47 レーザー攻撃
ウィン様の愛機は、家の近くを通る高速道路上に停めてあった。国によっては、非常時に高速道路を、軍用機の滑走路代わりに使う所もあると聞くが、現実に目の前にあると、中々シュールな光景である。
パーソナルカラーで塗られた、青と銀色の迷彩の機体の機首には、沢山のラウンデルと、更にその上から、バツ印が描かれていた。恐らくはキルマークだろう。尾翼には、コールサインの元となったという、1回の出撃で敵機7機を撃墜した逸話を元にした、北斗七星のパーソナルマークが誇らしげに輝いている。
これ程に、多くの敵を討ち取った男が、一見幼女にさえ見える、こんなにも可愛らしい男だという事実には、更にシュールな感覚に陥った。
「スカイ。対Gスーツも持ってきました。着替えてください。背格好はクラリアと似ているので、彼女の物を借りてきました」
「え、ここで?」
ウィンの手から、パイロットスーツが入ってあるであろう布製のバッグを渡された。
「飛行中にかかるGは相当なものになります。旅客機やジェットコースターの比ではありません。これを着ていないと、旋回中に血液が下半身に集中して、貧血になり失神します」
「王女様ぁ、アタシの戦装束、汚したり壊したりしないでねぇ?」
魔力通信機から、ウトリクラリアちゃんの声がする。乗り物酔いには強いが……間違っても胃の中のものをぶちまける事が無い様に気を付けよう。
「……」
「何ですか? 人の顔をジロジロ見て」
「その……着替える時は向こう向いててね? 流石に、乙女が着替えを観察されるのは……ね? 下着くらい、初夜でいくらでも見せてあげるし、なんなら、貴方にあげるから」
「自分が好色で、かつ女の子のパンツやブラジャーが大好きなのは認めますが、流石に、この状況で鼻の下を伸ばすほど、空気の読めない男ではありませんよ? 私」
「私の下着姿や裸が見たかったら、2人で無事に生きて帰ろうって事よ」
なんやかんやあって着替えて、ヘルメットまで被った私は、ウィン様のかけてくれた縄梯子を伝って、後部座席に座った。案の定、内部はかなり狭い。例えるとバスタブくらいの狭さだ。その上、良く分からない計器やスイッチなどが所狭しと並んでいた。間違いなく、触らない方が良いだろう。そのうち、ウィン様が対Gスーツのホースを、所定のコネクタに接続する様に言われたので、それだけはする。
「下手に機器には触らないでください。特に、黄色と黒のレバーがありますね。絶対にそれには触らない様に」
機体のエンジンをかけながら、離陸前の機体のチェックをしているウィン様は、そんな風に私に注意喚起してきた。
「それは何のレバー?」
「緊急脱出用のレバーです。引くと座席が吹き飛び、外に投げ出されます」
「ひっ、怖!」
そんな注意を受けて、私が脱いだ服を入れたバッグ両手で抱えていると、エンジンが温まり、安全確認が終わったのか、ウィン様はキャノピーを下ろした。
「スカイ、これより離陸します。先に言っておきますが、この先、素人にはかなりキツイGがかかります。なるだけ、注意して飛びますが、失神したらごめんなさい」
「……分かったわ。一思いにやって」
「了解。ビッグ・ディッパー、離陸します」
ジェットエンジンの爆音が響く。機体は始め、ゆっくりを加速をしていたが、すぐに凄まじい加速になった。
「~~~!!」
それだけに、とんでもないGが身体にかかった。ジェットコースターどころの騒ぎではない。
そんな状況でも、ウィン様は、全く動じず、機体を操っている。
滑走から数秒で、車輪が地面から離れた。が、かかるGが凄まじく、一言も言葉を発せない。慣れもあるだろうが、ウィン様やウトリクラリアちゃんは凄い人なのだなと、改めて思った。
「V2……! スカイ、まだ意識はありますか?」
「……何とか」
「あまり良くないお知らせです。これから、元の世界に帰るのに、かなりの速度が必要になります。まだまだ増速して、身体にかかるGは増えますので、何とか耐えてください」
「……気軽に言ってくれるわねぇ」
とはいえ、それが必要なら反論も出来ない。覚悟を決めると、機体は一気に上昇を始めた。私が出来るのは、ただこの加重地獄が早く終わる事を願うだけだ。
「このまま宙返りで急降下して、位置エネルギーを速度に変換します。音速まで出すので、舌を噛まないで!」
「イ、イエス・サー……」
ウィン様がさらりと、とんでもない事を言った気がするが、空中で止まる事も出来ない。機体はぐんぐん上昇を続けている。
そんな時である、機体のすぐ隣を、一筋の光がかすめた。
「!?」
更に、2発目、3発目の光線が飛んでくる。
ウィン様は、操縦桿を操り、機体を細かく動かして、次々に飛んでくる光の矢をかわす。凄まじい技量だが、必然、その分Gがかかって、閉口させられる。機体は十分に高度をとった所で、ハンマーヘッドターンで降下の姿勢になった。
「クラリア! 現在、レーザーらしき攻撃を受けている。異世界にそんな奴がいるって話は載っていますか!?」
「レーザー?! ……可能性があるとしたら、光属性魔法を工夫して放てば、そういうのも出来るかもしれないけど、人間どころか、魔法を使える動物でも、そんな高度な魔法を使えるやつがいるなんて、本には書かれて無い!」
ウトリクラリアちゃんは、ウィン様からの報告に、狼狽の色を浮かべている事が、声からも分かる。
そりゃそうだ。レーザー攻撃をしてくる人間や動物なんて聞いた事が無い。
「ウィン! 王女様! 無事?!」
「今の所は! うっ、今のは危なかった!」
コクピットのすぐ近くを、レーザーがかすめる。この調子では、いつ直撃を食らってもおかしくない。
「……創造主様ぁ……逃げられると思っているんですか?」
「?!」
その時、ウィン様の魔法通信機に、聞き覚えのある声が入る。
その声は、私の良く聞いた声である。無線をジャックされた様だ。
「マリスちゃん……!」
声の主は、私を拉致した張本人にして、今回の黒幕……私が生みだした次回作主人公様であるマリス・ストライダーだった。ウィン様に結構強く殴られていたが、もう復活したのか……。
「頭をどつかれたくらいで、私が諦めるとでも思ったぁ……?」
あ、これはかなり怒っているな。声色で分かる。
「逃がしはしない! スカイ・キングフィッシャー・ローク! いや……一之谷揚羽ぁ! その三股野郎を殺してでも、連れ戻すからなぁ……!!」
ラスボスは次回作主人公になりもうした。
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