ニ七話 帰りたいか?
ネフィーに邪神教の奴らと戦いたいと伝えた。
「いいって言ってあげたいけど、ダメよ」
「いや、こっちも急に言って悪かった」
相手は罪人。しょうがない。
多分、無理だろうとは思っていた。
戦いたい衝動を抑える。
「じゃあ、俺は教会に戻る」
「ちょっと待って欲しいわ。中で何を話していたの? 少し気になるわ」
「元の世界に帰る方法について聞いていた」
「成果はあったかしら?」
魔法で盗聴されていたことも少しだけ疑っていたがそんなことはなさそうだ。
「ああ、帰還の書があれば帰れるらしい」
「そうなのね。帰りたい?」
帰りたいか。
当然、俺は家族の事もあるし帰りたい。
だが、リンネの事を思い出すと帰りたくないという気持ちもないことはない。
「どちらかと言えば、帰りたい」
「あら、お姉さん的にはこの世界で生きていくという選択肢もアリと思うわよ」
「からかうなよ」
「ふふ。でも、私はともかく他の人はどうかしらね」
そう言い残してから、ネフィーは扉の奥に消えて行った。
仮に俺に帰って欲しくないっていう人がいたとしてもこの世界の住人でもない俺がこの世界にいること自体があまりいい事じゃない。
今は与えられた仕事をすることが先決だ。
俺は教会に向かった。
――――――
教会の外にはカイトが立っていた。
「あっ。先輩」
「なんだその壁は?」
外から見えない様に岩の壁で囲われている場所があった。
「コウくんと遊んでいるだけっすよ」
「遊んでいる? 中で何をやっているんだ?」
「ゴーレム相手に魔法を撃ってみたりしているみたいっすよ」
魔族の文化について詳しくないせいかは分からないが、魔法を使うのはきっと楽しいことなんだろう。
「そっちは頼んだ」
コウは俺の事が嫌いだ。
それもそうだ。コウはミヤの事が好きなのにミヤがいきなり俺に懐いた。
過ごして来た期間からしてぽっと出の俺よりコウの方が長い。その分、恨みとかは相当なものだろう。
「ちょっと待ってください」
「なんだ?」
「昨日の訓練で先輩にあっさりゴーレムを壊されたんで二時間かけて、久しぶりに最高硬度の奴を作ってきたんですよ」
変な光沢を帯びたゴーレムが歩いて来た。
丁度、戦い衝動でうずうずしていた。
いいタイミングで良いサンドバッグを出してくれた。
「《かまいたち》」
貫通させる気で撃ったが流石は最高硬度、ギリギリ貫通しなかった。
胸辺りに二つへこみが出来た。
「シールド」
ゴーレムが急接近して殴って来た。
盾に罅が入った。身のこなしが軽いのに攻撃は重たい。
「フルアタック」
こっちも本気で固めたシルトで切り裂いた。
三分割にされたゴーレムが崩れた。
「流石っすね。これ、オレの全力ですよ」
「何体でも作れるんだろ?」
「まあ、そうっすけど。所でオレも修行に参加してもいいっすか?」
カイトの強みはこのレベルの自立するゴーレムを無数に作れる所だ。
その一体を瞬殺出来ない時点で俺の方が弱い。
元の世界に帰る手段が分かったにしても力は要る。
カイトが修行についてくれるという事は練習の量の確保に繋がる。
「勿論だ」
「よしっ! 互いに高めあいましょうね」
「じゃあ。また、朝に」
「了解です」
そう約束をしてから教会に入った。
一人を除いて子供たちは昼寝をしていた。
リンネは子供たちと寝ていて、エンテは剣を持って何か集中していた。
「お兄ちゃん!」
一番最初にやって来たのはミヤだった。
すぐに背によじ登って、ここは譲らないと威張っている。
こっちからは全然見えないが、きっとそんな事を思っているはずだ。
俺はミヤを乗せたままエンテの隣に立った。
「どうした?」
「集中している所悪いな」
「いや、終わった所だ」
エンテは剣を戻した。
子供たちが寝ているのを配慮して声は小さくしている。
「頼みたいことがあってな」
「もしかして、手合わせか?」
「ああ、そうだ」
「違うか。そうかそうか。えっ!?」
エンテが自らの口を塞いで音が響かない様にした。
かなり驚いているみたいだ。
「あれだけ逃げられたから手合わせが嫌いかと思ってたぞ」
「朝。付き合ってくれ」
「分かった」
「嬉しそうだな」
戦闘狂だからか、エンテの表情は見るからに明るくなった。
「当然だ」
一日中、エンテのテンションが下がることは無かった。
――――――
夜。目覚めてしまった。
異世界に来てから睡眠時間が短くなり続けている。
時計が無いから分からないが、三時間も寝れていない気がする。
受験期でも、もっと睡眠していた。もしかして、短時間睡眠が俺のチートなのではと考えさせるほどだ。
眠気も全然ないし、外に出ることにした。
夜もゴーレムたちは不眠不休で警備を続けている。
「綺麗だな」
あまり堂々と歩ける身分ではないし、夜空を眺めることにした。
寝ている子供たちを起こさない様にシルトで梯子を作って、教会の屋根に上った。
星については無知もいい所でどれがどれだか分からなかった。
ただ、雲一つない美しい景色だった。
「北極星だけは異世界でも変わらないな」
唯一分かる北極星らしき星を見つけた。
あの星を中心に星が回っている気がする。
流れ星が来ないか待っていると梯子が少し動き出した。
誰かが上って来る。
ゴーレムが反応していないし、敵ではない。
「ケントも寝られなかったの?」
紫かかった頭が見えた。リンネだ。
「リンネもか?」
「うん。隣いいかな?」
「もちろん」
隣にリンネが座った。
胸の高鳴りを感じた。
どうやら、俺はリンネの事が好きみたいだ。
「星。綺麗だね」
「ああ」
「見ていないよね」
夜空に目線は向けているが、なんとも思っていない事がバレた。
「そう言うリンネはどうなんだ?」
「お互いさまだね」
そう言って少し照れた様子でこちらを見ているリンネの姿に鼓動が早くなる。