35 デブリーフィング(旦那視点)
「こちらオズオーヴァコントロール。『ビッグ・ディッパー』、着陸を許可する」
「了解。こちらビッグ・ディッパー。機体各所に問題無し。着陸します」
作戦から帰還した機体が、次々と基地に着陸していく。大佐やナインテール隊はすでに着陸し、次がウィン達イーター・ラム隊だった。
「お兄ちゃん、せっかく帰ってこれたんだから、玄関先ですっ転ばないでね」
「はは。サラ達が見てる前でそれは格好つきませんね」
ウィンはそう言いつつ、車輪を引き出し、指定された滑走路に危なげなく着陸した。
「流石英雄。綺麗な着陸だ。そのまま、第11格納庫まで移動せよ」
「了解。……コントロールタワー、心なしか声に元気が無いが、どうかしましたか?」
なんとなく、管制官の声色に覇気が無いのが、ウィンは気になった。彼とも長い付き合いだ。大体、作戦成功後はもっとテンションが高いが。
「ああ、まぁ……後で話す」
「?」
気になりつつも、ウィンは機体をタキシングさせて、指示された格納庫まで移動させた。
***
「は? 核攻撃?!」
「ああ。この作戦の成功で、敵の進撃はかなり鈍化した。……例の大穴と、大渋滞を起こしている敵の頭上に核を落として、直接的な加害と放射能による汚染で、敵軍に回復不能なダメージを与えるそうだ」
愛機を整備兵に引き渡したパイロット達は、作戦終了後のデブリーフィングの為に集まった部屋で、驚愕の表情を浮かべた。
それは、司会役のシーワスプ大佐から、敵軍への核攻撃が決定された、という報告を聞かされたからだった。
「俺達が留守の間に、王城から連絡があったらしい。今回の作戦成功のチャンスを最大限に活かすべく、このタイミングで敵軍への核攻撃を行う。オズオーヴァ飛行場の航空隊は、明日、正午に飛び立つ核攻撃機の護衛を行え、だそうだ」
「正気ですか……? 自国内ですよ?!」
ウィンは唖然としながら、言った。
自国内で核を起爆させる、など前代未聞だ。そんな事をすれば、直接の自国の死傷者は勿論、汚染で土地も長年にわたって使用が困難になる。そんな事が分からない王ではない。
自身の父の顔を思い浮かべて、彼は頭を抱える。
「正気ではないだろうな。正気でこんな命令は出来ん。……命令書にはこうも書いてある。周辺国のヴェリア、シアハル、ガラーツといった国々が、この国の窮状を知り、国境沿いに展開中である。これらに対応する為にも、即刻、謎の軍団を排除する必要がある。……現在の段階なら、被害は最小限で済む。あの辺りはあまり人が住んでいないしな」
「だからって、核を撃ち込むのはまずいでしょ……それに人口の少ない地域とはいえ、無人の荒野というわけじゃありません。数千人単位で巻き添え食らう人が出ますよ」
狂気のこもった計画に、ウィンは不快感を露わにした。
他のパイロット達も、口には出さないが、同じく不満げだ。
「まさか……あの愚弟に唆された……?」
小声で、ウィンは呟いた。急に核攻撃なんて話が出てくる辺り、そうとしか思えない。あの愚弟、王女様にちょっかいをかけた時に入念にしばいておけば良かったか。
「お兄ちゃん、めったなことは言わない方が良いよ。あんまり憶測や不確定情報でものを語るのは、デマや陰謀論の元、だよ」
脇にいたウトリクラリアは、小さな声で乳母兄を諌めた。他のパイロットや部下にも動揺が走るのは良くない。
それを察したウィンは、少し落ち着いた。代わりに、上官であり、師匠でもある男に、ある提案をする。
「司令官、私の休暇届けはまだ有効ですよね? 基地を出て、王城に行きたいのですが良いですか? 核攻撃を中止……最悪、住民の退避が完了するまで延期出来ないか、陛下に直談判したいのです」
ウィンは大佐へ提案する。駄目元だが、何も行動せずに時間を浪費するよりは良いと思ったのだ。
「ん……。良いだろう。俺だって自国に核を撃ち込む片棒担ぎたくない。人が死なないならそれに越したことは無い」
「ありがとうございます。吉報をお待ち下さい。……妻達にも一言言ってから出かけます。まだ、この基地にいるでしょうし」
「準備が出来たら声をかけてくれ。道は避難民で大渋滞を起こしている。ヘリを出そう。王城の中庭になら降りられるだろう」
「責任重大、ですね。クラリア、早速ですが行きましょうか」
「はいよ。最愛の兄の為なら、火の中水の中王女様のスカートの中ってね!」
ウィンは、自身の相棒を伴い、部屋を後にした。
ベルカ式国防術の危機再び。
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