二五話 異空間(魔王作)での特訓
あの後、特に何かが起こる訳でもなく、俺たちは子供の面倒を見続けた。
魔王直属の三人の実力は本物で、襲撃はなくなった。
――修行を始めて五日目。
俺はヴィアに呼び出されていた。
「今回の件。どう思う?」
ミヤが攫われ、ゲルバルドさんが殺されかけたあの事件についての話だった。
「四天王のネイルレンドが犯人だ」
「ネフィーの奴もそう言っていた。だが、奴は四天王。国家転覆に関する事以外では捕らえることは出来ぬ」
「四天王権限か」
あの事件の首謀者であるネイルレンドは今ものうのうと生きている。
「怒っておるな」
「勿論だ。目の前にいたら殴りたくなるレベルだ」
あいつを牢獄にぶち込めれば最高だが、そんなことは出来ないらしい。じゃあ、私刑になるが俺が殴りに行くしかない。
「分かった。では、次の反省会。我が少々細工をしておく」
「まさか……」
「あやつを引きずり落とせ」
そうか。四天王権限さえなくなってしまえば、ネイルレンドはただのロリコン犯罪者だ。これで、牢獄に入れることが出来る。
「そのためには修行がいるだろう」
「ああ」
あいつの炎魔法で俺の盾は溶かされてしまった。数発なら耐えられるが、連射されると危うくなる。
それに《かまいたち》も防御されてしまった。攻撃面でもまだ課題はある。
「我が直々に鍛えてやろう」
「いや、いい」
「拒否権はない」
瞬間。場所が変わった。
地面はひび割れていて、草木の一本も生えていない。
そこは枯れた大地だった。
「瞬間移動か」
「違う。我が空間を作った」
「空間を作った?」
「そうだ! ここは世界とは切り離された場所で修行に最適になるようなものがいっぱい詰まっておる。時間がながーく使えるとかな」
時間の操作まで可能とは、つくづくこの魔王に勝てる未来が見えない。
「ケントの為に昨日作った。感謝するんだぞ」
「ああ、助かる」
「我は回復魔法が使える。とことんやるぞ」
ヴィアの周りに炎の球体が回り始めた。
「シールド」
俺は盾を構えた。
――――――
何十日経っただろうか?
「はあ、はあ。防ぎ切った」
ヴィアにひたすら炎の魔法を撃たれた。
初めは盾がすぐに溶けてしまったが、徐々に溶けないように制御することが出来るようになった。
シルトが勝手に炎耐性をつけると思っていたがそう甘くはいなかった。
筋肉みたいに力ませないと何も変わらなかった。
それに気づくのに数日かかり、それを知ってから炎に耐えうるものを作るのには更に時間が掛った。
俺には才能がないが、何度もトライアンドエラーをやって慣れることは出来る。
そして、ようやくヴィアの出す炎に全て耐えられる盾を作れた。
「よくやった。最後に我の本気を見せよう」
「こい!」
盾を構えた。
「天獄門。聖緋愴饕餮」
白い? 黒い? よく分からない色の槍がヴィアの手に握られていた。
「行くぞ!」
槍が投げられた。
空中に作ったシルトはあっさり消えた。
盾で受け止め――
「重っ!」
トラクターにでも押されている幻覚を覚えた。
相手は槍のはずなのにこんなにも衝撃が来るのか。
盾に体を付ける。
肉が焼けている。熱をあんまり通さないシルトがフライパンみたいだ。
「おりゃああああああぁぁぁ!」
長い。長すぎる。
しかし、その攻防は終わった。
俺は吹き飛ばされ、地面を擦った。
「いてぇ」
盾を解除しないまま、空を見上げた。
「よくやった」
ヴィアが覗き込んで来た。
「これでケントはあの四天王に勝ったも同然。奴の炎なぞ、恐れる足りん」
「サンキュー。ありがとう。ヴィアのお陰でまた一つ強くなれた」
「ふ、ふん。褒められたって何もやれんぞ」
シルトの性質を知り、そっからどうすればいいか。時間を使って学ぶことが出来た。
一週間では到底足りないような所をカバーして貰った。
「戻るぞ」
部屋が戻った。
玉座のある部屋だ。
「ここから先の修行は我では相手をしてやれない。認めたくはないが、近接戦の指導はゲルバルドの奴の方が上だ」
「そうか。ありがとな」
「他属性の修行がしたくなったらいつでも来い。我が手伝う」
手伝う……か。
「そっちも何かあったら言ってくれ。俺に何が出来るかは分からないが手伝うぜ」
「ははは! 魔王である我に言う事か?」
「そんなに笑うことか?」
ヴィアは魔王で途方もなく強い。だが、そんな強さを持っていても俺の妹っぽいことには変わりはない。
カイトが俺に死んだ兄を重ねたように俺はヴィアを妹と重ねてしまっている。
まあ、恵のやつは死んでいないけどな。
「分かった。約束しよう。ネフィーと同列に扱う」
「それは光栄だな」
ネフィーは魔王の相談役をやっていると言っていた。
俺も診て貰ったから分かるが、ネフィーと会話をしていると安心する。自分ですら分からない悩みの種を見つけてくれる。
美人でお姉さんな感じとかまさに天使だ。
俺はそんな凄い人と同列にして貰えた。
かなり名誉なことだ。
「じゃあ、俺はゲルバルドさんの見舞いをしてから教会に行くから」
「あっ。待て。これを」
「これは?」
「隷属の首輪だ。我の魔力を注い……」
「なるほど」
俺は首輪を着けた。
「えっ?」
「これでいいんだろ? 魔族でもない俺が何もなしに町をうろうろするのは良くないもんな」
隷属の首輪。まあ、名前から察するにこの道具は奴隷に着けるものなんだろう。
ヴィアに服従することはなんら恥じゃない。
これで、城下町を歩いていても奴隷として片付けられる。
「我の命令は絶対服従になるぞ」
「今もあんまり変わらないだろ?」
「ううぅ。もうよい! 自由にしろ」
ヴィアは可愛い性格で、ただの無機質な首輪をマフラーみたいに隠せる様に装飾していた。
こういった細かい配慮のお陰で外見から見ても恥ずかしくない。
何かを言われた時に布を外せば、俺が魔王の奴隷であることを証明できる。
「ありがとな」
部屋から出た。
魔王城の窓から太陽の位置を見てみると、朝から昼になっていた。ヴィアの作った空間で一か月は修行をしたが、現実では五時間ほどしか経っていなかった。
俺は医務室に入った。
前まで俺が勝手に使っていたベッドにゲルバルドさんが寝ていた。
その隣にはネフィーが座っていた。
「あら。お見舞いかしら?」
「ああ。生きていらっしゃるのか?」
傷は一切なくなっているが、目覚めた気配はない。
「凄い尊敬しているのね。魔王ちゃんにすら敬語なんて使わないのに」
「悪いか?」
「いや、でもゲルバルドが弟子にこんなに好かれているのは少し違和感があるわね。ほら、彼は職人気質だもの。自尊心の高い魔族はあまり彼の事をよく思っていない人もいるわ」
言葉では説明できないが、ゲルバルドさんには敬意を示したくなる。だから、敬語を使っている。
誰がどう思っていようとその気持ちは変わらない。
「折角、ここに来てくれたんだわ。少しお話でもしましょうか」
この後の予定も詰まっていないので、俺はイスに座った。




