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十五話 魔王のお気に入り

 あの日、情報を交換していたら暗くなったので俺は医務室のベットを借りて寝た。


 リンネとは別の部屋だ。


 朝、目が覚めた。外はまだ少し暗い。

 なんか、睡眠時間が短い気がするが二度寝をしたい気分でもない。


 久しぶりに目覚まし時計を使わずに早起きをした気がする。


「おーい。起きろー。って、恵じゃねえ」


 布団の中に違和感があると思って捲ってみると、実の妹にそっくりな姿をしている魔王のヴィアが寝ていた。


 声を出してしまったが、まだヴィアは寝ていた。


 魔族特有の二本の真っ黒な角が左腕を挟み込んでいる。

 作り物じゃない生物の角は不思議な感触がする。


 ただ、左腕は昨日感覚が無くなるまで攻撃されたから角の正確な感触が取れていないかもしれない。


 右手で、角を起こさないようにゆっくり握った。


「おお」


 鋼鉄みたいな硬さかと思ったら木材の様に硬い中に柔らかさがある。

 羊や鹿とかの角も触ったことは無かったが、生物の角ってこんな感触なのか。


 握って楽しんでいると、ヴィアが抱きついて来た。そして、乗っかって来た。


 こうやって上を取ろうとする所とかも昔の恵に似ている。

 口調こそ違うが、それ以外はほとんど一緒過ぎてちょっと怖いまである。


 ただ、両手で角を触れられるのはいい。


 懸念していた左手の不調も特にはない。両手ともに同じ触り心地がする。

 まだ、ヴィアを起こすのには早い。


 俺は天井を見ながら異世界に来てからの事を考えていた。


 初日から散々な目に会った。


 いきなり召喚されて、チート持ちですらダメージを与えられなかった熊に追いかけまわされた。

 崖から落ちて、変な液体を飲んで痛めつけられた。


 何とか死なずに済んで、シルトと名付けた液体と固体を操作できるチート物質を使えるようになったと思ったら、リンネに出会った。

 シルトを一撃で粉砕したり、《コピー》して来たりと初めて戦う人型にしては強すぎた。


 せめて、こんなに差が離れていない相手が良かった。


 そして昨日は四対一だった。相手は全然俺を舐めないし、堅実に殺しに来ていた。

 俺が化け物か何かならそんな状況でも良かったかもしれないが、相手の一人ひとりが俺を超えた実力を持っていた。


 今でも、よくあれだけ善戦したなと思う。


 あの中で、一番危険だったのがゴスロリの女だった。

 逃げる時に見せたあの赤い目は深く記憶に残っている。


 ほんと、異世界に来て強い敵ばっかりと戦い過ぎている気がする。

 まあ、井の中の蛙になって調子に乗るよりかはマシだったのかもしれない。


 ただ欲を言えば、命の危険がそんなにないような異世界が良かった。


 そんなこんな思っていると、部屋の扉が開いた。

 天使の翼を持つネフィーだった。彼女は人差し指を立て音を立てないようにしていた。


 魔王のヴィアがここにいることは知っているな。


「気分はどうかしら?」

「ああ、お陰様で腕の感覚もすっかり治った」

「良かったわ」


 小声で会話をする。ヴィアは熟睡しているみたいだし多少の音では起きないはずだ。


「私、魔王ちゃんの個人的な相談役なのだけれど、こうする様に言った犯人なのよ」

「そうなんだな」

「魔王ちゃんはね。血の繋がったお兄さんを殺しているの」


 俺、妹と似ていると言った気がする。

 あれは言っちゃいけない言葉だったか。


「心配しないで、私から見ても彼は殺されて当然の人間だったから。魔王ちゃんは兄という存在が嫌いな訳じゃないわよ。むしろ……」


 ネフィーが俺の掛け布団を捲った。


「好きなぐらいですよね。寝たふりしてまで角を握らせるなんて変態の所業ですよ」

「……しゃい」

「なんでしょうか?」

「うっしゃい。気持ちいいんだから仕方ないだろう」


 ヴィアが起きていた。


「魔族の角は魔法を使うための魔力を空気中から吸収する役割がある大事な器官なの。普通は他人に触れられると違和感や不快感があるのよ」

「ネフィー。何てことを説明している!」

「続けるわ。そんな角だけど、特定の人に触られるととっても安心できるの……」

「みなまで言うなぁ!」


 ヴィアが暴れそうになっているが全然その場から動かない。ひたすら俺の上で跳ねている。

 懐かしい気分だ。恵のやつもこんな風にぴょんぴょんして遊んでいた時期があった。


「家族みたいな心の底から信用している相手よ。でも、そんな家族でもなかなか長時間は触らせはしないわね。それ以上は言わなくても分かるわね」

「貴様という奴はいらんことを喋りやがって! 後で覚悟しておけ」

「じゃあ、余計な一言。そんな長時間はせいどれ――」

「わー! 我は何も聞こえんぞー!」


 ネフィーの声がヴィアにかき消された。

 どうやら角から手を放さない限りはヴィアは何があっても動かないみたいだ。


 俺は別にこのままでもいいが、このままだとネフィーと同じ話を続けるだけだ。


 手を放してみると、ヴィアは瞬間移動かと錯覚させるスピードで俺から離れた。


「お、お……」


 そして、俺の方を数秒見た後、高速で部屋を出て行った。


「魔王ちゃんは素直じゃないけど、昨日のことかなり感謝しているみたいよ」

「なんて返せばいいか分からない」

「他人からの伝聞だとみんなそんな感じよ。本当は魔王ちゃんから言って欲しかったのだけれど、ちょっとからかい過ぎたかしら」


 ネフィーは手で口を押えて笑みを浮かべた。


「ヴィアをからかいに来ただけじゃないだろ?」

「ええ、あなたの今後についてお話に来たの」

「俺の?」

「初めはリンネちゃんと関わりのある計画で動いて貰おうと計画していたのだけれど、魔王ちゃんに気に入られちゃっているでしょう? それだと話が変わるのよ」


 ヴィアと出会った時もリンネについて話をされた。

 ただ、ヴィアに気に入られただけでそう話が変わるもんだろうか?


「あの子。結構、過保護なのよ。私だって魔王ちゃんに気に入られてから魔王城を出る機会がめっきり減ったもの」

「それは回復能力が関係しているんじゃないか?」


 ネフィーは回復魔法が使える。どれほど貴重な人材かは俺には分からないが、瀕死に近い俺の傷を治せる存在はなかなかいないだろう。


 それにメンタルケアにおいてもネフィーは凄いと思う。上手くは言えないがなんかこう他人の心というモノが分かっている。


 そんな回復要員をわざわざ前線に出したりはしないだろう。


「こう見えても、昔は前線で戦っていたのよ。血濡れの天使なんて言われた時もあったわね。ふふ、若いっていいものね。そんな私が今では後方も後方よ」

「確かに過保護っぽいな。もしかして、体の不調がバレているとか?」

「話を戻しましょう」


 無神経な事を言ってしまった。

 ネフィーにとっては天使の力に耐えきれずに体が壊れていることは絶対に知られたくないことだ。


 軽々しく言うことじゃなかった。


「実はね、魔王ちゃんはケントくんを鍛えようとしているのよ」

「それはいい。死なない為に強くなりたいしな」

「やめときなさい。魔王ちゃんの指導はこう感覚的というか。あの子、根っからの天才なのよ」

「ああ、なるほどな」


 俺は天才じゃない。

 感覚的に教えられても何一つ分かりはしないだろう。


 そういえば、天才と言えば坪川と剛鬼は今何をやっているだろうか? 聞きやすいタイミングになったら聞いてみるか。


 下手に情報を喋って、あいつら二人を不利にしたくはない。あいつらはあいつらで元の世界に帰る方法を探しているはずだ。


「もう一回確認するわ。強くなりたいという意志はある?」

「ああ、当然だ」

「なら良かったわ。既に私の古い知り合いに頼んであるわ。しばらくすれば来ると思うから、リンネちゃんと一緒に行くといいわ」


 こんなに早くに師匠が決まるものかとも思ったが、多分俺がヴィアに気に入られてもそうでなくともリンネとの関係で来る予定だったのだろう。


 まだ、ヴィアやネフィーがリンネをどうしたいのか。その全容や目的は分からないが、疑う気はない。

 俺は二人を信用している。出会って間もないが決して悪い事をするような奴らには見えない。


 さて、俺の伸びしろは一体どれほどあるのだろうか?

 今はそのことだけを考えることにした。



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