42 黒幕との契約
「貴女は続きを書かなきゃいけない。私達の物語の続きを」
有無を言わさぬ口調で、マリスちゃんは言い放つ。
「貴女が、今回の黒幕って訳。私がそれを書けば、この世界の時間はまた動き出す……って事?」
彼女の言いたい事を、私は言い当てた。マリスちゃんは、よく分かっているじゃないか、話が早い。と、ばかりにうなずく。
「ええ、その通り。作者である貴方にしか、この話の続きは作れない。再び話が作られれば、停止した時間は再び動くはず」
「ずいぶん詳しいわね」
「こちらは時間は沢山あったからね。沢山、資料を漁って、沢山、実験や検証をして。そして、この世界が、貴女の創造した作られた世界である、という事に気付いた。そして、止まった時間を動かすには、貴女に続きを書いてもらうしかない、という事も分かった」
そう言うと、マリスちゃんは、指を鳴らした。すると、突然、虚空からコップが現れた。中には、サイダーだろうか、透明な炭酸飲料が注がれていて、彼女はそれを美味しそうに飲む。
「そして、有り余る時間を使って、こんな風に、魔法も沢山覚えたわ。もう、生半可な魔法使いじゃ、私には叶わない。……あぁ、これは脱走しようとか考えるんじゃないって事よ? それに、この家や、周囲の町並みも、貴女がかつて生きた世界を、ここから観察して魔法を使って再現して建てたの。わざわざ貴女を招くんだから、せっかくなら、100%の力を発揮出来る様にって!」
「それはご苦労をかけたわね。現世の私が生きる世界に、あの魔族軍団をけしかけたのも、貴女ね」
「その通り! 魔法を使って再現したバエル様の軍団よ。所詮、心の無い人形だし、真水が弱点っていうのも、克服出来なかったけど。それでも、状況を混乱させて、貴女を攫いやすい状態にする囮には出来たわ」
つまり、あの魔族の軍団は、侵略の意図など初めから無く、本来の狙いは私自身だったいう訳だ。
「……そのせいで、巻き添えで死んだり、怪我した人だって出たのに!」
「戦争に、悲劇は付き物。申し訳ないとは思ってるわよ。それでも、私には貴女が、必要だったって事」
「っ!」
あっけらかんとした態度に、少し怒りを覚えつつも、私は彼女の話を聞く。今すぐに彼女と敵対するのは得策ではない。
「創造主様も悪いんですよ。シナリオを破綻なんてさせるから。本来、私は、死後に『スカイ・キングフィッシャー・ローク』として転生してしまった貴女の魂を死後に回収して、こちらに連れてくるつもりだったんだから。貴女はあの三股男と、その取り巻き連中を破滅させて、すぐに自身も核の炎で蒸発するはずだった。それなのに、貴女は自らシナリオを破壊しにいった結果、よりにもよって、原作じゃ敵対するはずの三股男や取り巻き連中と仲良くなってしまった。これじゃあ核戦争は起こらない。だから、こんな強硬な手に頼らざるをえなかった」
「私のせいだって言うの?」
「そう。貴女があの世界に転生した事を知って、あの世界の『シナリオ』を調べて、ろくな結末にならない事を知り、全てが終わったらその魂を回収して、こちらに連れてくるつもりだったのに、全部ご破綻よ。チッ、貴女が一之谷揚羽の記憶なんて取り戻さなきゃ……」
舌打ちしつつ、マリスちゃんは外の光景を眺める。視線の先には魔王バアル・バエルの城がある。
「可哀想に、魔王様はあの日、貴女がしょうもない死に方をした日から、石の様に固まってしまったわ。魔王様だけじゃない。他の幹部も下っ端達も、敵だって、皆、時間を奪われてしまった」
「……」
悲しみを込めた瞳で言うマリスちゃん。そう言われると、罪悪感も出てくる。
「どうせ、貴女はここから帰れない。ここは異世界。貴女のお仲間も、流石に時空を超えてまでは助けにこれない。現実受け入れて、首を縦に振るべきよ。少なくとも、貴女の身の安全と、衣食住は保証するわ」
「……」
彼女の言いなりになるのは、正直癪だ。だが、少なくとも、今の状況では彼女の要請を受け入れる以外、選択肢が無い事も分かる。
「1つだけ、条件があるわ」
「どうぞ、言いなさい」
「今、私がいた世界に攻撃をかけている軍団を撤退させて欲しい。私を手に入れた以上、これ以上、攻撃の必要は無いでしょう?」
「良いわ。人形共は退かせる」
私は、彼女が応じてくれた事安堵した。これで核攻撃が行われる事は無いだろう。
「契約、成立ね」
「なーにが契約成立よ。受け入れるしか無い状況を作っておいて」
「過程は関係ない。結果が全てよ。ほら、そういう事だから、ちゃっちゃと続きを書きなさい」
彼女は、そう言うと、ノートパソコンを起動させた。そして、かつて愛用していたワープロソフトを起動させる。
「完成したら、デスクトップの『続編』と言う空のフォルダーにファイルを保存してね。それで完成したと見なすわ。ただし、その前に一度私へ見せる事。貴女の前作みたいに、変な展開にされちゃたまらないわ」
「勝手にファイルに突っ込んだら?」
「貴女をしばいて身の程を弁えさせてから、該当ファイルを削除する」
「わぁ、猟奇的」
ともあれ、他に選択肢も無い。私はパソコンの前に座った。




