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三三話 格の違い

 アタック形態で俺は敵に突っ込んでいった。


「撃ち殺す」


 バーンスラストによるエネルギーを纏った小さい弾丸が俺に向かって放たれた。スピードは銃の弾丸よりは少し遅い。

 避ければ、後ろのドームに当たる。ここは受けるしかない。


 俺はイタチザメで刃の表面を液状に変え、弾を切った。


 俺が一歩近づく度に三つほど弾が作られ、射出される。マシンガンよりも連射性能はない。

 これならいける。


 そう思ったのも束の間。


「チッ!」


 左腕が動かなくなった。肩を撃ち抜かれた影響が出てしまった。

 その様子を見た男は骸骨が先端についた悪趣味な棒を取り出した。


「言っただろう。第二第三の矢を放つと」


 真っ黒に染まる棒を見て俺は、この前の戦闘を思い出した。

 聖具。特殊能力を持つ武器。


「ぐっ。肩が」


 身構えたが意味はなく、怪我をした場所に激痛が走った。


「こいつは傷口を腐らせる毒をばらまく能力がある。すぐに切り落とさないと死ぬぞ」

「……そうか」


 男が距離を取った。俺が死ぬのを待つことにしたのか。


 こっから勝つためには。俺も覚悟をしないといけないみたいだな。


 俺は腐り始めた左腕を()()()()()()


「惜しい! 惜しいぞ! 貴様がこちら側についていれば計画は数年は前倒しにできただろう!」

「クソがぁ! 返せよ俺の腕!」 


 うるせぇな。かなりキツイんだぞ。

 戦っていて痛みに鈍くなっているはずなのに、とんでもなく痛いし、喪失感が半端じゃない。


 だが、俺は諦めるつもりはない。


 切断した腕を怒りに任せ、敵に投げた。


「残念だが、いくら傷を覆っても聖具による毒は進行する。貴様の負けだ。下手な足掻きは止めておけ」


 俺の腕を敵は体を傾けて躱した。


「敵ではあったが、その覚悟と力は賞賛されるべきものだ。混沌が世界を包んだ暁には果敢な男だったと後世に伝えてやろう」


 勝った気でいるのか。


「俺はなぁ、最強の能力を持っている訳じゃない。シルトなんて微妙な力しかない。だが、守ると決めたモノは絶対守る。これが俺だ!」

「なっ!」


 男の背後から、《かまいたち》が飛んで行った。

 刃は男の足の健を切り裂き、立つことを不可能にさせた。


「切り落とした左腕から攻撃したのか。正気の沙汰じゃねぇ!」

「じゃあ、俺は正気じゃないって事だ」

「く、来るなッ! そうだ、お前を邪神教の――」


 敵の糸よりも俺の拳の方が早かった。


「これで、俺のかち――」


 敵が倒れるのと同時に俺も倒れた。


 出血と腐敗によって俺の体は限界に達したみたいだ。だが、こいつを抑えればミヤを守ることができる。

 むしろ代償がこの程度で済んでよかったと考えるべきか。


「あははははっ! ラッセルの奴負けちゃったんだぁ! まっ! ()()()()()には勝てるわけないよねー!」


 急に女の甲高かんだかい笑い声が聞こえた。


「せっかく最上位の聖具もあげたのにね。あっ。すごい魂の子にお知らせなんだけど、竜人の子の血はもう採取しちゃいましたー」

「は?」


 女が俺の目の前で血の入った小さな瓶を揺らした。


「あっと、安心して! 影響がない範囲かつ全く痛くない方法で採取しただけだから本人も気づいていないと思うから。ほら、邪竜を復活させないと()()()()()からさ。じゃ、私は干渉しすぎると罰を受けちゃうから帰るね」

「お前は誰だ!」


 吐血しながらも俺は叫んだ。


「ほんとは言っちゃいけないんだけどね。私はあなたが愛すべき存在の下僕。この世界を超越した存在だよ。あっ。気を失っちゃってる。さっきの叫びと威圧が最後の力だったんだね。魂も肉体の質も高いなんて少し嫉妬しちゃうや。じゃあね。選ばれし魂くん」


 ――――――


 その日、魔王城のある町、魔都の約三割が崩壊した。


 天使憑き三人の襲撃に対し、魔族側の功績は敵一人の捕縛のみという結果に終わった。

 魔王直属部隊の到着が遅れ、多大な被害を及ぼした。兵士以外の人的被害は少なかったものの、建物等の経済的な被害は大きく爪痕を残している。


「内通者がいるのは確実ね。議会の反応が()()()()せいでリンネちゃんたちが現場に行くのが遅れちゃったもの」

「そんなことはどうでもいい! 我は――」

「魔王ちゃん。大声はダメよ」


 孤児院にて、死にかけの人間が発見された。

 片腕はなく、大きな傷口には腐食を始めており、いつ死んでも可笑しくないレベルの重体であった。魔王の奴隷という身分であったため、魔王城に送られた。


「子どもたちが全員無事だったということは、お兄ちゃんは子どもたちを守り切ったのだな。まだ意識は戻っていない。我にもっと強い回復能力があれば……」

「魔王ちゃんは戦闘特化で、軽傷までしか治せないのは仕方がないわ。今は新しい回復役に任せるしかないわ。私たちにできるのは敵をはっきりさせることよ」

「そうだな。幸いリンネが捉えた捕虜がいる。そやつから情報を得られればいいが……」


 次の日、天使憑きの捕虜が服毒自殺した。


「どうなっておる! 我の《鬼枷》に捕まった者は自殺すら出来なくなる! 誰かが毒を飲ませたな!」

「犯人は分かり切っているわ。四天王のネイルレンドよ。権限を使って捕虜に会っていたわ」

「……我は少し休む。我が魔王でさえなければ、疑わしい輩を全員殺してやったものの」

「ケントくんの所に行くのね。私はもう少し打つ手がないか考えてみるわ」


 魔王は玉座から出て、医務室に向かった。医務室には魔王が作成した結界が張り巡らされており、どんな存在も寄り付けないように厳重に防御されていた。


「ケントの調子はどうだ?」


 医務室は窯の中のような灼熱の炎が包み込まれていた。エンテの能力《不死蝶の焔》によるもので、魔王の皮膚すらも若干のダメージが与えられていた。


「魔王様! ケントの腕が生えました!」

「それはまことか!?」

「はい! リンネの魔力を貰いながら回復をさせていたのですが、それ以上にケント自身の再生能力がヒトの枠を超えています!」

「ならば、明日には目を覚ますのか!?」


 その言葉にエンテは口をつぐんだ。


「それが、腐食毒の影響があり……」

「そうか。薬の使用は一切の躊躇はするな。議会の老害どもが何を言おうとも我が相手をする」

「分かりました! 必ずケントを目覚めさせます!」


 窯の蝶たちの動きがより一層激しくなった。


「我は我の戦いをしなくてはな」


 魔王はその足で議会に向かって歩いていった。



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