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後編

 リリーは罪を懺悔するかのように、彼女に起こったことを話し始めた。


「といっても……正直私もよくわかっていないのです。私の屋敷でくつろいでいたら、ウィーンゲット様が訪ねてきたのです」

「それで?」

「何故かウィーンゲット様は真新しいドレスを持っていまして『遅れてすまなかった。さあ着替えるんだ』とドレスを渡してきました」


 リリーの話に、公爵子息様は益々『わけがわからない』と困惑を強めていった。


「それは……何か約束をしていたとかではなく?」

「はい。本来、今日は特に何の予定も入っていませんでした」


 なんの約束もないまま突然訪ねてきて持ってきたドレスに着替えろ。

 ……うん、私も意味わからない状況ね。


「何を言っているんだい、僕の女神。以前から約束していたじゃないか!」


 そんな場面で口をはさんできたのは、その意味の分からない状況を作った当人であるビート。どうやら、彼の中では何かの約束があったみたいね。


「す、すいません……言い出せませんでしたが、お約束した覚えが……」

「だって、このパーティーに行きたいって!」

「え、まあ、それは公爵様の婚約パーティーとなればさぞ華やかで、一度は行ってみたいと言ったかもしれませんが……」


 リリーは恐縮した様子のままそう答えた。

 ……なんとなく、事情がわかってきたわね。


「つまり、リリーはビートから約束があったと聞かされても心当たりがなかった。でもそれを口にするのは失礼だと思い、話を合わせているうちにここに来た……ということ?」

「はい……ユーリさんのいうとおりです。お約束を忘れた、なんて失礼なことをいうわけにもいかず、ひとまずウィーンゲット様の言うとおりにドレスに着替えて馬車に乗りました。ビート様とのお約束ということなら、ユーリさんも待たせているかもしれないと思いましたので」

「それで、どこに行くともわからないままに馬車に揺られたと」

「はい……馬車の中にユーリさんがいるとばかり思っていましたが、まさかウィーンゲット様と二人っきりで乗ることになるとは思っていませんでしたが」


 ……ビートは一応私の婚約者だから、未婚の女性を同じ馬車に乗せるなどありえない。その常識と私たちの関係を考えれば、まあ馬車の中に私がいると思うのは自然な話ね。


「男性と二人っきりで馬車に乗ることになってしまって……どうしたらいいかと途方に暮れていたら、この公爵邸に……」

「え? ちょっと待って? ビートは私と一緒に来たはずなんだけど……」


 リリーの話によれば、ビートは半分誘拐じみた方法でリリーと共に来たことになる。

 しかし、ビートは私と同じ馬車で来たはずだ。そうじゃなければ会場に入れないし……。


「うん? そんなもの、お前と一回来た後馬車で引き返してリリーを迎えに行ったに決まっているだろう」


 何を当たり前のことを、と言わんばかりに言い放ったビート。

 その発言に、私たちは全員唖然とするほかなかった。


「……キミは、エスコートすべき婚約者を本当の意味でほったらかしにして一度帰ったというのか?」


 あまりにもありえないと、驚愕を隠せなくなっている公爵子息様。

 かく言う私も、流石にこれには驚きだ。最近はこうした場所に来てもすぐに一人でどこかに行ってしまうばかりだったので、私も気が付かなかった……。


「はい。しかし私がエスコートすべきは私の女神であるリリーのみ。何も問題はないでしょう?」


 愛を前にすべては正当化される……と思っているのだろうか?

 いや、その愛を捧げる対象であるリリーまで唖然とした様子を見せていることから少しは悟ってほしいんだけど……。


「頭が痛くなってきたが……レーズン男爵令嬢がこの場に来た理由はわかった。察するに、裏口からというのも彼の指示かな?」

「はい。ここがどこなのかもわからないまま途方に暮れていたら、こっちだと手を引いて気が付けば会場に……」

「伯爵子息に逆らうわけにもいかないだろうな。ここが公爵家の屋敷であり、私の婚約発表を祝うための会であったことも知らなかったと?」

「はい……事情を察したときは生きた心地がしませんでした……」


 何の説明もなく、格上の子息に誘拐同然に連れてこられたのは縁もゆかりもない大貴族の屋敷で、気が付いた時には不法侵入していました、か……私だったら胃が破裂していてもおかしくない体験だわ……。


「事情は把握した。ウィーンゲット君が何を考えているのかはさっぱりわからないが、ひとまずレーズン男爵令嬢に対してこの場で罰を、ということはないから安心してくれ。キミは被害者のようだ。入る際に暴れて犠牲者が出た……ということはないのだろう?」

「あ、ありがとうございます! もちろん、このお屋敷の方には指一本触れておりません」


 リリーはあからさまにほっとした表情で頭を下げた。

 まあ、公爵子息様の言葉一つで物理的に首を飛ばされてもおかしくはないような非常事態だったし、当然よね……。


「それで……そもそもキミを呼んだ理由なのだが、キミがそこのミラー子爵令嬢から嫌がらせを受けていた……とのことなのだが、それは真実なのだろうか?」


 公爵子息様は当初の目的に戻り、リリーへ事情聴取を行った。

 正直、私には全く身に覚えのない話。いったいどうしてビートがそんな風に思ったのか……?


 と疑問に思っていたら、何故リリーまで困惑しているのかしらね?


「嫌がらせ……ですか? えっと、身に覚えがありませんが……?」


 リリーは寝耳に水だという態度で、一切ビートの発言を肯定する気はないようだった。


「な、なにを言っているんだいリリー? キミはこの女の非道を僕に訴えかけてきたじゃないか!」

「えっと、何の話でしょうか?」


 慌てたようにビートがリリーに詰め寄るが、リリーは本気で訳が分からないという様子だった。


「ほら! いつもこいつがマナーがなっていないと細かいところを指摘してくるとか!」

「マナー……? もしかして、マナー教室でペアを組んだユーリさんと指摘しあったって話でしょうか?」

「え?」


 ……そうね、確かに私とリリーは同じマナー教室に通っているし、そこでは生徒同士でペアを組んでお互いの所作を評価しあうことがある。

 そこではどれだけ細かくとも、僅かでも気になることがあるなら全て伝えるように言われているからそりゃあまあ、お互いに細かくやってたわね。


「じゃ、じゃあ暴行を受けたという話は! ほら、全身こいつのせいで痛むと言っていたじゃないか!」

「痛む……もしかして、ダンスレッスンのお付き合いをしてもらったときに筋肉痛になったというお話のことですか?」

『ぶっ!』


 話を聞いていたギャラリーから堪えきれないという嘲笑が聞こえてきた。


 ……そりゃまあ、ダンスは結構激しい運動だ。リリーは運動系が苦手なので私に練習をお願いしに来ることがあり、私が男性パートを担当して踊ることがたまにある。

 その翌日はいつも筋肉痛で身体が痛いと愚痴っていたけど……それを暴行だと勘違いしたと?


「じゃ、じゃあ物を盗まれたという話だ! リリーがいつも付けていた髪飾りをこの女が付けていたのを僕は見たんだ!」

「ああ、髪飾りでしたら差し上げたんです」

「無理やり渡すように迫られたんだな!」

「いえ……何かの記念のときに、お互いの髪飾りを交換しましょうという話になりまして、そのときに」


 髪飾りか……確か、一緒に遊んだ時に何か記念にって思って店を巡ったんだけどしっくり来るものがなくて、じゃあお互いの持ち物をプレゼントしようってことになったのよね。

 それでリリーから髪飾りを受け取って、たまに使っているのを見たビートが勘違いして暴走したと。

 ……私が付けているのがリリーの髪飾りであることには気が付くのに、リリーの髪飾りが私の物であることには気が付かない辺りに扱いの軽さがわかるわね。


「もう結構! ……リリーシア・レーズン男爵令嬢。最後に確認しておきたいのだが……キミは、このビート・ウィーンゲット伯爵子息と不貞関係にあるのか? ここでの発言に対し、不敬その他の罪には問わないことを私の名前で約束するので、正直に話してほしい」

「――いいえ、この方に対し肉体的にも精神的にも何かを許したことはありません」


 リリーははっきりと断言した。伯爵家の人間に対して正面からの否定は本来まずいが、公爵家のお墨付きとなればもう本心を隠す必要はない。

 ……まあ、そりゃそうよね。ここまでの話を聞いている限り、ちょっとした世間話で勘違いして思い込み、暴走したビートの独り芝居って感じだろうし。


「な、なにを言うんだリリー! 僕たちは愛を誓い合った仲じゃないか!!」

「いえ、誓った覚えはありませんが……」

「そんなことはない! いつも僕のプレゼントを受け取ってくれたし、観劇に行ったり食事に行ったりしたじゃないか!」

「だって、それは……伯爵子息に一介の男爵の娘でしかない私が逆らえるわけないじゃないですか! 受け取れと命令されたら受け取るしかないですし、来いと言われて拒否するなんてできません!」


 リリーは精一杯声を張り上げた。

 その言葉に、会場中の人間の目がビートに突き刺さる。権力、権威を利用して自身より下位の女性を強引に連れまわす……恥知らずの称号を与えるのにこれ以上ない理由である。


「嘘だ……だって、キミはいつも笑って、お礼だって……」

「いくら一方的でも、そりゃ物をもらったらお礼は言うし愛想笑いくらいするだろう」

「はい……いつも私と一対一で出かけようとお誘いにくるので、そのたびにユーリさんのことはいいのかとやんわり断ってはいるのですが、なぜか『キミは優しいね。でもあんな女を気にする必要なんてないよ』と訳の分からないことを言って強引に連れ出すばかりでして。でもこんなことを婚約者であるユーリに相談するわけにもいかず、愛想笑いで場をごまかすばかりの日々でした……」


 話を聞いた第三者として率直な意見を述べた公爵子息様に同意し、そのいつもの流れとやらの補足をするリリー。

 まあ……私としては幼馴染にして親友という間柄だと思っているし、そんな関係の婚約者が自分にアプローチをかけてきて困っています、なんて気まずすぎて相談できないわよね……。一歩間違えたら血みどろの泥沼展開だし。


「勘違いストーカー男の暴走、か。本当に、今日という日をどこまでも台無しにしてくれたものだ」


 公爵子息様の怒りが頂点に達した音がした気がする。

 時間を割いて話を聞いてみれば、結局すべてはビート一人が勝手に勘違いして周りを巻き込んだだけだった。

 となれば、公爵子息様が情けをかけることはもはや心情的にも立場的にもあり得ないものとなったわけだ。


「ち、ちが! 違うのです! リリーは間違いなく私を愛している! だって、キミの方から身体を密着させてきたことだってあるじゃないか!」

「……いつのことを仰っているのかわかりませんが、おそらく馬車の中で隣に座ってきたときなど、狭かったからではないですか?」


 ……自分から密着せざるを得ない環境を用意しておいて、逃げなかったから自分に気があると思った?

 どこのセクハラおやじよ……。


「そ、それに! ほら! 手作りのお菓子を持ってきてくれたことだってあるじゃないか!」

「それは、連れ出されたとき手作りお菓子をもらっている町中のカップルを見て『自分も欲しい』と言外にアピールしてきたから仕方がなくですよ。それに、別にビート様だけに渡したわけでもありません」

「手作りお菓子……私もよくもらったわね」

「なるほど、圧力をかけられて渡さざるを得なくなったが、婚約者がいる男のために手作りの贈り物というのはまずい。そこで、ミラー嬢を含めた友人へ配った内の一つ、という形をとったわけか」


 お菓子が欲しいと隣で圧力をかけるとか、もうやっていることが物乞いじゃないの。

 我が婚約者がここまで親友に迷惑をかけていたことに気が付かなかったとか、後で私も謝っておかないと……まあ、リリーは私に悟られないようにしていたんだろうけど。


「なら……なら! 今日だって僕にお酒を持ってきてくれたりしたじゃないか!」

「……私も状況に気が付いて早く逃げたかったので……」


 酔わせて判断力を落として逃げる隙を作ろうとしたわけね。想像以上に酒癖が悪くてこんなことになっちゃったみたいだけど、余計なことを言わせないために何か食べ物飲み物を渡しておくのは子供相手には有効な手段でしょう。


「もうよい! 衛兵!」


 公爵子息様は最後の悪あがきを続けるビートを見苦しく感じたのか、いつの間にか周囲を囲っていた公爵家の兵にその身柄を取り押さえさせた。


「は、放せ! 僕が何をしたっていうんだ!」


 ビートは最後まで足掻こうと暴れるが、公爵家で雇われるほどの優秀で屈強な兵だ。

 腕力勝負で勝てるはずもなく、多勢に無勢なこともありあっという間に制圧されてしまった。


「ひとまず地下牢にでも放り込んでおけ。お前のやったことは後日正式に裁判所へと訴えを出しておこう」

「ヤメ――」

「それと、誰かウィーンゲット家へ使者として趣き、身柄の引き取りを願ってくれ」


 もはやビートのことなど視界にすら入れずに、公爵子息様は淡々と事務処理を続けた。


「さて……リリーシア・レーズン男爵令嬢」

「は、はい!」

「キミは本来ここに立ち入ってはならない招かれざる客だ。しかし、それは全て格上の権威で脅されていたためであると判断し、今回に限り不問としよう」

「え? その……よろしいのですか?」

「気にすることはない。あのような男に目をつけられ、不運だったというだけの者にいちいち罰を与えるほど私も狭量ではないよ」

「――ありがとうございます!」

「そして、もちろんミラー子爵令嬢にも罪はない。あのような男を婚約者に持ってしまったことは不運だが、今日のことに責任を感じることはないよ」


 先ほどと同様、リリーは公爵子息様へと頭を下げる。続けて、私も頭を下げた。

 限定的な処置ではなく、これにて正式に許しを得たのだ。不法侵入へ訴えを出す公爵子息様が許すといった以上、もうこの件でリリーが責められることはない。 

 私としてもほっとした……全てがなかったことになるわけではないが、公爵家からのお許しをもらえたという事実は大きい。


(一応婚約者だった男がこれだけ公衆の面前でやらかしたとなれば、私にだって火の粉が飛んで来るの確定だものねぇ……。それでも、公的に何かされる心配がなくなったのは大きい)


 そもそもの原因は、ビートをここに連れてきた私にあると言われば完全な否定は難しい。

 もしかすると、この会場の方々からは私含めて悪印象を持たれてしまった恐れがある。下手をすれば家の商売に致命的な影響が出てもおかしくはないあり得ない出来事だったのだから。


 しかし、被害者である公爵子息様当人からお許しを受けた以上、内心はともかくこのことで私を非難してくる者はいないだろうというのは数少ない救いだ。


(内心はどうだかわからないけど。あんな非常識な男の婚約者をしていたんだからきっとヤバい奴に違いない、くらいには思われていそうだし……どうなるのかなぁ、私の将来……)


 私は、私個人の未来を思い内心で深いため息を吐いた。

 もうビートとの婚約は完全に破棄となるだろう。ここまでやらかした男を身内に迎え入れたいなんて流石に誰も思わないし、そもそも明日貴族でいられるかもわからないのだから。

 となると私も婚約者を新しく見つけないといけないんだけど……悪い意味で目立ちまくってしまった私、次があるのかしら……。


「さて、これにてこの場に不釣り合いな愚か者は消えた。引き続き、宴を楽しんでいただきたい」


 とても婚約発表パーティーという雰囲気ではなくなってしまった中、公爵子息様は何とか場の空気を戻してパーティーを再開させた。

 これにて私もお役御免。というか一刻も早くこの場を離れたいと、同じく針の筵状態であるリリーの手をとって公爵子息様に挨拶だけ済ませてこそこそと会場を後にするのだった。


「本当に、お互い苦労したわね……」

「そうね……」


 馬車に向かう帰り道、二人きりになって素の自分でリリーと話す。


「これ、私次の婚約者見つかるのかしら……」

「それを言ったら私も、ですけどね。元々婚約者いなかったけど、こんなことがあったら口の悪い方々がどんな噂を広めるのやら……」


 リリーと二人、令嬢としての将来に不安しかないと乾いた笑みを浮かべるしかなかったのだった。


「……ま、私は男なんていらないけどね。ユーリにだって、男なんて必要ないのよ」

「え? 何か言った?」

「ううん? 何も言ってないよ」


 小さな声でリリーが何かつぶやいた気がしたけど、気のせいだったかと私は家に戻るべく馬車へと向かうのだった。


「私のユーリに男なんていらないんだから排除しなきゃ。次があっても何があっても……」


 視界から外れ、私の後ろについてきていたリリーがどんな表情をしているかなど気にすることもなく。


 こうして、私の悪夢のような一夜は終わりを告げた。


 当然のことながら、私とビートの婚約は白紙に戻った。

 というか、消滅した。というのも、怒りを隠さない公爵子息様はウィーンゲット伯爵家へ莫大な慰謝料請求を叩きつけたのだ。

 結局、婚約発表会は滅茶苦茶になったとして、後日やり直しということになった。その費用を全額伯爵家へ請求したのである。

 たかがパーティー一回分だと侮ってはならない。公爵家主催の、王家すら招く規模のものとなれば準備に年単位をかけるような時間的にも金銭的にも莫大なものが必要となる。

 招待客だって暇ではないのだからスケジュール調整も簡単ではなく、そのために各地の事業に遅延が生じるなど影響は計り知れない。

 となれば、最終的な損害はパーティー一回分では済まない。さすがにその全ての余波まで含めた全額請求はされないとはいえ、国中の有力貴族達から睨まれるようになった伯爵家に未来があるはずもなく、慰謝料の支払いにより財政破綻したことをきっかけに爵位すら金に換えて一族丸ごと蒸発してしまったのだ。

 ついでに、我が子爵家からも一方的な婚約破棄宣言と名誉棄損により慰謝料請求していたのでトドメに加担していたことも付け加える。


(とはいえ、新しい婚約者を早めに発見できたのはよかったわね)


 こうして、貴族でなくなり行方不明となったビートは私の人生から完全に姿を消した。

 婚約者が一族丸ごと破滅したというのは流石にその後の人生に影響があったが……なんとか新しい婚約者を見つけることに成功したのだった。

 しかし――


「すまない……家の商売が大失敗してとても結婚できる状態じゃなくなった。……婚約者ならお金くれないか?」


 結婚したら巻き込み事故で共倒れになるような人は流石に無理ですごめんなさい。


「何故か禁止薬物を持っていることがばれて逮捕された! 廃嫡されるから結婚無理だわ」


 そりゃそうですねとしか言いようがない。 


「闇賭博に通っていたら全財産むしられた! 俺借金の形に売られるから結婚できねぇ!」


 ギャンブルで破滅するような人を愛するつもりも救うつもりもありません。


「俺、男しか愛せない体になってしまったんだ……だから君を愛することはできない。もう本当の自分を隠すのは止めることにしたんだ」


 えっと……お幸せに?


 悉く、悉く婚約した相手が破滅していく。一部方向性が違う気もするけど、いずれにしても貴族のパートナーとしては使い物にならなくなってしまったのだ。

 婚約した相手が全員身体的社会的に破滅していく。

 いつしか私は『破滅フラグ令嬢』の異名をつけられ、貴族社会から完全につまはじきにされる存在になってしまったのだった……。


「大丈夫よユーリ。誰がなんといっても、私だけはあなたの傍にいるから」


 徐々に人がいなくなっていく私の周りには、ついにリリーしかいなくなってしまった。

 なぜかリリーも婚約者を作ることなくいつも私と一緒にいる。結婚できない貴族令嬢に価値などないという貴族社会においては、もはや唯一の信用できる相手といっても過言ではない。

 幸い、金銭的には余裕がある。婚約するたびに相手有責での解消となっているため、その度に多額の慰謝料が入ってくるためだ。おかげで慰謝料目当てで何かやっているんじゃないかと痛くない腹を探られる状況になり更に孤立しており、両親ももう呪われているんじゃないかと諦めてしまっているわけだが。


「結婚なんてしなくても、ずっと私と一緒にいればいいのよ」

「そうね……それも、いいかもしれないわね」


 恋も愛も捨て、友情に生きる。

 そんな人生も、もしかしたら悪くないかもしれない。


「大丈夫……愛も恋も、二人でだって何とかなるから」

「女同士でどうやってよ」


 そんな冗談を受け流しながら、私はリリーと楽しく笑うのだった……。

ジャンル:ホラーにすべきかちょっと迷いましたが、近頃はLGBTをなんちゃらって風潮が強いのでこれも恋愛ジャンルでいいかなと投稿してみました。

都合よく登場して最後にやっつけ恋愛するヒーロー?

残念ながら行方不明です。登場すらしなかったそんな存在がいるのなら、きっと今頃山に埋まっていることでしょう……。


ここで完結……でもいいんですが、最後に『裏話・リリー編』もあります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに恋愛感情ありきだけどォォ!絵面も大変麗しいケドォォ!これ!完全にホラーですゥゥゥゥーーーーッ!!!∑(ー言ー;)
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