48 魔王降臨
「魔力無線をジャックしてくるとは、大した魔法使いですね。ちっ、妻達とも通信途絶! ……彼女、大変お怒りの様ですが、お知り合いですか?」
「私をこの世界に拉致した、さっきウィン様が殴った子よ。多分、レーザーもあの娘が」
「なるほど、恨まれていて当たり前、と」
「私の厄介なファンでもある」
「面倒な性格のファンは、私にも沢山いますので、心中お察しします」
少しづつ、Gにも慣れてきた私は、そんな軽口を言う。そのまま、ウィン様は、機体の高度を一気に下げた。油断していた所に来た、ジェットコースターよりも酷いGに、意識が飛びかけるが、ギリギリで耐えた。
その間にも、レーザーは飛んでくるが、降下速度が速いのが幸いし、当たる事は無かった。
「あの悪趣味な城から、飛んできているみたいですね」
ウィン様は、あくまで冷静に状況を把握している。この状況でパニックにならないのは、流石エースパイロットである。
降下した機体は、そのままビル街の隙間を縫う様に飛行し、それらを盾にしながら、レーザーをかわし続けている。
ちなみに、私はビルに衝突しそうになるたびに悲鳴を上げている。
「逃げるな! 諦めろ!」
「い・や・で・す!」
そんな風に、魔力無線機ごしにマリスちゃんを煽りながら、ウィン様は機体をダンスさせる。ビルの隙間をキレのあるステップで駆け抜ける様は、ある意味、社交ダンスより美しいダンスだろう。
「こちらは、お前達が帰る為のゲートの前に陣取っている! ジリ貧だ!」
「あの門の所ですか! 厄介な場所に移動しやがりましたね!」
「ゲート?」
「私達の世界から、こちらの世界に来るのに使ったんですよ。あそこを潜らないと、私達の世界に帰れません」
ビル街から抜ける辺りで、ウィン様は、インメルマンターンで、最短距離でUターンをして、再度、ビルの森林に入る。だが、飛んでくるレーザーは、容赦無くビルを吹き飛ばして、倒壊させていく。ここに隠れ続けられるのも、時間の問題だ。
「創造主様、お戻りを! 何にも煩わされる事なく、延々と好きな創作活動をする事が出来るわよ!」
マリスちゃんの声が無線機から響く。魅力的な提案だが、私はそれを拒絶した。
「ごめんなさい。私は、スカイ・キングフィッシャー・ロークとして皆の元に帰りたいの!」
「そういう事です。スカイは貴女より、私の方が好きですってよ!」
「……小癪な羽虫め! お前なんかがいるから……! 元のストーリーでは雑に死ぬだけの存在の癖に! ここでケリをつけてやる」
マリスちゃんの方も焦りが出てきたのか、言葉の端にイラつきが表れ始めた。
そのうち彼女は、何かの呪文か、ボソボソと詠唱を始める。呪文を唱え終わると、驚いた事に、それまで晴れていた、夜明け前の空に、突然雲がかかる。その雲は、1つに集まっていき、最終的に人間の形になった。
「降臨なされて下さい! 魔王、バアル・バエル様!」
「バアル・バエル?!」
この世界の魔王の名前が出た事に、私は驚愕した。彼の時間は止まっているはず。
「言ったでしょ? 私は、心の無い人形なら生み出す事が出来るって! その気になれば、魔王様だって作れる!」
集まった雲は、1人の人間、否、魔王の姿になっている。距離が離れているので、細かい部分は分からないが、あの禍々しい雰囲気は、魔王そのものの様に感じる。
「さぁ、不様にザマァされる浮気者王子には、ここで退場して貰いましょ。私のハッピーエンドの為にね!」
無線ごしに、ゾクリとさせる冷たい声色で、マリスちゃんは言い放った。
「浮気ではありません。全員合意の上での、ラブラブハーレムと言いなさい」
「減らず口を! バエル様、その不愉快な蜻蛉を落として下さい!」
空中で留まっていた魔王バアル・バエルは、こちらを向くと、飛行しながら追撃を仕掛けてきた。とんでもないスピードで、こちらはジェット戦闘機だというのに、みるみる接近してくる。誰だ、魔王にあんなにスペックを盛ったのは! 私か!
「ちっ! 冗談じゃない、おとぎ話めいた魔王とやらに、最新技術の塊のジェット戦闘機が負けるなんて!」
ウィン様は、アフターバーナーを吹かして、魔王から遁走する。バアル・バエルも、レーザーを放って、こちらを撃墜しようとしてきた。まだ、距離があるから回避出来るが、近づかれたら、直撃を食らう可能性もある。もうじき、盾にしていたビル街も抜ける。
絶体絶命だった。
「スカイ! 駄目元ですが、せめて、抗ってみましょう!」
「どうやって!?」
「ゲートの前に陣取っている、あの厄介ファンさんを退かせます! 丁度、今、後部座席から放てて、誘導も出来る、試作ミサイルを積んでます。使い方を教えるので、貴女が引き金を引いて下さい!」
「わ、私が?!」
「それ以外に、方法は無さそうな気がしますよ。いくら彼女が頑丈でも、ミサイルが直撃すれば、それなりにダメージが入るでしょう」
ビル街に入って敵から逃げるのは、AC7の爺様のオマージュです。
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