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34 アーノダム上空 高度1100m(旦那視点)

 暗い中、谷を駆け抜ける13機の航空機は確実に、目標のアーノダムに近づく。皆機体の制御に集中しているのか、誰もが無言だ。だが、流石は世界的に見ても上位の技量を持つ空軍のパイロット達だけはあり、危なげなく飛行を続けている。


 そこに、最大の障壁が現れた。


「C地点突破! 全機、この先L字型のクランクがあるぞ! 注意せよ」


 シーワスプ大佐から通信が入る。この綱渡りの一番危険な地点だ。


 戦闘機で時速数百キロの速度をだしながら、L字路に進入しなければならない。もちろん、曲がり切れなければ、崖にドカンである。


「最大の難所ですね」


「私の命、預けたよ! お兄ちゃん!」


「任された!」


 ウィン達は機体を90度ロールさせると、ゆっくりと、だが的確に旋回して、クランク部分を一気に抜けた。


 手を伸ばせば崖に手が届きそうだ。だが、ウィンの駆る機体は、危なげなく、そこをくぐり抜けた。


「……人生で死を覚悟した場面トップ1位に躍り出たね。今」


「奇遇ですねクラリア、私もです」


 幸い、僚機達も無事にくぐり抜け、崖に激突する機体は無い。


「お前達、生きてるな?」


「全機ピンピンしてますよ!」


「上等だ。アーノダムは目前だ。このまま峡谷から飛び出るぞ。合図と共に上昇しろ……3、2、1、今!」


 先頭を飛ぶシーワスプ大佐の機体が崖から顔を出した。ウィン達もそれに続く。


 崖の先の眼下には、アーノダムが、暗闇の中、水を満タンに蓄えて、悠々、鎮座していた。


 決壊すれば、中の水は下流に大水を引き起こすだろう。


 狙い通り、レーダーにはかからなかった様だ。対空射撃は、銃弾一発飛んでこない。


「よーし弟子共、まだ敵は夢の中だ! 雑魚は気にするな! 狙いは1つ!あそこのダムを吹っ飛ばせ!」


「待ってました!」


 ウィン達は早速、機首を下げると爆撃コースに入った。この為に、機動性を下げてまで大型爆弾を抱えてきたのだ。


 侵入に気がついたのか、ようやく、何基かサーチライトが灯る。だが、その時にはすでに、ウィン達が爆弾を放つ直前だった。


「投下! 」


「投下! 投下!」


 爆弾は、次々とダムの壁に突き刺さり、大爆発を起こす。たちまち、分厚いコンクリートの壁が水圧に耐えきれず、崩壊を始めた。ダム湖にたまっていた水は、そのまま水の壁になって、下流に流れ込んでいく。まさに、破壊的な濁流が眼下に流れていった。


「やった! 作戦成功!」


「さすがお兄ちゃん! ナイスフライト! 流石私達の旦那さん、愛してる!」


「惚れ直してくれた様で嬉しいですよ」


 後部座席のウトリクラリアは、手を叩いて喜んだ。僚機達からも歓喜の通信が響いている。


「各機、長居は無用だ。敵が今の目覚ましで飛び起きる前にずらかるぞ」


 実際、敵の対空部隊も一部は動き始めている。すでに、曳光弾が打ち上げ花火の様に、夜空を照らしていた。


 ウィン達はシーワスプ大佐の機体を中心に編隊を組むと、夜の山中を悠々離脱していった。


「こちら『ナイトランナー』。各機、良くやってくれた。しかも全機生存とは。流石、シーワスプ大佐の教え子達だけはある」


「これで、敵の進撃は大きく遅れるでしょう」


「うむ。だが、あくまでこれで出来るのは遅滞までだ。奴らをどうにかするには、あの山の大穴をふさがなきゃならん」


「根本的な解決にはなっていない。という事ですね」


 ウィンは、峡谷飛行と作戦成功の興奮で、頭の中で吹き出るアドレナリンに酔いそうになりつつも、冷静に言った。


 そうなのだ。あくまでこの作戦は時間稼ぎが目的だ。これで戦闘が終わる訳では無い。 


 まだ、この国の危機は去っていない。


「とはいえ、よくやってくれた。皆、見事だったぞ」


「教官殿からお褒めにいただき恐悦至極。……勲章やボーナス、期待出来ますかね」


「安心しろ! 俺が直々に上に請求してやるよ」


粉砕!玉砕!大喝采!

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