十七話 問題児
俺は修行として教会に連れてこられ、子守をさせられていた。
一体何の修行なのかは分からないが、ゲルバルドさんの事だしきっと何か深い意図が隠されているはずだ。
子守をする中で、教会の端っこで座っている女の子を見つけた。
肩まで伸びた灰色の髪に少し歪な角を持った子だ。
「はあー。疲れた」
俺は隣に座った。
この女の子の角は周りの子と違って真っ黒で形も周りの魔族とは違いデコボコで特徴的だった。
リンネやヴィアやネフィーが初めて出会った魔族だった俺からしてみれば黒い角は珍しいとは思わなかったが、周りの子供は全員白い角だった。
魔王城内や教会に来る途中で見た魔族の奴も大体が白い角だった。
多分、周りとの違いで浮いてしまった結果が今のこの子の状況を生んだのだろう。
コウとか言う悪ガキとは極力関わりたくないが、この孤立してしまった子は気になってしょうがないのだ。
「なあ、植物は好きか?」
「なんで……」
「ん? どうした?」
「なんで、ミヤに構うの?」
当たり障りもない会話すら無視されると思っていたが、ちゃんと返答が返って来た。
「その角、初めてそんな形の奴を見たから気になった」
「……知らない」
ミヤは別の角に逃げて行った。
角の事は触れない方が良かったか。
深いコンプレックスを持っている相手と会話することがあんまりなかったせいだな。
しばらく時間を置くか。
ここで深追いして、傷を増やすのは一番最悪だ。
この日は他の子供たちと遊んで終わった。
脳が疲れていたお陰でぐっすり眠れた。
――――――
修行が始まって三日目。
俺は魔王のヴィアに呼び出されていた。
「今日は侵略者になす術もなくやられた四天王が来る日でな。我の隣にいて欲しい」
「まあ、別に隣にいるだけなら……」
なんで俺が要るのかは分からないが居候の身としては逆らえない。
「あやつらが来るまでに我が魔法について教えてやろう」
「魔法か」
俺は魔法について何も知らない。
転移した直後に坪川が使えるようになっているのを見た時に俺も使えるか試したが何もできなかった。
原理を知れば、何か使えるようになるかも知れない。
ヴィアが手を出して来た。握れっという事だろう。
とりあえず、握ってみた。
「まず、魔法を使うためには魔力が必要でな」
「おお。これか」
体をドロッとした何かが巡っているのが分かる。
多分、これが魔力だろう。
「なるほど、ケントには魔法を使う才能はない」
「えっ?」
「我ですらこんな魔力では魔法は使えない」
やっと、異世界らしいことが出来ると思っていたがその思いははかなく散って行った。
「これをシルトと言っておったな」
ヴィアが空いた手で俺のシルトを出した。
ただ、形状はドロドロしたままだった。
「溶岩の様な手触りがするな。こんなのじゃあ、魔力を空気中に放出できない」
「どうにか魔法を使う方法はないのか?」
「ない。諦めろ」
魔王が言うんだ。間違いはないだろう。
少しだけ落胆していると、扉が開いた。
ノックはあったと思うがあまりに遠くて聞こえなかった。
魔王と手を繋いだままだとあらぬ誤解を招くかもしれない。
俺は手を放そうとした。
だが、手が離せなかった。
ヴィアの方が力強く握っていたせいだ。
俺は離れるのを諦めて、手を繋いだまま正面を向いた。
四人の男女が入って来た。
そして、横一列に並び魔王の前に跪いた。
ここに来るまでに『この男だれ?』みたいな視線をまじまじと感じた。
俺だって、なんでここにいるのか分からない。
「よく、集まってくれた。我らが四天王よ」
ヴィアが声を魔法か何かで変えている。
威圧が半端じゃない。俺もヴィアの姿を見るまではその声に圧倒されていた。
「この度は申し訳ございませんでした」
「我は何か貴様らに謝罪を求めたか?」
「た、大変申し訳ございません」
この四天王の魔族は侵入者に負けて、その侵入者はネフィーが命を削って倒した。
ネフィーは魔王に対して嘘を吐くような奴じゃないから四天王が手も足も出なかったことを報告しているだろう。
そのことを知っている四天王は今日は怒られると思っているはずだ。
それに対する謝罪を初手に述べたが、ヴィアは嫌な上司の様に対応している。
あー。俺の妹の恵も怒ったらこんな風になってたなぁなんて俺は思う余裕があるが、目の前の四天王はそうはいかないのだろう。
「所で、最近の魔族は向上力がないと思わぬか?」
「お、仰る通りです」
「その原因はなんだと思う?」
嫌な質問をする。こんなのどんな答えを出しても意味がない。
結局、ヴィアの考えが答えになるように設定されている。答えを選ぶだけ無駄なものだ。
「強い敵でしょうか?」
「ほう。詳しく話せ」
「はっ! 今回の敵は悪魔憑きであり、しかも二枚持ち。我らでは到底届かぬ相手でした。一矢報いる訓練をしていなかったせいです。なので、強敵を想定した訓練を……」
「いつ、言い訳を聞きたいと言った?」
「ヒッ!」
まあ、お疲れさまとしか言えない。
「我は昔の慣習で家柄によってある程度、立場が固定されているせいだと思っているが、反対の者はおるか?」
ここで反論を言うのは勇気がいる。俺があっちの立場だったらまず何も言えないだろう。
だが、そんな空気の中でさっきまで喋っている男とは別の男が一歩前に出た。
「恐れながら、魔族にとって強さと血筋は絶対。我らよりも強い魔族なんてそれこそネフィーロット様のように天使憑きや悪魔憑きしかおりません」
「ほお。言い切るか」
「血筋も優秀な我らに勝てる者はいません」
声は少し震えて、怯えてはいるものの嘘を言っているようには見えなかった。
流石、四天王。自信はあるみたいだ。
「ただ、我には貴様らと庶民との力の差というモノがよく分からぬ。この際、今回の反省会は四天王の座を賭けたものにせんか?」
「妙案でございますわ。魔王様」
今度は肌の露出が多い女性が前に出て来た。
「我らは魔族最強です。万に一つ負けるはずはございません」
「反論は?」
「「「ありません」」」
おお、予想より早く話が終わりそうだ。
ヴィアがもっとネチネチと文句を言うかと思ったが、そんなことは無かった。
「で、ここからが本題だが、その反省会にこやつも参加させる。いいな」
え? 俺の事か?
明らかにヴィアの指が俺を向いていた。
「ちょ、ちょっと待てよ! ……待ってください。俺は人間ですよ!」
人前だし、敬語を使って抗議した。
「ネフィーロットから聞いておるぞ。確か、ゲルバルドの所で修行しているとな」
「あの、ゲルバルド様の所だと。なんて、命知らずな奴だ」
四天王のよく喋る奴がなんか言っていたがよく聞こえなかった。
多分、魔王の隣にいる俺の事を良く思っていないのだろうし悪口かなにかだろう。
「それと、これはどう関係しているんですか?」
「気にするな。理由などない。参加しろ。これは魔王命令だ」
まあ、居候の身だし断れないか。
「分かりました」
「よいな! あと五日後に執り行う反省会は議会の承認している正式なものだ。敗北。すなわちお前たちの降格を意味する。ぬかるなよ」
どんな戦いをさせられるか分からないが、四天王になんて興味はない。さっさと負ければ何の問題もないだろう。
俺が元の世界に帰る方法はまだ分からない。
だが、何をするにも力が要る。今日も修行をしないといけない。
元の世界に帰る事はまだ焦ってはいない。俺よりも天才な坪川や剛鬼の方が成長するのは早いはずだ。いざとなればあいつらに便乗して帰ればいい。
最低でも殺されない力を得る必要がある。
そうこう考えている内に四天王が退室していた。
「それで、反省会って何をやるんだ?」
「一言で言えば、席取り合戦。役職が一気に変わるぞ」
「怖えー。吹奏楽部みたいだな?」
「すいそうがくぶ?」
「いや、こっちの話だ」
噂でだけ聞いた事があるが、ある程度人数のいる吹奏楽部では定期的にポジションを奪い合う戦いがあるらしい。
俺の通っている高校でもそんな熾烈な争いが行われていて、その時期になるとあの部活の奴らは疲れた顔で教室にいた。
自分の場所を奪われるという事はそれだけ恐怖だ。
「それで、議会っていうのはなんだ?」
「うーん。その話は楽しくないからしたくない」
「そっか。じゃあ、用もないなら俺は行くけど」
そろそろ、ゲルバルドさんが来るだろうし戻りたい。
だが、そう簡単には戻れそうにない。ヴィアが俺の事をじっと見ているし、手を握る力が徐々に強くなっている。
「そ、その。教会で子供たちに囲まれているってほんと?」
なんか雰囲気が変わった。さっきまで機嫌が悪そうな感じたったのになんか急にしょんぼりし始めた。
「本当だが。どうした?」
「いや、その。楽しいか?」
楽しい……か。
悪ガキばっかりだったりとか親に文句を言われそうとかそんなことが無いから辛いということはない。
ただ、あの一人で寂しそうにしているミヤという子を見ていると楽しいって答えていいか分からない。
「微妙だな。俺、あんまり子守が得意な方じゃないみたいだ」
「へ、へえ。そうなんだ」
「一人どうしても気になる子がいるんだ」
「どんな子!?」
なんか、凄い食いつき具合だ。
一国の王という事だし、国民の事は気になるのだろうな。こういう周りへの気遣いみたいなのは流石だと思う。
「黒くて歪な角の形をした女の子で……」
「変態! 幼児趣味!」
気づいたら、魔王のいる部屋の前にいた。
テレポート系の能力で移動させられた?
なんか、最後に叫んでいたし怒らせてしまったのだろう。なんで怒ったかは分からないが、まあいいか。
ヴィアは恵に似ているし対処も同じでいいか。あいつなら時間をおけば怒りとかすべて忘れる。
「あら、ここで会うなんて奇遇だわ」
ネフィーがこっちに向かって来た。
「その様子だと、魔王ちゃんを拗ねさせて叩き出されたってみたいね。お姉さんが話を聞いてあげるわ」
「別に何ともない」
「大方、こうなった原因は分かっているわ。ケントくんは種族間の違いに疎いから」
種族間の違い? ああ! 俺が言った事に非常識な事があったかもしれない。
この際、ミヤについても相談してみるか。
「話に付き合ってくれるか?」
「勿論よ。お姉さんは若い子のあれこれが気になってたの。ちょっと面白い場所に行きましょ」
ネフィーに連れられるまあ地下室に着いた。
そこは、拷問部屋だった。




