二一話 魔王直属部隊
教会の入り口にコウが立っていた。
その後ろから、ネフィーが同伴していた。
「ゲルバルドは無事よ」
「良かった!」
あれだけ血まみれの人間を見るのは初めてだったし吊るされていて、死ぬかもしれないと心のどこかに不安はあった。
子供たちにはあんな自身ありげに言ったが、どうなるかは不安だった。
「この惨劇を起こした実行犯は私の部下に捕まえさせたわ。よくやったわね。もう大丈夫よ」
「黒幕のネイルレンドは?」
「それは……ごめんなさい。証拠不十分で駄目だったわ」
あいつをどうにかしない限りはミヤは狙われ続けるだろう。
「どうにかして、捕まえられないか?」
「無理よ。例え、魔王ちゃんでも司法は守らないと秩序が乱れるもの。でも、四天王権限さえなければまだ打つ手はあるのだけれど……」
四天王権限。
名前から察するに四天王の特権だろう。
どんな、権限かは分からないがそれさえなければあのクソ野郎をどうにか出来る。
「あの腐れ外道の目的はきっと、このミヤちゃんの血ね」
「血? 吸血鬼か何かなのか?」
「違うわ。子孫的な意味よ」
子孫? そんな理由で誘拐すると言えば、貴族とかだろうか?
高貴な血族とか選ばれし遺伝子みたいなやつしか想像が出来ない。
ミヤはどっかの貴族出だったりするのだろうか? でも、そんな子がこんな教会にいるとは考えにくい。
「これ以上、子供たちがいるここで踏み込んだ話はなしよ。今はこれからの話をするわ」
ミヤに一体何の秘密があるかはお預けにされた。
「しばらくはこの教会は魔王様直属の特殊部隊に守らせるわ。普通の警備だと四天王を相手になにもできないから」
「魔王直属の特殊部隊?」
「ええ。私を隊長とした隊ともう一つ。完全に独立した部隊があるの」
王直属の兵士。響きだけでもかっこいい。
「もうじき来るわ」
そう言うと同時に勢いよく扉が開かれた。
「みんな! 久しぶり! エンテだよー」
「古巣だからって、そんな騒がないで下さいよ。ただでさえ、任務続きで疲れているんっすから」
エンテともう一人、目に覇気を感じられない男が入って来た。
「おお! ケントじゃないか! ここで出会うとは奇遇だ。手合わせをしよう!」
「はあ、すいません。うちのバカが騒ぎ立てて」
「カイト放せ! あいつはリンネが認めた強者だぞ!」
「えっ。マジっすか。あのリンネさんが人間を認めたんっすか?」
エンテは相変わらず煩い。
逆に男の方は振り回されながらも、制御を頑張っている。やる気はなさそうだが、仲間が仲間なせいで苦労人っぽい感じがする。
「お兄ちゃん。あの男の人強いよ。魔力が変」
「そうなのか。俺には特になにも感じないが」
「他の子も気付けてないよ。隠しているみたい」
俺の頭に乗っているミヤが教えてくれた。
魔力を感知するなんてことは出来ないが、魔族のミヤが言うのならそうなんだろう。
「ども、オレはカイトって言います」
「ケントだ。多分、同い年だし、敬語はいらない」
「いやいやー。兄貴って呼ばせて欲しいっす」
やけに、下手に出る奴だ。
いきなり兄貴ってあまりにも飛躍しすぎだ。
同い年っぽい奴に兄貴って言われるのもなんかいい気分じゃない。
「せめて、先輩にしてくれ」
「あー。兄貴が良かったんっすけど、断られたらしょうがないっすね。じゃあ、先輩って呼びます」
出会ってすぐに先輩後輩の関係になった。
明らかに可笑しいが、別に敵じゃなさそうだし問題はない。
「私は魔王様に報告してくるわ。みんな仲良くね」
ネフィーが帰って行った。
「よし! 今すぐ手合わせだ!」
「はあ、今は任務中っすよ。それに子供たちがいる中でバカやらないでくださいよ。こっちまで変な奴に見られるじゃないっすか」
「そうか、じゃあ。任務が終わったらすぐにでもやろう! いいな!」
エンテは戦闘狂だ。出会った時から俺に戦いを挑んで来る。
「あっ。先輩。ちょっと外で話しましょうよ。今回の任務に関してはオレの能力が主になるんで、エンテはこんなんだし、リンネさんはいざという時の切り札ですから。二人きりでお願いします」
「分かった」
「やーだー。ミヤもお兄ちゃんと行くの!」
俺は暴れるミヤを降ろしてから外に出た。
「オレの得意属性は土なんで、ゴーレムを作ります」
地面から複数の魔法陣が現れて岩というよりかはコンクリートで作られたような綺麗なゴーレムが出て来た。
大きさは俺たちと同じぐらいの人型だった。
「こいつらは自立して動きます。五十体は作るんで、そいつらに警備を任せます」
「どんぐらいの強さなんだ?」
「結構強いっすよ。白角の相手ならまず負けないっすね」
白角。この城下町に住んでいるほとんどの魔族の角は白い。
そして、ヴィアやネフィーの強い奴らは黒い角をしている。
黒い角と白い角には力の差があるのは分かるが、その程度は分からない。
「黒い角と白い角ってどんだけ差があるんだ?」
「そうっすね。大体、人間の範囲で言えば白い角が攻めてきたら討伐隊を組みます。黒角だったら、よほど大きな町じゃなければ、その場所を諦めて逃げて行きますね」
人間の強さについては今まで聞けずにいたが、ここである程度指標となる情報を得れた。
魔族は人間より強い。
じゃあ、魔族の数が人間より圧倒的に少なくなければこんな風に戦争になる前に魔族天下になっているはずだ。
「まあ、ざっと見積もるとこいつ一体で人間の町を潰せますよ。まあ、英雄みたいな奴がいれば別の話っすけどね」
「凄いな」
「いやー。そんな事ないっすよ。自立して動くからどこにでも行けて、大量生産も出来ますけど、魔王様とかリンネさんの前では塵に同じですからね」
さらっと怖い事を言う。
自立で動く岩というだけでも怖いのに更に大量生産も可能とは。こうやって話している間も作り続けているが、もっと数百単位で作ることが出来るのだろう。
「オレの家族は人間に殺されました」
いきなりなんだ?
俺が人間だからここに誘い出して殺そうとか言い出すなよ。
「あっ。先に言っておきますけど、先輩に危害を加えようとかはないっすから」
「良かった。いきなりゴーレムに襲われたら流石にきついと思っていた」
「そんなことする訳ないじゃないっすか」
とりあえず、敵意はない様で安心した。
「話を戻すと、身内を失ったオレはこのゴーレムを使って遠くにあった人間の町を一つ滅ぼしました。その時に戦争の虚しさを知りました。だから、今は前線に出ることは滅多にないっす」
「何が言いたいんだ?」
「嫌だなー。オレの事を知って欲しかっただけっすよ。カイトという魔族が一体なんなのかを先輩に知って欲しかっただけっすよ」
初対面の相手にする会話じゃない。
「初対面の相手にする会話じゃないって思ったすね。まあ、普通そう考えるっすよね。いきなり過去を話し始めるなんて」
「確かに変だ。出会った時から」
「似てたんっすよ。オレの死んだ兄貴に」
なるほどな、俺がヴィアに抱いた感情と似た感じか。
見た目が同じだと運命みたいなのを感じてしまう。その気持ちは分かる。
「だから、今度はどんな手を使っても守りますよ。もう後悔はしたくないんで」
「凄い弟を持っていたんだな。その兄貴は」
「オレは別に大したことはないっすよ。それよりもリンネさんに認められた先輩の方が凄いっすよ。あの人が人間を認める事はなかったっすから」
リンネに評価されることは俺の思っている以上に凄い事らしい。
「リンネさんは人間は弱くて、魔族は強い。みたいなことをすっごい極端に考えているから、人間で認められるってことは魔族からしたら前提から違うんですよ」
「確かに、リンネは最下級魔族なんて言っていたし」
「とにかく、簡単には死にそうにはないんで弟のオレは楽なんっすけどね」
カイトとの俺がどっちが強いかは分からない。だが、得意距離があまりに違い過ぎるし争う必要もないのかもしれない。
俺は近、中距離を得意としているが、カイトは長距離の相手を狙うのが得意な能力だ。
エンテみたいに手合わせをするまでもないだろう。
「うちの部隊は、前衛をエンテがやって、オレが後衛をします。そして、リンネさんは超後衛で、戦場にすら来ない時もあるぐらい遠くから攻撃をします」
「《くず星》か」
「よく知ってますね。オレとエンテは避けられるのでいいですが、防御無視の攻撃はまず避けられませんよ」
俺たちは驚くほど早く、仲良くなっていった。
「とりあえず、ゴーレムの設置は終わったんで戻りましょう」
「そうだな」
そろそろ、ミヤが怒りそうだし教会に戻った。
「ミヤ。止めろって! あいつは得体の知れない奴だぞ」
「コウくん放して! ミヤはお兄ちゃんの所に行くの!」
そこでは、コウがミヤを必死に止めていた。
「お前! ミヤに何をした!?」
そういえば、コウはミヤの事が好きだったな。




