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『あおしの 』幸せの形って何ですか?  作者: まちゅ~@英雄属性
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温泉旅行が当たりました5

 ぬいぐるみミュージアムに着いた俺達を待っていたのは、手荒い洗礼だった。

 それは、刃の様に、時に鈍器の様にそれは、俺らの心を襲い来た。


 何故、こんな悪夢の様な出来事が……。








「あっ、揉むのが上手い兄ちゃんだ」

「おー揉まれた、ねーちゃんだー!!」

「あー、サイクルランドの馬鹿ップル」

「こらっ、人を指差すんじゃありません!!」




「まことー!!私もう、帰るー!!」


「落ち着けたえ、せっかく此処まで来たんだからな?」


 半泣きになりながら、膨れるたえを慌てて、引き留める。


「ほら、みんな帰る所みたいだから、車の中で待っていれぱ良いよ」


 どうやら、サイクルランドで会ったお客達と偶然会ったらしい。老若男女、真っ赤なサッカーユニフォームを着ている子ども達もいる。


 大勢いる所を見るとツアーか何か、なのかもしれない。


 全く、狭いな日本、狭いな伊豆!!


 車の中で俺の膝に寝かせて、少しずつ、宥めて、ようやく大人しくなったたえ。


 頭を撫でていると、大きな排気音と共に大きな観光バスが出ていこうとする。


 何故か、観光バスのお客達が、こちらを見て笑いながら、手を振っていた。


 俺は、軽く会釈をして、たえの頭を撫でながら、たえに見えない様にする。心の中で、『早く行ってしまえ』と中指を立てながら。


「行っちゃった?」たえが俺の顔を覗き込む様に、こちらを見る。


「みたいだな。そうだ、お昼過ぎる位だし、気分転換に売店で何か買って食べようか?」


 たえは、しばらく無言で何か考えて、急にモソモソと動き出す。


 そのまま、後ろの席のクーラーボックスから何かタッパーとラップで包まれている物を取り出した。


  「えっとね、作って来た」まだ、少し不貞腐れている様なたえは、タッパーと包みを差し出した。


「本当か!!」


 タッパーと包みを受けとるとタッパーの中はおかず、包みはサンドイッチだった。


 おかずは、鳥の竜田揚げ、玉子焼き、ベーコンのアスパラ巻き等々。流石に幼馴染みの好きな食べ物はし唾を飲み込む音、口の中に唾液が溜まってくる。


 サンドイッチは?


「えっとね、玉子サンドにスモークサーモンと、端の奴食べて見て」


「ん?ハムチーズ?」たえに言われたサンドイッチを食べてみる。


「あっ、これハムじゃなくて焼豚なんだ」ハムとは違った焼豚のタレの染みた甘じょっぱい味とチーズが旨い。


「俺、これ好きだ」


「照り焼きっぽくて美味しいでしょ?」


お隣で幼馴染みが満面の笑みを浮かべた。


しばらく気分転換、二人でお茶を飲んだりサンドイッチを食べたりとのんびり過ごす。


味の方は聞くな、旨いとか、最高以外に言えないつまらない感想になるからな。



「さて、俺達もそろそろ中に入ろうか?」


「うん、何かごめんね」


 やっと元気になった、たえの肩をトンッと叩き、車から出る。


 観光バスが居なくなって広々とした駐車場で伸びをする。

 結構、紫外線とか強そうだな。


「なぁたえ、今日は何時もとは違う髪型なんだな?」

 今日のたえは、黒髪をあえて結ばずに毛先を遊ばせている。


「今さら?」


 向日葵の様な笑顔って聞いた事があるだろ?今のたえがそれ。


「あぁ、意外にいっぱいいっぱいだったみたいだ」


 余裕のなさと少しのテレでハニカミながら指先で頭を掻く。


「馬鹿ね、私の可愛い所、一杯見逃したぞー!!」


 良いながら顔を赤くしてテレるたえ。

 やっと、元通りになったみたいだな。

「そいつは失敗、まぁたえの可愛い寝顔はいっぱい見たけどな?」


「はい、そういうの反則ー!!」


 俺の背中にパーンチと攻撃してくるたえ。


 笑い合った後、少し真面目な顔で聞く。


「でもさ、お前、教師なんて大丈夫なのか?」


「共学だろ?あれ位で、凹んでたら心配するぞ」


 俺も、教育実習を受けた時に色々あって、先生と生徒の境目がごちゃごちゃになって、大変だった。


「ありがと、でも今の所、平気かなぁ?」

 少し遠い目をしながら、ニッコリ微笑む。


「お仕事だから、大変な事もあるよ?でも、楽しい事もあるからね」

「意外と人と関わる事が好きみたい」

 俺は、たえと歩幅を合わせながら、静かに話を聞く。

「でも、こんな笑顔を見せるのは、誰かの前だけかな?」

 結んでいない黒髪が風でなびく。


 初夏の爽やかな風でさらさらと。


「お前の本当の笑顔は俺だけの物だ」


 旅行の力だろうか、自然に普段出ない様な言葉が出た。


「まことは、そう言う事ばっかり言う!!」

 たえは、顔を背けてしまう。


 どうやら、彼女の心にクリティカルヒットしてしまったらしい。


 顔を背けても、後ろから見えるたえの真っ赤な耳は丸見えだった。



「中は涼しいね?」


 少し暑くなってきた日差しから逃げる事が出来たせいか、俺達は少しホッとした顔をして館内に入る。


 入口から、至る所にあるぬいぐるみに、まぁ女子風に『きゃーかわいー』なんて言える訳も無い。


スマホ片手に館内のぬいぐるみを撮る、たえを撮る、ぬいぐるみを撮る、たえを撮るぬいぐるみを…と繰り返していると、たえは、館内中央にある、巨大なパンダのぬいぐるみに抱きついた。(もちろん撮った。)


「キャー可愛いー!!」


 全世界よ、見たかこれが黄色い声だ!!(馬鹿)


「ねーねーこっち来てー!!」


 たえが俺をどーんと巨大なパンダの隣に押す。


「おっけ、ダブルパンダ!!」


 スマホでバシバシ撮るたえ。


「誰がパーンーダーだー!!」


 うがーと怒るふりをする俺。


 どうでも良いが、さっきから他の客が俺達を撮ってね?


 少し、不審に思っていると撮っていた内の一人十代位の女の子が、

「あのー、テレビの撮影か何かですよね?」


 え?


「違います!!俺達は、単なる一般人ですから!」


 それを聞いて「えーっ!!」と言う沢山の声がする。


「すみません!!さっきミュージアムから出て来た方達が、こっちに凄く素敵なカップルがいるからきっとドラマの撮影かなんかだよ!?って」


 その後、二人で照れまくり、弁解しまくり、ペコペコしまくり。


「何だかなぁ?」


 と、二人で笑った。


「あー、恥ずかしかった」

 苦笑いをしながら、車に戻る俺達。


 車に入る前に、神妙な顔を俺はする。


「すまないたえ、実は今から同乗員が一人増えるんだ」頭を下げる俺。


「えっ?何?誰?」

 少し慌てるたえに、俺は車のドアを開ける。


 車の後部座席にはリボンやラッピングをされた大きなパンダのぬいぐるみが。


「キャーーーーーーー!!!」


 飛び込む様に後部座席のパンダに飛び付くたえ。

 全世界よ、見たかこれが黄色い声だ!!(2回目)


 どうしたのこれ?いつ買ったのこれ?可愛すぎないこれ?と語彙力が無い子になったたえの疑問に答える。


「たえが、一生懸命ぬいぐるみを見てるとき、ちょっとね」


「でも、これ、結構するんじゃ?」

 確かに、そこそこ高いけど、どこかの夢の国の物ほどじゃない。


「旅館代が無いからな、別に大した事じゃない」


「ねぇ、今日からあなたはうちの子なの?」

 ぎゅーっと抱き締めたまま、眼を瞑って問いかけるたえ。

「あなたの名前は?何だろう?」


「…ね、ねぇパパ?この子の名前はなあに?」

「ぶふっ!!」


 パパは不味いだろう!!


 でも、あんなに幸せそうな顔をして…。

「そっ、そうだね、そのママ?」


 ヤバい、たえの顔を直視出来ない!!


「えーと、たえのたと、まことのまで、たまってどうかな?」


 少しだけ、猫?とは思ったけど、俺に拒否権がある訳が無いし、何となく可愛いと思ってしまった。


「良いんじゃね?」


少し、赤面しながらたえの頭を撫でる。


「うん!!」


と言って、たえは、ぬいぐるみを抱き締めた。 

 

「ぬいぐるみミュージアム楽しかった?」


「うん、また来たい」


 たえのその言葉だけで、色々調べて、考えた意味はあったな。


「よろしくな、たま」


 そう言って俺は、人差し指で、ぬいぐるみの鼻をつついた。







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