44 異世界(旦那視点)
穴の内部はトンネル状になっていて、かなり狭い。内部は、一面石造りの通路の様になっていた。かなり、長いトンネルの様で、先が見えない。
音速のまま、そこに突入したウィンは、思わず舌打ちをする。
「ちっ、本日2回目の綱渡りって事ですか。クラリア! トンネル内も速度は落とさない方が良いですか?!」
「音速のまま、速度を落とさず抜けるべし。と書いてあるねぇ」
「成程、ただでは異世界には行かせないって事ですね」
少しでも操作をミスれば、壁に激突しそうだ。機体の可変翼を最小角度に固定して、少しでも機体が接触するリスクを小さくしようとする。
幸い、といってはなんだが、不思議な事に、壁に使われている岩自体が発光している様で、内部は明るい。それに、迷路のような構造ではなく、若干のカーブや上昇下降はあるものの、基本的には一本道で、ウィンの技量なら飛べない事は無い。
「ナイトランナー! ナイトランナー! ……通常の無線は通じない様ですね……」
無線機からは、ノイズが流れるだけで、空中管制機からの返答は無い。どういうわけだか、電波を通じた無線は通じない様だ。
「魔力無線機の感度はどうですか? 皆、私の声が聞こえますか?」
「安心してください、ウィン様。通じています」
聞こえてきたサイウンの声は、ノイズしか聞こえない無線機のものと違って、相変わらずクリアだった。とはいえ、サイウンの声は、主であるスカイを心配しているせいで、震えてはいるが。
「魔力を通信に用いているせいか、こちらの方は使えますね。今後頼りになるのは、妻達の言葉だけ、という事ですか」
それにしても長いトンネルだ。もう、かなりの距離飛んでいるはずだが。
「むっ」
そうしているうちに、トンネルの先の方から、外の光景が見える所まできた。トンネルの先は夜の様だ。日が出る前の薄暗い空が見える。
「あそこがゴールという事ですね」
「何か見えたぁ?」
「夜空が見えます。そこから先はトンネルは途切れている様に見えます」
「ビンゴ! そこが出口だよぉ!」
ウィンは、慎重に期待を動かしつつ、トンネルの出口を一気に通り抜けた。
「トンネル突破!」
「流石ね、ウィン様! それでこそエースよ!」
「ふふ。こちらもただの性欲魔神じゃありません。こう見えても、3股かけても世間から叩かれないくらいの技量と実績はありますから」
ウィンは、そんな軽口を言いつつ、異世界の景色を眺める。
「出口の場所、覚えててねぇ? 帰り道はそこから入らなきゃいけないんだから」
「了解。眼下に悪趣味な城が見えます。丁度、あそこの門から出たみたいですね」
ウィンの視線の先には、不気味な雰囲気の城が建っている。そこの大きな門に、世界と世界を繋ぐ穴が開いていた。が、ウィンの『ピースガーディアン』の速度が落ちると、穴は比例する様に閉じていき、やがて、機体の速度が音速以下になると、完全に塞がってしまった。
「音速が異世界に行く為に必要、というのは本当みたいですね」
もしも、トンネル内でビビって速度を落としていたら……。もしかしたら、一生世界の狭間から出れなくなっていたのではないか? そう考えると、ウィンは少し怖くなった。
「帰りも、もう1度トンネル潜りをやらねばならないと考えると憂鬱になりますが。まぁ、今は王女様の事です」
ウィンは、指輪に魔力を込める。すると、現在の城から少し離れた、都市部から反応が返ってくる。そこは眼下に広がる一面の森林地帯から、明らかに浮いていて、ビルや高速道路が立ち並ぶ光景は、猛烈な違和感を感じさせる。
「王女様の反応、ありましたよ。この近くの都市部からです」
「案外、早くに見つかったわね」
「良かったですよ。最悪、この世界の真裏にいる可能性もあったんですから。空中給油機は呼べませんし……」
「ウィン様……お嬢をよろしくお願いします。貴方しか、頼りになる人がいないんです」
水晶玉から、スカイを心配するサイウンの声がする。ウィンは改めて、気合を入れた。
「お任せを。必ず、王女様を連れ帰りましょう……まずは、降りられる所を探しませんとね」
ウィンは、しばらく都市上空で旋回しながら、離着陸できそうな、広くて、直線状な土地を探す。上空から見てみると、まったく、不気味な都市だ。ウィン達の暮らす世界では、ラヴメニクロスはおろか、他の列強国でも中々無さそうな巨大な都市にも関わらず、車1台、人っ子1人すら居ない。夜明け前というのを抜きにしても、はっきり言って異常な光景だった。
最終的に、ハイウェイに降りるのが一番良いと判断し、離着陸が出来そうな長い直線の道に、彼は機体を降ろす。そのまま、積んできた縄梯子を伝って機体を降り、愛用の拳銃を手にして、万が一、敵対的な存在と遭遇した時に備えた。
「うーむ。異世界の言語は、ミミズの様な文字ですねぇ。とはいえ、一緒に絵が描いてあるのはありがたい。ここが非常用の出入り口でしょう」
ウィンは、複雑な日本語に頭を抱えつつも、なんとなく、意味を理解して非常用の出入り口を利用して、都市部に出た。ビルの立ち並ぶそこは、ラヴメニクロスの首都ブラネストより、はるかに巨大で、迫力に圧倒される。
「さーて、白馬の王子が、囚われの王女様を救いに行きましょうか」
え!! 音速の状態でトンネル潜りを!? できらぁ!!
トンネルの長さは、AC7のカウントンネルくらいの長さのイメージです。(エスコンプレイヤー以外には伝わらないであろうイメージ)
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