三十話 元の世界にて2
「とりあえず、この一番偉そうなおっさんを洗脳しろ」
「はいはい。ちょっと設定とか考えるから待って――」
扉がノックもなしに開き、兵士の男が入って来た。
「も、申し上げます。強化ゴーレムの被害が甚大! 副聖騎士長も負傷し、陣形が――」
「ゴーレムか。面白い。案内しろ」
「はい洗脳。この子は僕たちを異世界から召喚された勇者で、周りのおっさんたちは召喚の衝撃で倒れたと思い込んでいるよ」
「承知しました勇者様!」
この世界のゴーレムの質を見てやろう。
少し離れた森の中で、ゴーレムと人間たちが戦っていた。
「これは一方的だね。もしかして君のゴーレムよりも強いんじゃないかな?」
「……そうかもな」
人間の2倍ほどの体躯のゴーレムが俊敏な動きで人間を蹴散らしている。スピード、パワー、耐久性。これらすべてにおいては俺のゴーレムの方が何倍も強い。だが、一点俺には再現が難しい所がある。
「あの動きは人間が操作しているみたいに複雑な動作を組み合わせている。出力はそれなりだが命令系統は俺の負けだな。少し興味がある」
戦場に出ると周りが煩くなった。
「お前は誰だ!?」
一番高価そうな装備をしている男の所に笹岡を連れて行き、洗脳を施させた。
「この方たちは勇者様だ! 道を開けろ!」
この一声でゴーレムまでの道が一気に開けた。
それと同時に俺の所までゴーレムの核を串刺しにした土の触手を伸ばした。
核を失ったゴーレムは動かなくなる。これで勝ちだ。
「ふーん。これが核か。なるほど、霊か」
なんとなく分かる。これは邪法かその類のものだ。戦士か何かの魂を無理やり核に詰め込んで操作させている。
こんなやり方をすれば霊どもは輪廻の輪に戻れず、世界を不安定にさせる要因になる。
あっちの世界で死霊術師みたいな奴が、世界を滅茶滅茶にしかけたらしいが、俺が気付く前にあいつによって改心させられて、ギリギリの所で留まったらしい。
今じゃ、その死霊術師は成仏できない魂を導くロボットみたいなことをしていると聞いた。
このゴーレムを作った奴は少し気になるな。
「こっからの計画はあるんですか? 最強さん」
周りがやけに静かだと思ったら、急に現れた俺が苦戦していたゴーレムを倒したことで唖然としてた。
「これが勇者の力だ」
そういって核を掲げると兵士たちは雄叫びを上げた。
――――――
俺たちは玉座っぽい場所につれて来られた。奥に巨大な女神の像がある所から宗教的な国家であることが分かる。玉座っぽい所に座っているのが聖王と言った所か。
通路の端には偉そうな奴らが並んでいる。国の重鎮をこんな感じに並べるということは俺たちはかなり高位な存在として扱われている様だな。
「勇者様。よくぞ、おいでなさってくれた」
「俺たちは魔王を倒せばいいんだろ。任せろ」
「これはありがたき幸せ。勇者様の為に仲間の一人である聖女をご用意致しました。何なりとお使いください」
ピンク色の髪をした女が重鎮の列から出て来た。
「すごい可愛い子じゃん。僕は結構好みかも」
「バカが、洗脳能力者が精神攻撃を抵抗もなく受け入れるな」
「え? そんなはずは。あっ。確かに変だ。可愛いのは確かだけど僕の趣味じゃない」
この世界の法則とこっちの世界の法則は少し違うみたいだな。
トップレベルの洗脳能力者がこの程度の小物に出し抜かれるとはな。まあ、とりあえず、初対面で魅了みたいな能力を使った女は信用できない。
だが、こいつらはまだ使い所がある。関係を壊すわけにはいかない。
重鎮の列を見てみると、一人いい女が立っていた。
「こいつも貰って行っていくぞ」
「……え? わ、私ですか?」
眼鏡をかけていて、オドオドしている女。こいつ知性を感じる。
「この者はただの書庫管理人ですが」
「だから必要だ」
「勇者様がそこまで仰るのであればこの者は喜んで同行致しましょう」
「えっ。あの本の管理が――いえ、勇者様に同行いたします」
拒否権がないことに気付いた女は諦めた。
「俺はカオルだ。お前は?」
「わ、私は」
「お前は司書子だ。いいな」
「え、あ、はい」
「よし、じゃあ行くか」
諦めの早い女は嫌いじゃない。
「俺は勇者一色薫! 勇者笹岡梨乃と共に魔王を倒すぞ!」
有名になればこの世界に召喚された三人は俺たちを探せるだろう。
「俺たちは魔王を恐れない! そっちから来ても返り討ちにしてやる」
――――――
すぐに出発しようと思ったが、民衆に顔を見せる為のイベントが催されるらしく、足止めを食らった。
俺たちは司書子を含めて三人で用意された部屋にいる。
「あの、勇者様。なぜ私なんかを仲間に選んだのですか?」
「ああ。そうだったな。お前は抱き枕だ。それ以上の活躍は期待していない」
「だ、抱き枕ですか!?」
「そうだ。身長も丁度いいし、魔王を倒すまでは交換しなくてもいいだろ」
これで役割を教えたし、いいか。
「君、こんな感じの子が好みなの?」
「オペ子に似ているしな。頭が良ければそれでいい」
「あの大桐さんね。うちのケイも憧れているほどの頭脳の人ね。っていうことは、君は大桐さんを抱き枕にして寝ているってこと?」
「それがどうした?」
「いや、まあ。君だからいっか」
抱き枕があった方が寝やすいから抱き枕にしているだけだが、まあいい。
「所で、君は魔王を倒せるの? 下手に喧嘩を売って勝てないとかないよね」
「まあ楽勝だろうな。俺の能力はそういう力だ」
「流石。じゃあ、後は僕たちのお友達が死んでなくて、人のいる所にいることを願うだけだね」
「そうだな」
健人の奴は死なない。というか死ぬことができない様な人間だ。俺が少し放置した所で、問題にはならないだろう。
だが、笹岡の探している奴らは違う。
「あの、もしかして、探し人ですか?」
「そうだ。本当は魔王討伐なんて興味はない」
「そ、そうですか。いえ、多分違うかもしれませんが、白髪の魔法狂とか違いませんか? 最近急に現れて、自分を異世界の神って言っているらしくて……」
「あー! ケイちゃん。やっちゃったか!」
笹岡が頭を抱えた。
「それは間違いなく、うちの子だ。ボクがいないと力を使う度に傲慢になっちゃうから。その異世界の神ちゃんが今、どこにいるか分かるかな?」
「魔王城の通り道にある町にいるそうです。案内はできます」
「なるほどな」
話の区切りがついた所で、聖女の女が入って来た。
「勇者様。私の目を見て下さい」
「悪いが、どんな方法を使おうと俺の精神に影響を及ぼすことはできない」
「そ、そんなはずは――」
「それで、これはお返し」
笹岡が聖女に触れた。
「お姉さま! 私はなんて愚かなことをしてしまったのでしょうか。申し訳ございません」
「分かればいいんだよ」
どんな策略、計略があろうともねじ伏せる能力。それが洗脳能力だ。俺はこういった類の能力は持っていない。
「案外、相性いいかもな」
「流石に君と一緒にいるのはこれきりにしたいなー」
振られたが、まあどうでもいい。
折角の異世界だし、俺は少し遊んでみるか。