37 捕獲
「っ?! どこから侵入した!」
ウィン様は即座に腰に下げた拳銃を引き抜いて構える。流石軍人だけあり、身のこなしは無駄がない。
が、ローブの少女は、何かの呪文を唱えると、彼女の指先から光るエネルギー弾の様なものが放たれ、ウィン様に当たった。
「がはっ?!」
「ウィン様?! 」
ウィン様は、そのまま床に倒れピクリともしない。最悪の事態を考え、戦慄する。
「安心して、少し眠ってもらっただけだから。すぐに目を覚ますわ。私が用があるのは、そこにいる人だけだから」
ローブの少女は、一瞬で私の隣に立つと、そのまま、腕を掴んで来た。文字通りの瞬間移動だ。全く目で追えなかった。それに腕を掴むのはかなり強い力で、離す事が出来ない。
「くっ!?」
「お嬢!?」
サイウンが、ウィン様の拳銃を拾って構えようとする。更には、ウトリクラリアちゃんも拳銃を構えようとするが、その前に、彼女が自身の長く鋭い爪を私の首元に突き付けた。
「おおっと、妙な事は考えない方が良い。仲間の首が落ちるのは見たくないだろう? 全員ゆっくり両手を上げな! 大声なんて出すんじゃないよ」
やむなく、皆はホールドアップの体勢になる。なんてことだ。あっさり人質にされてしまうとは……。
「……貴女は何者なの? 要求は?」
サラセニアちゃんが、謎の少女に問う。平静を装っているが、最愛の夫が昏倒させられ、私が捕まった事にかなりの怒りを感じているであろう雰囲気だ。
「何者ね……。そうねぇ、今、こちらの世界に来ている魔族の仲間って所かしら。要求は、この女の身柄をこちらに引き渡す事。それ以外は興味ないわ」
どうやら、私を掴んでいる少女は、こちらに侵略行為を働いている、魔族の仲間らしい。
……待てよ、なんだか既視感がある。
今攻めてきている連中は、私が途中まで書いていた小説に出てくる魔族軍団。その中で、戦闘能力の高い女の子……。
すぐに、彼女が何者かという察しがついた私は、驚愕の表情で、彼女の顔を見る。まさか、彼女は……。
「質問タイムはここで終了。目的は達したわ。さようなら」
ローブの少女はそう言うと、突如として、彼女の足元に魔法陣が広がる。更に、その魔法陣が発光し、魔法が発動し始めた。
「なっ?! 何をするつもり?!」
「貴女には、私達の元でなすべきことがある。あぁ、拒否権はありませんよ」
有無を言わせぬ口調で彼女は言った。口調から、怒りとも絶望とも言えぬ感情が読み取れて、少し恐怖を感じる。そんな中だった。
「ねえさま! これを受け取って!」
一瞬の隙を突いて、ネペンテスちゃんが、小さなものを投げてよこした。咄嗟の事だったが、何とかキャッチに成功した。
「これは……?」
果たして、彼女が投げてよこしたのは、1個の指輪だった。しかも、彼女が大切にしていた母親の形見にして、『原作』における重要アイテムの、能力を一時的にあげる効果の付いた指輪だった。
「すぐにつけて!」
「でもこれ、貴女の形見……」
「良いから!」
彼女の意図は分からなかったが、言われるがままに、指輪に指を通した。サイズは丁度ぴったりだ。
指輪をつけると同時に、魔法が完全に発動したのか、視界が光に覆われ、私の意識は遠くなった。
(……そうだ。この女の子は。でも、何でこんな事を)
薄れゆく意識の中で、ローブの女の子の顔が笑みを浮かべるのが見えた。