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三五話 伏線

 目の前に真っ黒い角をした男が立っていた。

 男の周りには数十発の真っ赤かな炎の球体と数発の青い球がある。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 殺してもいいとは言われているが、どれほど関わっているか分からない以上は()()殺さないでやろう。


「シールド」


 俺はシルトで大盾を作って構えた。


 審判役の男が腕を振り下ろした。

 瞬間。炎の雨が降り注いだ。


 盾で防ぎつつ、相手の強さを見極める。――()()()()()


 こんな敵、ヴィアと修行した俺にとっては()()も同然だ。

 少し苦戦する振りをしないといけない。じゃないと、俺との対戦を避けようとするかもしれない。まだ。()()()()()()()()()()()()()


 攻撃を受け続けていると敵が少し油断した。

 ――()()()()()()()()


「フルアタック」


 ()()()()()()()剣を二つと肘に二つ。足をスパイク状の針を出した。

 そして、大袈裟おおげさに跳んだ。


「ッ!! いつの間に!」

「終わりだ」


 俺は背後から剣を軽く当てた。


「勝負あり」


 周りが騒ぎ始めた。


「あいつの師匠って確か……」

「執行卿ゲルバルド様」


 誰かがそう言った。執行卿。それがゲルバルドさんの二つ名だった。

 人間よりも魔族を殺したとまで言われ、恐れられた男だ。


「魔王法特別処置規定に基づき、裏切り者を粛清する」


 俺は刃で敵の喉元を掻き切った。

 大量の血が地面に溢れ、切られた敵は止血をしようとしたがすべてが遅く、倒れることしかできなかった。


 観客たちがまたうるさくなった。今度は悲鳴の方向でだ。

 非難の声や抗議の声が怒声となって混じっている。


 俺は首輪を見せつけた。


 ちゃんと分かる奴らには伝わったみたいで、一部の声がなくなった。


「奴隷が殺しをしても魔王様に咎められていないということは、これは魔王様が認めているということだ。抗議は反逆と同義となるぞ」


 だれかが解説を挟んでくれたお陰で一部以外の声がなくなった。


「魔王様! これはどういうことですか!? 私の部下が死んだのです。説明を!」


 VIP席にいたネイルレンドが声を上げた。


「我は思うのだ。人間にすら勝てぬ者に価値などあるかと」

「うっ。しかし! 我らには議会があり法律があります。それを破られると――」

「それもそうだな。我に許されているのは対戦表を変える事と観戦しかない。だが、その人間にはどれだけ勝ったとしても奴隷の身分がついて回り、奪った役職は次の試合が終わる時にははく奪される。あと、法律は、ネフィーロット」

「魔王法特別処置規定『奴隷身分の者が外患に関与した疑いがある場合。殺害してもよい』。数百年前に議会が定めた法律にそう書いてあります。つまり、現在、魔王様を含めすべての魔族が内通者としての疑いがある今、奴隷に人権はありません」

「だそうだ。死にたくなかったらその人間に勝てばいいだけだ。高貴な血を持つ者はなんとやらだったな。我に貴様の能力を示せ」


 二人が真面目に話すとこんな威圧になるんだな。


「しょ、承知致しました」

「では今後の対戦表を公開する!」


 トーナメント表が張り出された。

 それは俺の逆シードのトーナメント。道中はすべて内通者と確定しつつも地位や証拠不足で捕まえられない奴らだけだ。


「こ、これは。あまりに理不尽なのでは?」

「身分は徐々に上げなくてはならない。奴隷が入るとどうしてもこうなってしまうだろう」

「い、いえ。ではなぜ、私の派閥の者ばかりがこの表に入っているのですか?」

「それは我の決めた対戦表に文句があるということか?」

「いえ! 滅相もございません!」


 明らかに慌てている。それもそうだろう。裏切り者だと断定されて実質晒上げられているんだ。仮に俺を殺せたとしてもダメージは変わらない。


「だが、我も同じ人間の試合ばかりを見るのも楽しくない。よって、乱入したい者は自由にしても良い。ただし、生死の保証はできないがな」


 一斉に掛かって来てもいいぞというある意味挑発である。


「そうですか。では早く試合を終わらせなくてはなりませんな」


 複数の敵が出て来た。

 小手調べをするつもりか。


「試合開始!」


 審判は訳も分からず、試合を始めた。


「《かまいたち・》」


 全員の首をターゲットにした。

 高速の刃が寸分違わず、標的とした魔族の首を切断した。


「しょ、勝負あり!」


 会場が凍り付いた。


「なんだあの男! 化け物じゃないか!」


 俺はネイルレンドを見た。


「そこまで死にたいのか。いいだろう。私が直接相手をしてやろう。おい! 全員防御魔法を使え。俺の魔法を放つ準備を手伝え」


 それを挑発と受け取ったのか、四天王は部下を全員連れ闘技場に降りて来た。、


 あいつらは俺の強さを見て油断を止め、魔法を事前に準備してきた。


「これを使えば、邪竜を復活させたことが知られてしまうが、四天王権限があれば咎められはしない。全員《邪竜の精髄》を飲め」


 全員が薬を飲みこんだ。

 すると、奴らの背中から悪魔の翼とはまた違った変な翼が生えた。


「疑似的とはいえ、これだけの悪魔憑きを生み出せるとは。お前に勝ち目はないぞ」


 魔法の大きさが先ほどの倍ほどになった。


「ハハハッ。これが始祖の炎だ! お前には分かるまい。この炎の偉大さを!」


 ネイルレンドは真っ白の炎を出した。


「試合開始!」


 開始と同時に真っ赤な炎が迫って来た。


「喰らえ《イタチザメ》」


 俺は片手からサメを作り、炎を食べさせた。


「はぁ!? 俺様の炎が! どこに行った!」

「そんなに気になるか? じゃあ、お前に帰すぞ。ぜよ《イタチザメ》」


 敵陣のど真ん中にサメを落とし、接続を切った。


 操作を失ったシルトは得たエネルギーを無差別に放出する。

 爆発は闘技場内全部を射程に収めた。


 闘技場に残った敵の防御をすべて破壊し、蹴散らした。

 ヴィアの結界によって観客は守られたが、俺以外の戦っていた人間は肉片を地面に散らすだけしかできなかった。


 ただ、大将のネイルレンドだけはボロボロになりながらも息をしていた。


「く、くるな!」

「悪いが、お前に楽に死ぬ権利はない」


 剣を突き付けた。


「勝負あり!」

「これで、お前の身分は奴隷になる。強さがすべての魔族で俺より下はない。お前が傷つけたゲルバルドさんや孤児院の子どもたちに懺悔しながら苦しめ」

「こんなはずじゃ……」


 すべてを悟ったネイルレンドは何かを大量に服用した。


 すると、背中の翼が二対に増えた。


「ハハハ! 俺様は二枚持ち(ダブル)になったぞ! これならば、魔王といえど手出しは出来まい――」

「《魂魄切り(ソウルスライサー)》」


 天使や悪魔の翼には実態はない。だが、俺はそう言ったモノも切ったことがある。その時の記憶があれば一度でいい。


「な、お、俺様の翼が! な、ない! 力が、ない!」


 土台がしっかりあれば翼を切られた程度で力を失いはしない。薬で手に入れた力を馴染ませずに使うからこういう事になる。


 あとはネフィーに任せる。これで魔族側の裏切り者をほとんど始末した。


「席取りの最中ではあるが、一つ。重大な事実が発覚した」


 魔王が声を上げた。


「邪竜が復活を果たした。これからの席取りは邪竜討伐の功績で決めることとする」


 まだ残っている内通者の始末と邪竜の討伐を同時にする。


「では、詳しい情報については後日掲示を行う。今回の対象者は席取りに参加予定の者全員だ。くれぐれも逃げるでないぞ」


 俺の復讐はもう少しだけ続く。



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