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33 アーノダム近郊の峡谷 高度900m(旦那視点)

 

 滑走路には、戦闘機が列になって、ジェットエンジンの爆音を響かせながら、順にタキシングで離陸位置に移動している。


 その中で唯一、パーソナルカラーで塗装された『ピースガーディアン』がウィンの機体だ。


 彼は列の中央辺りにいる。先頭を行くのは、この基地の司令官、シーワスプ大佐の機体である。


 双発エンジンの単尾翼の機体は、『ガーディアン』シリーズの前の世代の機体『Rf-83 ダガーコンドル』だ。大佐の愛機である。


 時間は夜。機体から灯る航空灯の明かりと、滑走路灯の明かりが、暗闇を明るく照らしていた。


「司令官、久々の出撃だけどぉ……大丈夫かなぁ?」


 後部座席のウトリクラリアは、少し心配そうに、ウィンに聞いた。


「大佐は、我々の師匠でもありますよ。それを忘れちゃいけません。まぁ、死ぬ事は無いでしょう」


「それもそうだね」


「久々に、鬼教官の腕前を見せてもらいましょ」


 ウィンは、そう言って、軽く笑った。


 シーワスプ大佐は、かつて、エースパイロットとして名を上げた人物で、その後一時期、空軍士官学校で教官をしていた事がある。その際、直々に彼から教えを受けていたのが、ウィン達の世代なのである。


 教え方は上手かったが、同時に良くも悪くも飴と鞭の使い方が上手く、ウィンが王子であろうと容赦無くしごいた。が、かえってそれが良かったのか、彼はエースパイロットにまで上り詰めたし、他の同期達も腕が良いものが多い。


 そんな大佐の機体は、まさに元教官と言わんばかりに、お手本通り、離陸を完遂した。彼に続いて、ナインテール隊の5機が次々と離陸する。次の番が、ウィン率いるラヴメニクロス空軍第1航空師団首都防空隊第21航空隊『イーター・ラム』隊である。


 彼らの機体の尾翼には、部隊のエンブレムである爆撃機に噛みつくデフォルメされた羊の骸骨が描かれている。更に、ウィンの『ピースガーディアン』には、パーソナルマークの北斗七星が隣に描かれていた。また、機体下部のハードポイントには、ダム破壊用の大型爆弾が積まれている。


「『ビッグ・ディッパー』、離陸を許可する。任意のタイミングで離陸せよ」


「了解、『ビッグ・ディッパー』離陸する」


 管制塔からの指示が来ると、ウィンは機体のアフターバーナーをふかして滑走路を疾走させた。急激な加速にシートに身体が押し付けられた。


「V1……ローテート!」


 機首上げ速度まで到達すると、ウィンは操縦桿を引いて、機体を離陸させた。


挿絵(By みてみん)


「V2。機体各部に問題無し」


「『ビッグ・ディッパー』、高度制限を解除。貴機の幸運を祈る」


「サンクス」


 滑走路はみるみる遠くなっていく。幾度となく繰り返した離陸だが、今回は任務の内容が内容なので、少し感傷的になった。


「せっかく基地まで来ていましたし、最後に妻達に会っておけば良かったですかね? 今回はかなりキツイ仕事になりそうですし」


「お兄ちゃん。作戦内容は極秘だし、かえって名残惜しくなるよ。今は作戦に集中! 集中!」


「……それもそうですね。これからやるのは、曲芸飛行よりも器用さが要求されるもの。雑念は捨てて、機体と一体化しなければ」


 ウィンの後からも次々、今回の作戦に参加する機体が上がった。それらと合流し、編隊を組むと、一行は作戦空域の峡谷まで編隊を組んで飛行した。


 ***


「こちらは空中管制機『ナイトランナー』。これより作戦を実行する。……引き返すなら今だが、機体に不調が感じられるものはいるか?」


 空中管制機からの通信だ。皆一様に「(ネガティブ)」と返す。曲がりなりにも、今まで生き残ってきた者達である。覚悟は完了していた。


 眼下には、巨大なクレバスが口を開けている。今から、ウィン達はこの中に潜るのだ。


 当然、ウィンを含めて、皆怖い。だが、だからといって逃げる訳にはいかない。


「これより、『綱渡り』を始める! 全機、縄を踏み外すなよ! 弟子共、師匠について来い!」


 そう言うと、シーワスプ大佐は、いの一番に、峡谷に飛び込んでいった。


「全機、大佐に続け! 曲芸飛行の始まりですよ、崖にキスしないように!」


 ウィン達も大佐を追い、峡谷に侵入する。計13機の飛行機が峡谷の狭間をぬっていくのは、異様な光景であった。


 峡谷の中は当たり前だが狭く、本来、中を戦闘機で飛ぶ事などありえない。操縦しやすい様に速度は抑えてあるが、それでも、気を抜くと翼が崖にこすれそうになる。また、腹に抱えた大型爆弾のせいで、機体の反応が若干鈍くなっていて、それにも少し苛つかせてくれた。


「ちっ、景色を楽しんでる余裕もない」


「A地点、通過。目標まであと3分の1の距離」


「体感、1時間以上飛んでる感覚ですね。実際には、まだ、3分と経っていないのに」


『ナイトランナー』からの通信に、ウィンはうめいた。汗が頬をつたう感覚がした。空でここまで恐怖を感じたのは久しぶりだ。


「B地点、通過! あと半分だ」

大変おまたせしました。再開です。

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