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5 紫髪のメイド

「やって来たわ、ラヴメニクロスへ!」


 あれから半年後。ついに婚姻の時がやってきた。


 鉄道で国境を越え、王都、ブラネストの駅に着いた私は、初めて訪れた外国にテンションを上げていた。


 王都の駅だけあり、何本もの列車が、次々とプラットホームに滑り込んでいる。必然、駅の規模も大きく、迷ってしまいそうになる。


「お嬢、お嬢! 子供じゃあるまいし、あまり遠くに行って、はぐれないでくださいよ!」


「ふふ、分かっているわよ。でも、何もかも新鮮で、嫌でもテンションが上がってしまうわ」


 私の後をサイウンと、護衛のローク王国の騎士が2人、付いてきている。


 婚姻の儀は明後日だが、私達は先に鉄道を乗り継いで現地入りしていた。母上達は少し遅れてくる。陛下は……祝電送ってくれるだけ、ありがたいと思うべきだろう。


 先に、先方への挨拶と、最終打合せ。そして、結婚式の準備の為だ。


 昔は、ラヴメニクロスの様な遠方に嫁ぐ時は、馬車に何か月も揺られながら行く事もざらにあったというが、今は精々数日の旅程だ。本当に便利な世の中になったものだ。


 ローク語が珍しいのか、すれ違う人々が時折、こちらをチラチラ見ている。が、こちらが王族だとは思わなかったのか、そのまま通り過ぎていく。


 うーん、残念ながらあの馬鹿親父の、カリスマ性や王族の威厳などの、ポジティブな面はあまり遺伝しなかった様だ。


 そもそも、私の外見は、母譲りの青い髪は綺麗だが、顔は良くも悪くも癖のない田舎娘という感じである。


 端的に言うなら王族っぽくない。一見、私達は、ただの観光客のグループにしか見えないだろう。


 近くにいた駅員を捕まえて、私達の素性を明かすと、話は聞いていたのだろう。丁重に賓客用の部屋に通された。王城から迎えの者が来るので、少し待っていてくれとの事である。


「さて、打ち合わせ通りなら、王城まで先方が車で送ってくれるとの事ですが……。」


 茶請けとして出されたお菓子をつまむ私を尻目に、サイウンは、手帳に書かれた今後のスケジュールを確認しているし、護衛の騎士の人達は、それぞれ懐に隠したリボルバーの調子を確認している。最近の騎士は、剣よりも銃の腕前が重視されるとか。

 

 あれ、もしかして暇そうにしてるの私だけ?


 というか、このお菓子おいしいなぁ。ロークには無いお菓子だからつい手が伸びてしまう。


 少し、居心地の悪さを感じつつもお菓子を食べていると、そのうち、駅長に連れられて、ラヴメニクロス王家の人がやって来た。


「スカイ王女殿下にはご機嫌麗しく。今回、貴女を王城までお送りさせていただきます。ドライバーを務める、サラセニア・オヴニルと申します。以後お見知りおきを」


 うやうやしく頭を下げたのは、驚いた事に、私と同年代くらいのメイドの少女だった。


 サラセニア・オヴニルと名乗った少女は、紫色の髪をツーサイドアップにして、同じく紫色の瞳で品定めをする様に、私の様子を伺っている。


「私がその王女。スカイ・キングフィッシャー・ロークよ。こちらこそよろしくね、メイドさん。貴女が運転を?」


 にこやかに彼女に笑みを向けた。危ない危ない、もし彼女達が来るのがもう少し早ければ、お菓子を威厳のいの字も無い幸せそうな顔でほおばっている所を見られる所だった。


「……」


挿絵(By みてみん)


 気のせいか、少しサラセニアちゃんの顔が厳しくなった気がする。何かまずい事を言っただろうか? だが、その顔はすぐに元の営業スマイルに戻り、彼女は言葉を続けた。


「はい。この国では、女性の社会進出が進んでいますから。メイドも車くらい、運転できなくては」


「へぇ。ロークとは違って先進的ね」


 最近は改善してきているとはいえ、ローク王国では、男尊女卑の風潮がまだある。空軍や飛行機への積極的な投資といい、この国は先進的な思想を持っているのだろう。


「……いえ、あまり褒められるものでも無いですよ。ここの場合、女性の権利云々というより、戦争と噴火で人が死にまくった結果、女子供まで駆り出さないと、社会自体が維持出来なくなっているだけですから。」


「あー……そういう」


「欲しがりません、勝つまでは。です。……豊かな土地は、全部周辺国に盗られちゃいましたし。来るべき復讐の日まで、国民全員で団結しなければ」


 前言撤回。先進的というより、世知辛いだけだった。


「それに別に先進的な思想もしていません。むしろ思想的にはガチガチに保守的ですよ、この国の人。まだ一夫多妻を認めている……というより、人口増加の為に奨励しているくらいですし」


 ますます世知辛くなってきた。まだ見ぬ旦那様も、陛下(馬鹿親父)みたいに好色だったりするのかなぁ? 別に一夫多妻の文化や価値観を否定する気は無いが、それはそれとして、母上みたいな可哀想な人を生み出さないと良いんだけど。


「それより、ラヴメニクロス語が分かるのですか?」


「少しだけ、ね。一夜漬けだけど勉強してきたの」


「こちらも少し気が楽になりました。言葉が通じるだけでも、コミュニケーションの幅が広がります」 


 サラセニアちゃんは先程の不穏な表情とはうって変わって、フレンドリーな顔になった。さっきのは気のせいだったのだろうか。


「改めて、歓迎しますよ。王女様。ようこそ、ラヴメニクロスへ」

この世界の素の技術的には、大体第二次世界大戦前後をイメージしています。魔法の存在があるので、現実世界よりも技術発展が早いです。一部では現代並み。

ラヴメニクロスは飛行機への投資が積極的なので、そこへかける情熱と技術力は非常に高い水準。ベトナム戦争~現代くらいの航空技術があります。

そして、逆にそこ以外は世知辛い負け犬国家の悲哀。


コメント、ブクマ、評価、よろしくお願いいたします。



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