二九話 元の世界にて1
俺は一色薫。世界能力者ランキングで断トツでトップということになっている。名実ともに最強の男だ。
どんな個人、組織も俺の足元にも及ばない。だが、そんな俺にもたった一人だけ、俺を黒星を挙げさせた男がいる。
それが里川健人という男だ。昔は対立したこともあるが、今では心の友達ともいえる関係性だ。
今日は、そんな健人の妹である恵ちゃんから電話が掛かって来た。
『一色さん。うちの兄がそちらに行っていませんか?」
「いや、来てないぞ。どうした? あのバカがまた問題に首でも突っ込んだのか?」
『そうですか。一昨日から帰って来てなくて……』
「分かった。俺が探してみる。まあ、恵ちゃんが心配することはないよ。あいつはそう易々とくたばる男じゃねえからな」
『ありがとうございます』
ったく。あいつはあんな可愛い妹に心配されていい身分だな。一発殴りに行ってやるか。
「オペ子! 健人の奴が行方不明だそうだ。町の監視カメラを調べてくれ。俺はゴーレムで森の中とかを探してみる」
俺の相棒で機械に強い女であるサポーターのオペ子に捜索の協力を頼んだ。
「けんと? 誰かなそれは?」
「いや、お前も会ったことあるだろ。俺が唯一認めた男だ」
「えっ。薫が認める人って、そんな化け物がいるの?」
ん? これは一気にきな臭くなった。オペ子の記憶はハードディスクよりも信用できる。そのオペ子が何度も会った男の存在を忘れるはずがない。
広範囲に適応される記憶操作関係の能力の影響下に入った可能性がある。
「記憶を洗い出せ。俺が世界に協力するようになったきっかけ関連。一人、人物が抜けているはずだ」
「うん」
俺の推測は世界そのものを対象とした《洗脳》だ。オペ子のみを対象とすることは出来ない。というか俺がさせない。なら、考えられるのは無差別な記憶の操作と考えるしかない。
「確かに、薫が言う通り意図的に記憶が捏造されている所があるみたい」
「あいつのいる地区。慶統高校周辺に関する怪しい情報を集めておけ。俺は少し専門家に会って来る」
――――――
「……という訳で、世界トップの洗脳能力者のお前の所に来た。何か知っていることを話せ」
俺は洗脳の能力者である世界二位のチームを率いる『アブソリュート』のリーダーである笹岡梨乃に会いに来た。
「アポ無しで来たってことは、疑われているんだよね。心外だなぁ! そんなの知っている訳がないよね。その薫とかいう奴は知り合いでもなんでもないよ。それに僕は対象に触れなきゃ能力を使えないの。これでも破格の能力設定なんだから、これ以上の人がいたら、もうとっくの昔に頂点に立っているよね。それよりも、うちの子たちを知らない? 坪川と角田。あなたとも面識があると思うけど」
まあ、こいつは犯人じゃないのは分かっていた。洗脳能力者として何か抵抗していないか気になっただけだ。どうやら無駄骨だったみたいだな。
それで、笹岡の言っていた坪川と角田? については薄っすら記憶に残っている。
「あの白髪の女と筋肉だけでかい男だろ。お前ん所の看板じゃねえか」
「覚えているんだ。僕の友達なんだ。何か手がかりは持っていないかい?」
「待て待て。もしかして、そっちも失踪したのか?」
「そうなんだ。昨日からあの二人の事を僕以外が覚えていなかったんだ」
なるほどな。こいつに親しかった人間だけはかろうじて記憶が残っているみたいな感じだな。洗脳系最強だけあって多少の抵抗力はあるみたいだな。さっき俺の推測はある意味正しかったともいえる。
「こっちと同じ状況だな。なら、話は早い。あいつらの共通点は慶統高校だ。それ以上の深い接点は奴らにはないはずだ。その坪川って女は巨大組織に狙われていたとか面倒な隠し事があったりする訳じゃねえだろ。もしあったら、ややこしい事になるが」
「いや、そんなことはないはず。とにかく、聞き込みに行こう」
洗脳能力者の聞き込みか。これは俺ひとりで行動するよりも期待できそうだ。
俺たちは高校周辺にて聞き込みを行った。法律やらを完全に無視した洗脳聞き込みを行った結果としては誰もあいつらの事を覚えていなかったことだ。
「どうしよう。完全にお手上げかも。うちの二人はかなり目立つ子だったから誰も知らないということはないとは思うのに。多分、神とか世界の法則とかそういうのに消されたのかもしれないね」
「そうか。神か……」
「もしかして、神にコネクションがあるとか? 《神に愛されし人類》さん」
「ああ。あるにはある。少し聞いてみるか」
神になら少しツテがある。
あまり役に立たないが、神が関連している問題ならある程度話してくれるはずだ。
「少し意識を飛ばすが、変なことはするなよ。まあ、お前程度じゃなにも出来ないだろうがな」
「うわ。皮肉がすごいね。まあ、君とは敵対するつもりはないから」
――――――
「ということでお前は何か知っているか?」
目の前にいるのは女神なのだが、見た目はあいつの妹の恵ちゃんそっくりだ。
「うん。知ってるよー。でも、もっとゆっくりしていってよ」
「ただでさえ、恵ちゃんの姿を真似られて俺はイラついているんだ。さっさと答えを言うか、姿を変えろ」
「えーん。私はこんなにもあなたの事が好きなのに。あなたの為だけにあなたが好意を持っている女性の姿をしているのですよ。でも、それが原因であなたに嫌われたくはありません」
女神は姿を変えて、いかにも女神みたいな服装と目視ができない顔になった。
「さて、あなたのご友人ですが、異世界に召喚されました」
「なるほど、通りで見つからないわけだ」
「世界で一番強いモノを召喚する設定だったらしいのですが、3人分の枠があって近くにいた二人が巻き込まれた形になりますね。あっ。勿論、私はあなたの方が強いと思いますが、あなたが行ったら面白味も何もないといいますか……すいません」
特に怒りも何もない。こいつら神には人間の感性は通用しない。
あいつは災害に巻き込まれたのだ。
「分かった。じゃあ、俺も異世界に連れていけ。あいつを一発殴りたい」
「ええ。分かりました。丁度、再度召喚が行われたみたいなので可能です。では期間は3日、あっちの世界で3週間と言った所ですね。3分後にお送りします」
「分かった」
話がスムーズ過ぎるが、まあいい。この女神は神の中でもなかなかに地位がある。これぐらいの無理は惜し通りせるはずだ。
意識が肉体に戻ってきた。3分の内に関係者に情報を伝えないとな。
「あいつらは異世界に召喚されたらしい」
「えっ!?」
よし、一人目終わり、次に電話を掛け、健人のやつが異世界にいることを恵ちゃんに伝え、相棒ののオペ子には3日間異世界に行ってくると伝えた。
予定の時刻になると、俺の足元に召喚陣が現れ、俺を転移させた。
「勇者様が降臨なさったぞ!」
「これで悪しき魔王を討伐できる」
うるさいな。召喚の間っぽい場所に召喚されたが、宗教服のやつらが歓喜していて耳に悪い。
「あっ。お前は巻き込まれたのか」
「ちょっと。待って。その目は、あれだよね。お願い。流石にこの数を洗脳するのは――」
優秀な洗脳能力者がいるのなら話は早い。
俺は地面を無数のムチ状に変化させ、周りの奴らを気絶させた。
「大変だって言いたかったのに! もう!!」
さて、情報収集からさっさとやってしまおうか。




