36 狂気の計画
少し前。ジェットエンジンの音を響かせて、出撃から帰ってきた戦闘機の中に、パーソナルカラーである青と銀の迷彩で塗られた機体がいた事に、サラセニアちゃんは安堵していた。
「なんとなく、嫌な予感がする」
そんな事を言って、ウィン様が出撃した後、診察所から飛び出して、彼の機体の機影が見えなくなるまで、被っていた帽子を振っていた彼女である。
自身の虫の知らせが外れて、一安心したのか、今度は彼女の方の疲れがピークに達し、診察所内でへたり込んでしまった。
無理もない。昼間からずっと回復魔法を使い続けているのだ。魔力と体力と精神力が限界に来ているに違いない。
幸い、戦況は一進一退くらいにはなっているそうだ。担ぎ込まれる人のペースも、少し落ち着いている。
なので、私達は少し休息をとっていた。場所は、先程、私が前世を思い出した時に休憩した空き部屋である。
私、スカイと、サラセニアちゃん、ネペンテスちゃん、サイウンの4人は、非常用の乾パンとコーヒーで、夜遅い、簡単な夕食を取っている。
「どうも、私の虫の知らせは当たるのよ。私の故郷の時も、クラリアの故郷の時もそうだった」
乾パンをかじりながら、サラセニアちゃんは言った。
「良かったわね。外れて」
「本当よ。これで二人が撃墜された、なんて聞かされたら、本当にぶっ倒れてたわ」
そう言って、軽くサラセニアちゃんは笑った。ウィン様が出撃中の時程では無いが、かなり疲労を感じている様で、素人目で見ても潔く睡眠をとった方がよい様に思える。
実際、少し前に私はそう提案したのだが、「旦那と親友が命懸けで頑張っているのに、私が呑気に寝ていられない」と、拒絶されてしまった。私同様、変に真面目なんだから。
「実際、7ヶ月戦争で2人が撃墜された事があってね。結果的に2人とも脱出に成功して歩いて基地まで帰ってきた事があったけど。その時は、お姉様、無事が確認出来るまで塞ぎ込んで、いっそ姉妹2人で殉死しようか、なんて言い出す始末だったわね」
「お、重い……」
そんな中である。ウィン様達が部屋にやってきた。
「我が妻達、只今帰還しました」
「私も無事だよぉ」
「ウィン! クラリアも! 無事で良かった!」
「わ、お姉様、忠犬みたい」
彼らを見たサラセニアちゃんは、2人に駆け寄って抱きついた。抱きつかれた2人とも、満更ではなさそうだ。
「サラは、こういう時は素直で可愛いから、嫌いになれないんだよなぁ」
「心配かけましたね。王女様も、その後体調はどうですか?」
「お陰様で元気よ」
「それは良かった……早速ですが、少々厄介な事になりまして」
***
「「「「核攻撃!?」」」」
「しっ、声が大きい。まだ、この件は秘密です。他言無用でお願いします」
ウィン様から聞かされたのは衝撃的な話だった。足止めして、膠着状態の敵の頭上に核兵器を投下するつもりらしい。
自国内で核兵器を起爆させるなど、正気ではない。ただでさえ『元』日本人として、それらの兵器を信奉するこの国には思う所がある。実際に使用、しかも自国内で、となると嫌悪感が半端ない。
「それをさせない為に、私達は今から父……陛下に直訴してきます」
「しばらく、基地からは離れるから一言、声をかけとこうかと思ってねぇ」
「そういう事なら、留守は任されたわ。良い報告を待ってるわね。記録映像じゃない、本物のキノコ雲を見るのはゴメンだわ」
私は、そう言ってウィン様に発破をかけた。結局、バッドエンドを回避しても、核の脅威からは逃れられないのか……。
「なんなら、王女様も来ますか? 他国の王女から苦言を呈されたら、陛下も少しは考えを改めてくれるかも」
「えっ、私が……?」
ウィン様はそんな提案をしてくる。
「……」
正直、自信は無い。国王陛下のあの威厳の前で反論を展開するなど。私は前世で引きこもり。今世でも、別に口はうまくない。
だが、これから逃げるのは、それはそれで後悔しそうだ。やれるだけの事はしたい。
「分かったわ。私も協力する」
「ありがとうございます。王城までヘリを出してくれるそうです。付いてきてください」
「サイウンも付いてきてくれるかしら?」
「イエス、マム。なんなりとお申し付けを」
私がそう言って部屋を立ち去ろうとした、その時である。
「行かせないよ王女様。いや、創造主様」
突然、ウィン様でも、ウトリクラリアちゃんでも、サラセニアちゃんでも、ネペンテスちゃんでも、サイウンでもない、何者かの声が部屋に響いた。当然、私の声でもない。
「?!」
私達が困惑して、声がした方を見ると、そこには、いつの間にいたのか、魔術師が着る様なローブを着た、1人の少女がいた。
7ヶ月戦争は基本陸戦メインだったので、撃墜されても四肢が無事なら割と生還出来ました。
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