十二話 謎の侵略者
魔王のヴィアの動きを封じられてしまった。一体、どんな能力をすればあの化け物魔王を拘束できるんだ。
「ケント。どうしたらいい? こいつらを倒せばいいのかな?」
「大丈夫だ。数秒後《爆星》を撃て。一人でも減らすぞ」
「分かったよ」
リンネの攻撃は超遠距離魔法《くず星》と周辺を更地に変える《爆星》がある。
今、シルトを地面に潜らせている。爆発する直前に地面から繋いだヴィアと地面に逃れる。
「あれが魔王か。さっさと殺すぞ」
リーダーっぽいおっさんが近づいて来た。
「今だ!」
「《爆星》――」
「させねえよ」
離れていたはずのゴスロリじゃない方の女が、瞬間移動してきた。
その女はリンネを包み込む様に渦を出して来た。
少し見えた渦の断片は全く知らない場所だった。
テレポート系の能力か。
今から動いても間に合わない!
「《かまいたち》!」
俺はシルトを高速で変換させる中距離まで届く斬撃を女に向かって撃った。
当たったかは分からないが、これ以上は何もできない。
「よそ見をする余裕はないだろ」
リーダーの男が目の前にまで迫っていた。
一瞬しか目を離していないのに。こいつ、人間の速さじゃない。
頭を掴まれ、膝が俺の顔面をせり上がって来た。
――痛てえ。
一撃をもろで喰らい意識を持っていかれそうになったが、すぐにシルトで顔面を守った。
そこから目にも止まらぬ速さで膝蹴りが繰り出された。
すぐに手から刃物状のシルトを作り振るった。
男はすぐに離れた。
「はあはあ。強いな」
鼻から血が出ている。これだから野蛮な喧嘩は嫌いなんだよ。
もっと異世界らしく魔法を使えよ。
「あいつ、強くはないが油断はできない。確実に仕留めよう」
「そうだな。俺の攻撃にも耐えている。四人でいくぞ」
はあ、油断してくれよと思う。
戦闘狂みたいな奴と一対一ならまだ可能性はあったにしてもこいつら統率がとれすぎている。こんなに個の力が強いのに連携をしてくるなんてな。
少なくともこっちもチームになって戦うレベルの相手だ。
正直、逃げ出したい。あいつら個の力は俺と同等かそれ以上。
あの男の膝蹴りは即席のシルトのガードを破る寸前までいった。もし、威力の高い攻撃をされれば集中したシルト以外なら一撃で砕かれてしまう。
「ヴィア。その拘束は俺の力じゃ外せない。時間を稼ぐ。自力で外してくれ」
「言われなくともすぐに外す」
相手のフォーメーション的にあの男が前衛で殴って来る。そして、残りの二人は魔法による攻撃。ゴスロリの方は陣形に入っておらず、今回の攻撃には参加しないみたいだ。
「って、思ったそばから仕掛けてくるか!」
目の前に出現したフラフープみたいな物をシルトを棒状にして飛び上がり躱した。
当然、この飛んだ隙をリーダーの男は見逃しはしないか。
俺が飛び上がるとすぐに突進してくるかのようなスピードで接近して来て、殴って来た。
何とかシルトを腹部に集中させ、致命傷は避けたが俺は吹っ飛ばされ壁にめり込んだ。
俺はすぐにシルトで大盾を作った。直前に出すよりも作って硬質化させ続けた方が強度はある。
土煙が晴れる前に男の拳が見えた。
次は直撃はしない。
盾を斜めに構え、流した。
男はバランスを崩し、俺に無防備な横腹を見せた。
――この瞬間しかない。
空いている手でナイフを作り、突き刺した。
「クソッ! 硬てえ」
金属か何かに防がれた。防具を着ているようには見えないのに何か隠してやがった。
この男を倒すのは諦めて、前に進んだ。
元より勝つ気はない。魔王のヴィアさえ戦えればこんな奴らに負けるはずがない。
後衛の男たちがヴィアに向かって魔法を撃とうとしていた。
このままじゃ間に合わない。
足をシルトで包み、疑似筋肉に変えた。
そして、盾を構え飛び込んだ。
何とか間に合い、盾で魔法を防いだ。
「ケント! なぜ我を庇う!?」
「ヴィアさえ戦えれば、こんな奴ら楽勝だろ? またあの真っ白い炎見せてくれよ」
耐えていると、フラフープが出現した。
今度は魔法が飛び交っているせいで上には躱せない。
しかも、リーダーの男が真っ黒い何かを振り下ろそうとしている。一体何なのかは分からないが、距離からして斬撃かなんかだろう。
ここにいてはどっちにしろやられるな。
俺はシルトを展開しつつ、地面に伏せた。
フラフープが頭を掠り、閉じ切られた。
そして、展開したシルトを潤滑油にして盾を疑似筋力付きの脚力で押し出した。
簡易パチンコだ。
ヴィアを抱えて、移動した後には黒い斬撃が通過していった。
予想通りあの男の持っていたのは斬撃系のものだった。
だが、ただの斬撃ではなくその軌跡が通り過ぎたと思ったらあの男が立っていた。また瞬間移動系能力か。
急いで立ち上がりヴィアを担いだ。
「あとどんぐらい掛かりそうか?」
「……無理だ。これは解けない」
「弱気か。まあ、この拘束はマジで不気味だしな。俺に任せろ」
この戦闘に置いて一番のポイントはあのゴスロリの女だ。
あのフラフープに捕らえられたシルトは一瞬で支配を奪われた。感覚でしか言えないが、あれは人間の意志とかそういった次元で相手を縛り付けている。
ヴィアが自我を保てている時点で相当耐えている方なんだろう。
そんなのを俺が喰らえば確実に意識を乗っ取られる。
黒い刀を出したリーダーの男はかなり強い。だが、あともう少し戦えば慣れる。絶対に膝蹴りをお返ししてやる。
そして、魔法を撃っている二人の後衛。こいつらの強さはよく分からない。大盾で一斉掃射でも耐えてしまえる威力しかなかった。
リーダーの男との闘いに慣れて余裕が出来たら潰しに行くか。
問題はあのゴスロリをいかに倒すかだ。
あいつさえ倒せればヴィアの拘束を解除させられるはずだ。そうなればこっちの勝ちは確定だ。
もうしばらくはフラフープ拘束を警戒しつつ、あの男を相手にするか。
冷静に戦えば、まだ勝ちのある戦いだ。
「来いよ! 俺が相手しやる。お前ら程度の雑魚に魔王が出る必要はないぜ」
ヴィアをシルトで背中に固定する。そして、さっきよりは小さい盾と日本男児の誇りである日本刀を作った。
西洋の騎士と侍の奇跡のコラボだ。
そういえば、あのリーダーの持っている黒い剣も日本刀じゃないか?
よし、膝蹴りのお返しプラス慰謝料請求としゃれ込むか。
「こいつ。戦闘の中で成長している。挑発には乗るな。油断すれば俺たちが先にやられる。魔王を狙え。聖具の使用も許可する」
「「了解!」」
おっと、安易な挑発には乗らずにあいつら武器を出して来た。
「嘘だろ。おいおい。あいつの持っているやつは……」
どれもリーダーの男と同じように真っ黒になっている。
それに一人、武器が世界に合っていない。
一人は弓矢。まあ、これは分かる。
そして、もう一人は対物ライフルだった。
「あいつの武器知っているか?」
「いや、我ですら見た事も聞いた事もない形をしている」
「良かった。じゃあ、あいつが変なだけだな」
先に弓が放たれた。一本の黒い矢が徐々に分身し、それぞれが増えていく。
落ちてくるときには辺りを埋め尽くすレベルの範囲になっていた。
バックステップをしながら範囲から逃れようとしているが難しい。
あの刀も対物ライフルも一撃でもまともに喰らえば確実に死ぬ。
だから、一番の警戒を前の二人に割かざるを得ない。
俺はシルトを気化させ感覚を共有した。
落下物への対応はもう慣れている。
二人から目を逸らさずに躱し続ける。
この矢の雨を受け切っても、ジリ貧だな。
俺は刀を地面に刺し、矢を掴んだ。そして、それをゴスロリの女に向かって投げた。
瞬間。発砲音と黒い刀が振り下ろされるのは同時だった。
「急いだな」
斬撃の後に瞬間移動してくる場所は俺から見て斜め後ろ。ヴィアを狙っている。
そして、狙撃手が狙ったのは俺の頭。
移動してきた男を地面に刺した刀で切りつけ、盾で弾道を逸らした。
こいつらの動きはもう慣れた。特にリーダーの男については剣を振る前に来る場所は分かっていた。
女に向かって行った矢はコントロールが上手く無かったのか弓矢使いの肩に命中した。
「これで前衛はいないな」
切りつけた男には致命傷を与えた。膝蹴りのお返しは出来なかったが、もうこの際気にしなくてもいい。
後は後衛を倒せば終わりだ。
そう思っていると競技場全体に巨大なフラフープ拘束が回転していることに気づいた。
「おいおい。範囲無視かよ」
あれだけは絶対に受けられない。