今も力は健在だ。―故に、よろしく頼むよ、"契約者"」


 突如召喚された元魔王マクスウェルの言葉に、パラナも改めて名乗り、その手を握り返す。


「私は、パラナ。この領地の領主代理だ。訳あって、スキル持ちを召喚しようとしていたが、この際君に頼みたいことがある。―聞いてくれるな?」


 パラナの言葉に彼は小さく笑い、頷いた。


「あぁ、聞くとも。そういう"契約"なのだろう?」


「君には別の場所で開催される闘技場を勝ち抜いて、あるスキル持ちを倒してほしい。その闘技場を勝ち抜く過程で、帰るための材料も集まっていく筈だ」


 話を聞いて違和感を感じ、マクスウェルは聞き直した。


「そいつを倒す理由は?」


「答えられない」


 パラナが即答し、何かを察したマクスウェルは楽しそうに笑う。


「答えられない、答えられないか。成る程、面白い。

 いいだろう、お前が望む通りに暴れてやる」


 それで契約成立だ、と言わんばかりに彼は手を離し、パラナと向き合う。


「ところで、その闘技場とやらの登録や試合については決まっているか?」


「登録は君自身ではなく、私の名前で登録されるから不要だ。そして明日には君の初戦がある。落ち着き次第、私の配下のものに詳しく案内させる」


 余りにも電撃的な予定の組み方に、流石のマクスウェルも若干引いてツッコミを入れた。


「何と言うかお前…なかなかとんでもないスケジュールを組むな」



人物紹介・用語説明

マクスウェル…友人ことグランとお茶を楽しんでいたときに召喚された被害者。その正体は隠居していた元魔王。見た目は三十代ほどだが実年齢は相当おじいちゃん。

異世界召喚自体は何度か経験しており、その度に色々あったが、最終的には帰ってこれたので割と落ち着いている。


パラナ…召喚した張本人であり加害者。何か秘密を隠しているようだが、本人に話す素振りはない。

領主代理と名乗っており、実際に多くの権限を持っている。

正直マクスウェルの態度は気にくわない。


魔法…マクスウェルがいた世界に伝わっている、"マナ"という不可視のエネルギーのようなものを利用した術。

マナを利用するための力は魔力と呼ばれ、どちらかが欠けてしまっては魔法は成り立たない。

彼が召喚された世界にマナは存在しないのだが、彼は種族としてマナを生成する器官を持っているため、多少のパワーダウンがあれど問題なく使用可能。



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