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二三話 戦闘バカ

 俺たちは地下水で出来た湖で修行の汗を流していた。


 そこにエンテの声が響いた。


「どうします? エンテが来ますけど」

「別に気にすることもないだろ。あっちが悪い」

「それもそうっすね」


 俺たちは屈さない事にした。


 仮に見られたからなんだというんだ? ここは異世界でありしかも誰もこない洞窟だ。全裸で水浴びをするのはなんら可笑しくないはず。


 それに、俺たちは公衆の面前で全裸になっている訳でもない。


「とーちゃっく! あー暗かった!」


 エンテが湖の前に辿り着いた。


「ケント! 私との手合わせを断っておきながらカイトと手合わせしたみたいだな! 私も交ぜろ!」


 この女。俺たちの方をしっかりと見ながら言って来た。

 がっつり見えているはずだが、あいつのは羞恥心とかそんな感情はないのだろうか?


 相手を見誤った。こんなデリカシーのない相手とは思わなかった。


「見れば分かるだろ。俺たちは水浴びをして汗を流しているんだ。また汗をかけっていうつもりか?」

「あー! もう分かった! みなまで言うな。私も今すぐ汗を出すから待っておけ!」


 マジかよ。初めて会った時からヤバい奴だとは思っていたがここまでとは思ってもいなかった。


「やめて下さいよ。みっともない」

「お前が言うな! 私のを奪っておきながらぬかぬかと」

「だって、あなた先輩と仲良くしようって気が見えないんですよ。そんな態度で手合わせをして貰えると思っていたの?」


 カイトの言っていることは正論だ。

 だが、こういったバカに通用するはずがない。


「うっさい! リンネの認めた強い奴と戦いたいの!」

「はあ、だからその自己中心的な考えがいけないって言ってますよね」

「ケント! 戦え! 私も同じ条件になってやるから」

「だから、そんな事じゃないって……どうします?」


 忠告を全て無視してエンテは剣を振り始めた。


「いざとなれば、あいつも全裸になれって言えばいいだろ。流石にそこまで頭が可笑しい訳ないだろうし」

「やめた方がいいっすよ。こいつ、服脱ぐつもりですよ」

「ええ……」


 戦うことだけを考えてそれ以外は何も考えていない奴だ。


 ただただ怖い。もっとゆっくりしたかったがしょうがない。


「逃げるぞ」

「無理です。服を抑えられています」

「ほんとだ。あいつ、頭大丈夫か?」


 百歩譲って手合わせをするのはいい。


 だが、全裸は嫌だ。絵面がまずい事になる。


 男同士だったら、小細工なしの男の魂のぶつかり合いみたいなまだ盛り上がる感じだが相手は一応女だ。


 あいつはもう既に性別なんてどうでも次元の奴なのだが、俺の心の問題だ。


 あんなバカと戦ってもなんのメリットもない。それも、コウとかよりも意味がない。

 俺が絶大な被害を受ける。


「なんか、暑くないか?」

「あいつ。本気で動いてますね」

「生物とは思えないな」

「ええ、あいつは魔力がない代わりに身体能力が高いんですよ」


 剣を振っているだけでこんなに熱を放つなんて、生物として可笑しい。


 一般的な風呂の温度である四十度ですら人間を殺せる温度と聞いたことがある。俺もインフルエンザで四十度を超えた時は死にかけだった。


 だが、あいつの体温はそれを遥かに超える。

 五十度? いや、百度はあるかもしれない。


 しかも、まだ上がり続けている。少し涼しいぐらいだった洞窟がいつの間にかサウナにでもいるかの錯覚を抱かせるほどの気温になっている。

 魔法ならあだ納得するが、エンテは魔力がないらしい。つまり全てあの肉体から発せられたものだ。


 それにあの剣のスピードは異次元だ。体温が上がるにつれ、剣のスピードも上昇している。


「あいつ。本気っすよ! こんなのは魔王様に挑んた時以来ですよ」

「避難をするぞ」


 俺はカイトの腕を掴み、シルトで球体を作った。


「オレ泳げないです!」

「暴れるな。俺に捕まれ」


 形のせいで水に浮いてしまったが、下に重りを付けることで沈めた。


 これも洞窟を落下したときに編み出した非接触でのシルト展開が役に立った。


「光を消せ」

「はい!」


 洞窟が真っ暗になった。

 これで、あいつから見れば俺たちは突然消えたように見えるだろう。


「これで数分は持つだろ」

「あの、オレ地面についていないと魔法を使えないのでこの状況はかなり怖いっす」

「大丈夫だ。あいつも見えていないはずだ」


 《ライト》の無い状況では真っ暗で何も見えない。


 それに水中なら、空気の流れとかでバレることはない。

 あのバカでも俺たちがどうにかして逃げたと考えてその場を離れるのにそう時間は掛からないはずだ。


「それにしても、なんであいつは俺と戦いたがるんだ?」

「あの人。昔から強そうな相手を見つけたらすぐ戦いに行くんっすよ。でも、魔族だと大抵が魔法を主体とした遠距離戦が得意なんで、あいつみたいに近距離で戦う相手はなかなかいません。それこそゲルバルトさんとかそういった人たちだけですね」


 根っからの戦闘狂というのは間違っていなかったか。


「ちなみにオレとエンテの戦績は十九戦で十五対四でオレの勝ち越しです。距離さえ詰められなければ勝ち筋はありますが、先輩の能力ではどうしようもないっすね」

「ますます戦いたくなくなってきた」

「あいつはバカですけど剣の腕は本物っす」


 何かが入水した音が響いた。


 まさか、あいつ湖の中に入って来た? 俺たちの場所はバレていないはずだ。


 水中で音は伝わりにくい。大きな振動ならともかくこっちの声は届いていない。

 エンテの馬鹿でかい声も聞こえていない。あの声で聞こえないのなら俺らの声や振動はなおさら聞こえていないだ。


 だが、その思惑は上手くはいかなかった。


「見つけた!」

「化け物か!?」


 シルトにひびが入った。


「もう、逃がさないぞ! さあ、勝負だ!」

「クソ! 分かった戦えばいいんだろ」

「先輩。その、差し出がましいですけど足が着くところまで逃げて貰ってもいいっすか?」


 カイトは地面に触れていないと魔法が使えなかった。


 俺は足からヒレとなる形にシルトを作って、泳いだ。

 一応、フィンスイミングも経験がある。


「目を瞑って息を止めろ。絶対に暴れるなよ」

「はい!」


 球体状にしたシルトを解除して、一気に泳いだ。


 久しぶりでかつ人を抱えながらだとかなりスピードが落ちてしまったが、鍛えたお陰で元の世界にいた時よりも速く進むことができた。


 前方に張ったシルトが床を擦った。


 そこからは壁に当たらないように注意を払いながらゆっくりと進んだ。


「ふう、着いたぞ」

「はあはあ。これ想像以上にきついっす」

「いつ着くか分からないもんな……さあ、俺は俺でやらなきゃいけないことがある」


 シルトを気化させて、エンテが俺の前にいることに気づいた。


 真っ暗で何も見えないが、それはお互い様だ。


「こっちの場所分かる!? おーい!」

「分かっている。そっちも分かっているな」

「じゃあ、これで公平な戦いだ!」


 こんな所で戦いたくはなかった。



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