6 王女への問い
彼女に促されるまま、車に乗った私達は、一路、王城のブラネスト城へと向かっていた。
「なかなかどうして、酷い有り様でしょ? ここ」
紫髪のメイド、サラセニアちゃんは、景色を見ながら、そう無念そうに言った。
「ここは、王都のメインストリート。でも、敗戦に噴火にふんだりけったりで、こんなにボロボロになってしまいました。昔は華やかだったんですけどね」
運転しつつ懐かしげに、そして、悔しげに語るサラセニアちゃんに、私はかける言葉が見つからなかった。
車外に目を向けると、寂れた商店と疲れきった住民達の顔が見えた。曇天な天気も相まって余計に元気が無さげに見える。
そのうち、街の一角で、人だかりが出来ていた。人々は国旗やプラカードを掲げ、行進している。そのプラカードには「隣国をやっつけろ!」「我々の栄光を取り返せ!」「死には死を! 血には血を!」などといった勇ましいスローガンが掲げてあった。
「あれは?」
「ああ、国粋派の人々です。簡単に言えば強硬派の人達です。よく、デモ行進してるんですよ。周辺国に取られた土地を武力で取り返せ! って。……まあ、宮仕えしていれば分かりますが、すぐには無理です。今は、力を蓄えねば。ボロボロになった国で、最後に残ったアイデンティティーで爆発するしか無いってのは痛いほど分かりますが……」
デモ隊の脇を通り越して、車は進む。
「ロークは噴火の際に手厚い援助をしてくれた恩がありますから、幸い、と言いますか王女様と、第2王子ウィン様の結婚では、そこまで反対運動みたいなのは起きてませんがね」
「それは良かった」
私は、とりあえず敵視はされていない事に安堵した。他国には優しくしておくものだ。
「……ところで」
一呼吸置いて、サラセニアちゃんは言う。
「この国は一夫多妻を認めている……というより人口増加の為に奨励していると言いましたが、私の夫もハーレム作っていましてね。私含めて現時点で三股かけてるんですが」
「えっ」
「……どう思います? 」
突然、そんな事を問われ、私は面食らってしまった。
「いえね。王女様に会う機会なんて無いものですから、せっかくなので、ご意見を賜りたく……」
流石に差し出がましいと感じたのか、サイウンが顔をしかめる。
だが、私はアイコンタクトで「別に良い」と言うと、口を開いた。
「そうねぇ……。流石に……」
一夫多妻の国とはいえ、三股は流石にどうかと思うわ……離婚をオススメします。と言おうとした矢先、私は妙な感覚に陥った。
――あれ?この光景、どこかで見た様な……。
彼女とは初対面のはずなのに、妙な懐かしさを感じた。それと同時に、私の本能が、それ以上台詞を言ってはいけない。と激しく警告している。
頭の中で、サイレンが鳴り響く様な錯覚に陥った。
――私は、この光景を知っている? 知っている! でも、この感覚は……。この場面で本当に言わなければいけない台詞は……!
「……!? 危ない!」
私がこの先の言葉に悩んでいると、サラセニアちゃんはそう叫んで、急ブレーキを踏んだ。身体がシートに押し付けられ、全身がベルトに締め付けられる。
「……なんですか?! 急に止まって……!」
「すいません。子供が飛び出してきたもので……馬鹿野郎! 死にたいのか!」
彼女は、窓から顔を出して、子供を叱る。幸い、子供に怪我は無い様で、謝るとそのまま道路を渡って行ってしまった。
「あ……あ……」
だが、この出来事は、私のかつての記憶を呼び覚ますには、十分な衝撃だった。
今晩もう一話投稿します。