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四話 序盤の敵じゃねえ

 死の淵を経て、ようやく能力に気づくことが出来た。


 液状化、硬質化を自由に出来る物質を操る力だ。そこそこの射程があるが、まだ制御は上手く行かない。


 能力で切った重力を強くしながら落下してきたリンゴを拾った。

 地面を大きく抉った後はどうやら普通のリンゴになるみたいだ。


 毒がないがパッチテストみたいなことをするべきなんだろうが、やり方を知らないしそんな余裕はない。


 だが、一応怖いので少しだけかじった。


「あー。リンゴだ」


 青森に住んでないのでリンゴの品種とかは全然分からないが、リンゴと全然変わらない味がする。


 口がヒリヒリすることもないし、これは大丈夫だろう。

 リンゴを食べながら、木に生っているのを切ろうとしてみた。


 この液体……名前がないと不便だな。


 液体になったり固体になったりすると言えば泥が思い浮かんだ。確か、かっこいい訳し方があったはずだ。マッドじゃなくて、ええと……思い出した!


「シルト!」


 声に出すと同時にリンゴを切った。

 そして、再び重力が強くなった。


 シルト。俺はこの物質をそう名付けた。


 次はこのシルトの性能を知りたい。


 俺はリンゴの攻撃範囲から外れた後、シルトを操作し、地面に引いた。


 上の方をクッションになるように液状にして下の方を本気で固めている。


 さて、軽い爆発を引き起こしたリンゴにどれだけ耐えられるか。


 リンゴはべチャっと音を立てるだけで特に衝撃波は無かった。


 どうやらシルトは壊れていないみたいだ。


 リンゴを持ってこさせて、今度は量の確認だ。

 放出する時も吸収する時も俺の体に戻る。どうやらシルトの発生源は俺の体っぽい。


 球体状にシルトを出し続けてみた。


 結果、大きさとしては俺も含めてさらに三人は覆えそうな量があった。


 その後もいろいろやって、シルトの事が徐々に分かって来た。


 スピードは俺のイメージ次第でいくらでも早くなりそうだ。ただ、早くすればするほど形状を整えたり正確に操作するのが難しくなる。

 最大速度で半径数十メートルは余裕で切ることが出来る。


 相手がスナイパーとかじゃなければ射程で負けることはまずないだろう。


 いろいろ検証していく内にシルトの有能性があらわになる。

 ただ、残念な事に剛鬼が見せた木を粉砕する威力はなかった。


 だが、威力不足はトリッキーさでカバーは出来るはずだ。あとは本体()のスペック次第だ。


 食事もできたし、俺はシルトで体を包んで寝た。これなら地面に触れないし虫に何かされることはないだろう。


 ――――――


「おーい。生きてる?」


 翌朝。誰かの声がして起きた。


 声のした方を見ると羊みたいなつのを生やした女が立っていた。

 女にしては少し短めの髪で染めたのか地毛なのか分からないが紫色をしている。容姿はかなり可愛い。こんな極限状態じゃなかったら警戒はしていないだろうな。


「誰だ?」

「あっ。生きてた。角ないし、魔族じゃなくて人間だよね」

「ん? ああ、そうだが」

「じゃあ、死んで」


 いきなり来た女に殺害予告をされ、訳も分からないまま俺はシルトで体を守った。


 これなら、剛鬼のパンチでも守れるだろうと思うレベルの強度がある。あのか細い腕じゃあこっちはなんのダメージもないだろう。


 そう思っていた。


「なんだと」


 いや、そんなのは見立てでしかなかった。


 俺のシルトは一撃で粉砕され、辺りに散って行った。


 すぐに地面を転がる。あの角女は俺の居た場所を踏みつけていた。

 その足が地面にめり込んだ。


 そして、地面が脈打った。


 おいおい。ここ水じゃねえぞ。


「あれ、勘がいいね」

「序盤に会う敵じゃねえな」

「序盤? よく分からないけど、まあいいや」


 あの攻撃力。受け身じゃ俺が死ぬ。

 こっちも殺すつもりで行くしかない。ただ、つもりであって殺す訳にはいかない。


 シルトで短剣を作る。


 剣術は全く分からないが、上手く行かなかったら体のどこからでも出せるシルトでカバーすればいい。


「君は簡単に壊れそうにないね」

「はあ、もっと友好的だったら嬉しかったんだがな」


 なるべく近距離戦しか出来ないように印象付ける。それで相手が油断したら射程の長い最高速の《かまいたち》で決着をつける。


 あの角女の力は剛鬼レベルかそれ以上。まだあっちも本気を出していないはずだ。

 俺は戦闘慣れこそしていないが、液状化したり固体化したりできる物質シルトというチート能力がある。作戦次第ではあの女を無力化出来るはずだ。


 ただ、チートがあるとは言え油断は出来ない。あのパンチは当たり所が悪いと致命傷になる威力がある。

 防御を意識して戦うか。


 走って近づく。


「何だあれ?」


 近づく前に女の背中から何か花火のような発光した球体が打ち上がった。


 未知の攻撃だが、様子見をする余裕はない。

 俺が近接戦をしようとしていることを見たあの女はこっちに近づいてきた。


 早い!


 身体能力はあちらが完全に上か。


 シルトで作った剣をカウンターとして横に振った。


「甘いよ」

「クソ! シルトッ!」


 剣を背面飛びで躱され、さらに不安定な体勢にも関わらず蹴りを放って来た。


 ほぼ反射的にシルトで身を守った。

 集中的に出したお陰か、前みたいに割られることはなかった。


 しかし、威力を流すことは出来ずに木に叩きつけられた。


「ぐはぁ!」


 肺の空気が一気に出た。

 体の力が抜けていくが、すぐに移動した。


 女の拳が木を貫いた。


 あっちは完全に俺を殺す気でいるみたいだ。


「戦闘慣れはしていないみたいだけど、人間にしては頑丈だねっ!」

「そりゃどうも!」


 短剣を投げた。


 ここで一気に仕掛ける。


 女が短剣に対応している隙に武器を新たに作りつつ近づく。そうすれば、あいつは武器のある俺から距離を取るはず、そこで《かまいたち》を撃ち込む。


 それに集中的に守れば、直撃でも何とかなることが分かったのは大きい。


 女が短剣を弾いた。


 それと同時に長い剣を作り、突進した。


「おっ」


 女は案の定、距離を取った。


 よし、相手はこっちに近距離攻撃しかないと思い込んでいる。

 決めるなら今だ。


 どこに当たるかは分からないが、《かまいたち》は使っている俺にすら目視不可能の攻撃だ。いくら身体能力が高がろうが回避は不可能のはずだ。


 意識を攻撃に集中させていると、嫌な予感がした。


 攻撃を止め、一気に防御をした。


()遠距離魔法《くず星(ダストスター)》」


 瞬間。花火のような爆発する物質が雨の様に降り注いだ。


 一撃でシルトのほとんどが割られた。

 直撃すれば死は免れないだろう。


 だが、落下物に対する対策はあの重力リンゴで学習している。

 それにシルトのもう一つの特性をここでフルに活用する。


 直接当たれば、重力も作用してバカみたいな威力だが、逆にそうでなければシルトで守れる。


 一度上空に飛ばしたせいか攻撃の範囲を広げる為か密度はそこまで高くはない。今の俺なら躱すのも無理じゃない。


 まずはシルトを周りに散らしたい。

 そう思い気体をイメージしてみた。すると、液体や固体にしかなれないと思っていたシルトが気体になった。


 付け焼き刃的だが、これを利用しない手はない。


 ほぼ気体にしたシルトを辺りに展開した。


 そして目を瞑る。


 感覚の共有。それがシルトのもう一つの特性だ。目を閉じて集中する必要があるが、何があるかは分かるようになる。


 気体にした状態は操作は難しい。いや、まったく操作出来ない。

 意外な弱点を見つけてしまったが、今はその弱点は気にしなくてもいい。


 探知した魔法を躱していく。

 そして、爆発した分はシルトで守って行く。徐々にシルトの展開が早くなっている気もする。


 そうして、爆撃が終わるまで耐えきった。


 土煙が辺りを包んでいる。


 あの女はあの爆撃で俺が死んだと思い込んでいるだろう。

 ……今がまたとない好機だ。


 俺は女のいた場所に向かって《かまいたち》を撃った。



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