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三二話 竜人と邪竜

「あの子、竜人だよね」


 リンネがそう言った。

 勿論、俺は竜人なんて知らない。だが、前の世界の知識から考えるに角と鱗からして竜人という可能性は十分に考えられる。


 だが、リンネの驚き具合からこの世界の住人でも竜人は珍しい存在であることは分かる。


「竜人はそんなに珍しいのか?」

「うん。だって、最近、絶滅したって聞いたよ」


 絶滅か。

 その話だけでも、ミヤはかなりつらい運命を背負っていることが分かる。


「邪神の眷属である邪竜を封印する過程でみんな死んだって」

「そうか。だから、ミヤが狙われているのか」


 絶滅種の血統。これだけでも狙われる要因に成り得る。

 いくら、ゲルバルドさんが管理をしていたとはいえ孤児院に預けていい子じゃない。それこそ、魔王城で厳重に保護されていても不思議じゃない。


「魔王様が魔王直属部隊である私たちを出張らせたのは、どの四天王派閥にも所属していない私たちにしかあの子を守れないからなんだね。ちょっと疑問が解決した気がするよ」


 四天王派閥。炎を出す野郎以外にも面倒な敵が多いっぽいな。

 だが、実質的に魔王が直接対処をしている以上、あいつらでも容易には手出しはできないはずだ。


 それになにより、ここにいる三人は魔族の中でもトップ層の実力を持っている。それこそ、あの洗脳の神のようなイレギュラーさえ来なければ……


 カンカンカンカン!


 どこかから火事でも起きたのか、甲高い金属音が響いた。

 それと同時に三人が動いた。


「みんな避難して!」

「子どもたちはドームの中に入って!」


 避難行動を始めたということは、この鐘は緊急事態を伝える音か!


「ケントはここで子どもたちを守っていて、私たちは魔王城に行ってくる!」


 ――――――


 城壁にて。


 顔を隠した四人の集団が崩壊した城壁の前に立っていた。

 四人の内三人は天使の翼を持っている。


「お前たち天使憑きは分かれて出て来た奴らの相手をしろ。内通者が三人の強者を外に出す。そいつらは足止めでいい。俺は竜人のガキを攫ってくる」

「「「「了解!」」」

「すべては邪神様の世のために」

「「「すべては邪神様の世のために!」」」


 翼を持たない男が命令を出すと、三人は散っていった。


「混沌派の思想こそ、邪神様の願い。協調派に世界の混沌を見せてやる」


 男は町の中に消えていった。


 ――――――


 緊急事態で、魔王直属部隊の三人はリンネが敵から《コピー》した転移で魔王城に行ってしまった。


 子供たちを守るのはカイトが作ったドームと数体のゴーレム。そして、俺しかいない。

 普通ならパニックになっても可笑しくない状況なのに子どもたちはソワソワするだけで、冷静さを保っている。


 このドームの強度を信用しているのか、俺の強さを信用しているのか。後者だと嬉しいが、今はどちらでもいい。子どもたちを不安にさせないことが俺の仕事だ。


 町の中では大人の魔族たちが大慌てでどこかに避難している。


 どんな事態かは周りの大人たちの会話で分かった。


 襲撃者。城壁が一撃で壊された。天使憑きが三人。


 天使憑きが三人いる事がこれほどの警報を鳴らす要因になったのだろう。


「土のドームに強化ゴーレムか」

「誰だお前。魔族じゃないな」

「人間? 天使憑きでも悪魔憑きでもない。ただの雑魚か」


 俺の前に貴族の様なきっちりした格好の男が現れた。俺より年上で、威圧感を感じる顔をしている。

 男が、手を上げた。


「ッ! シールド!」


 《見通す目(オールシーカー)》でか細いながらも強力な力を見た俺は咄嗟に盾を構えた。


 次の瞬間、盾に斬撃の跡がくっきりと残った。


 敵も俺の互いに能力を察した。


「まさか、こんな所で同じ能力を持つモノに会うとはな」


 あの男は指先から《シルト》を出していた。

 糸鋸いとのことように強靭かつ糸状にし、ギザギザをつけたシルトを使っている。


 あの細さと構造の複雑さ。俺には真似できない芸当の技だ。

 そして、この威力。


「今の攻防で分かっただろう。お前は俺には勝てない」

「……」


 こいつ。強い。


「俺は邪神教混沌派。大司祭のラッセル・ルインド。その土の壁の中にいる竜人を奪いに来た。いい提案をしよう。お前、邪神教に入れ。俺たちで世界を変えようじゃないか」


 目的はミヤか!

 なら、ここは絶対に通すわけにはいかない。


「確かにお前は強い。俺を殺して目的を達成する力がある。だがな、お前の提案はすべて断る」


 男の目が変わった。

 しかし、それは怒りなどではなく同情。俺をあわれむような目だった。


「この世の中で生きていくには魔法を使えないとあまりに不利だ。魔法が使えないというだけで上に上がることは出来なくなる。お前がどこから来たかは知らない。だが、魔族に拾われ、奴隷にされた時点でお前は捨てられて来たんだろ」


 俺の首輪を見て奴隷だと判断したのか。


 シルトはこの世界だと、魔法の使えない魔力という扱いだ。人間の社会は知らなかったが魔法を使えないということは肩身の狭い思いをする羽目になるのか。


「世界を変える為には同胞である邪竜の力が必要だ。邪竜の封印を開放する為に竜人の子の血液が要る。なに、命を取ったりはしない。だから、我らと手を組め!」


 なるほどな。こいつらがミヤを狙うのは封印された邪竜を解き放つためか。


「残念だが、興味はないな。俺は強い奴と戦いだけなんでな」


 一番厄介なのが子どもたちを人質に取られることだ。今のうちに人質としての価値を下げる。


「そうか……なら、死ぬしかないな!」


 男は指先から糸を出し、横薙よこないだ。

 シールドを貫通しかけたが、なんとか糸が俺に届くことはなかった。


「ゴーレムどもが邪魔だな」


 ケントの作ったゴーレムが斬られては再生をしている。糸がゴーレムによって減衰していなかったら俺は切られていたかもしれない。


 糸を武器として使う奴は記憶にない。だが、さっきの攻防である程度の弱点を見つけた。


「人を殺せても、血を出さない物体には弱いんだろ。そんな細い糸じゃ硬い物を切断するのに相当なエネルギーを要する。ゴーレムはお前の天敵だな」

「初手の時もそうだったが、勘がいいみたいだな。お前を救済できないことが心残りだ」


 男はゴーレムの方を見つつも、手を適当に動かすだけで何もしていない。


「先に言っておくが、小細工は通用しない」


 足からシルトの刃を出し、地中を攻撃した。


「それにも気づくか」


 男がやっていたのは地中からシルトを伸ばし、子どもたちに手を伸ばそうとしていた。

 土の動きに敏感な俺だから気づけた。


「そうか。お前は邪神様の保護を拒むのだな。なら仕方がない。邪神様の権能お借りします」


 男が空中で糸を振り回し、それが徐々に球体になっていく。

 《見通す目(オールシーカー)》はこの糸たちの力の増幅を感知していた。


 エネルギーは徐々に強くなり、リンネの《爆星ビーバレット》と同格の威力を誇る塊に変化した。ドームは勿論ここら一帯が吹っ飛ぶエネルギーだ。


「これを避ければこの町はどうなるか分かるか?」


 こいつ。俺に回避をさせないつもりだな。


「やってみろよ!」

「その虚勢がいつまで持つか。《バーンスラスト》!」


 エネルギーの塊が俺を目掛けて落ちて来た。


 思い出したシルトのもう一つの性質を使う時が来たな。


「喰らえ。《イタチザメ》!」


 両手から巨大なサメのアギトを作り、バーンスラストに噛みついた。


「爆発しろ!」

「そうはならない」


 サメの歯は()()のシルトで出来ている。


「液体のシルトは力を緩衝し、吸収する」


 エネルギーの塊は嚙み切られ、爆発はしなかった。

 これで、相手の手札を完璧に破った――


「お前相手に油断はもうしない。だから、第二第三の矢は既に放っている」


 ……これ以上、手札があるというのか。


「は? いつの間に俺の肩に攻撃を」


 傷を認識した途端、肩に痛みが走った。

 あいつ。大技を止めている最中に俺の方に小さいバーンスラストを放っていたのか。


「心臓を狙ったつもりだったが、制御が少し難しい」

「防戦一方じゃ、お前には勝てないみたいだな。アタック」


 防御を捨て、俺は両手にシルトの短剣を握った。



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