7 過去
蘇る記憶。
前世、というやつだろうか。
私は、その記憶の中において、ニッポンという国で生きる若い女学生だった。
魔法は無かったが、技術的にはこの世界より少し進んでいて、幸いな事に豊かな所という事もあり、飢餓や戦争で悲惨な目に遭うという事もなく、日々を平和に過ごしていた。
人間、身の安全が保証されると、娯楽に力を注ぐものらしい。
かの世界にも、楽しいものは沢山あったが、その中でも私は、ネット小説というものにハマっていた。
情報の集合体であるインターネット。その中にある『文筆家になろう』というサイトでは、アマチュア作家達が自慢の作品を無料で公開していて、私は、その世界にどっぷりハマってしまった。
そのうち、私は読むだけに飽き足らず、自分で作品を書く事にも手を出した。
そうして生み出されたのが、私の代表作『嫁いだ先の王子がハーレム作ってやがったので、全員ざまぁしてやった! ウェェェイ!』である。
いわゆる、『ざまぁ』もので、題名通り、大国の王女が嫁いだ先の第2王子が、ハーレム作って鼻の下を伸ばしていた挙げ句、初夜で「君を愛する事は無い」と言ってきやがりましたので、ハーレムメンバーともども、破滅させるお話だ。
それだけならよくある話だったが、私はそこにスパイスを混ぜた。
つまり、料理下手がやる料理の様に、レシピを嫌って、無意味にアレンジを加えた。
主人公の王女は、王子を破滅させるのに協力してくれた第3王子から、終盤に結婚を申し込まれる。二つ返事で了承する主人公。しかし、それは同時に主人公自身をも破滅させる事になる。
第3王子は、ガチガチの過激派だったのだ。
彼らの国は、斜陽で日に日に勢力を弱めていた。世界から見捨てられた祖国の復讐の為に、彼らは密かに、開発されたばかりの核兵器と、それを搭載するミサイルを確保し、その発射基地を私兵を用い占領していたのだ。
だが、彼らの国の技術力では、ミサイルを狙った所に落とすのは不可能だった。
しかし、第3王子と婚約を結んだ際に、主人公へはめられた婚約指輪。これが曲者だった。
主人公の王女の秘められた力は、『投げたものを必ず当てる能力』。指輪は、その能力を増幅し、ミサイルに付与する力を有していた。
第3王子と王女がキスする事と、ミサイルの発射は魔法で連動しており、最終盤に第3王子との情熱的な口づけをした王女自身の手によって、ミサイルは世界中の主要な都市に向けて放たれた。無論、彼女は核戦争の引き金を引く事など、夢にも思っていなかった。
皮肉な事に、王女がざまぁした第2王子とそのハーレムメンバーには、それぞれに、その放たれたミサイルを止める、もしくは、途中で撃ち落とすだけの能力を持っていた。だが、彼らは、すでに彼女自身の手によって、破滅させられていた。
一応、作中、何度も双方歩み寄る機会があったにも関わらず、すれ違いや嫉妬心や怨恨によって、その機会は失われていた。
結果、その後、世界は核戦争によって焼かれた事を示唆されて、物語は幕を閉じる。
……………………なんだこれ。
当時は、「協調と相互理解が大事ですよ」という、教訓めいた話にしようとでも思ったのだろうか。最後の最後で、唐突などんでん返しのオチをしたかっただけだろうか。いずれにせよ、読者からの評価は芳しくなかった気がする。それまでそれなりにあったブックマークや評価がボロボロと剥され、感想欄では、香ばしい痛たた……な感想を含め、否よりの評価が多かった。おそらく、あのオチは、読者が望んだものでは無かったのだろう。
とはいえ、そうボロクソに叩かれると、精神衛生上もよろしくない。
その後、少し心を病んでいた所、赤信号に気付かず、車通りの多い交差点に侵入した私は、通りすがりのトラックに轢かれた。なんともしょうもない死因である。業務上過失致死にとわれたであろう、トラックの運転手のおっさんには、本当に申し訳ない事をした。
そんなこんなで、私の前世はしょうもない終わり方をした訳だが、問題はこの後世である。
「嫁いだ先の(以下略)」の主人公の王女は、空の様な青い髪が特徴で、名前はスカイ・キングフィッシャー・ローク。18歳……。私じゃねーか。
ちなみに、嫁ぐことになった国の名はラヴメニクロス王国、乳母の名はシウン・レインボークラウド。乳母姉の名はサイウン・レインボークラウド。
なんという事でしょう。私は、私が書いた小説の世界の主人公に転生してしまったらしい。よりにもよって、なんで自分の、それもバッドエンドの小説に……。
1つ確実に言える事は、出来る限り、『ざまぁ』をしない事。さもなくば、世界は核の炎に包まれる事になる。
『ざまぁ』をしない。
それがメインと言っても良い勧善懲悪がテーマ(?)の小説の世界で、そんな事が出来るのだろうか……。
とりあえず、えらい事になった。
技術力が第二次世界大戦頃なので、当然の様に核兵器がある異世界。
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