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29 反撃への手がかり

「王女様。少し落ち着きましたか? 」


「ええ。おかげさまで……ありがとう」


 基地の空いている部屋で、ウィン様が持ってきたお茶で一息つきながら、私は彼に礼を述べた。


「ふふ。妻に優しくするのは、男として当然の事ですから」


 ウインクしながら言うウィン様。凄まじく魅力的に見える。人はウィンクでここまで色気を出せるのか。と、驚愕してしまう。現に、隣で私を介抱していたサイウンは、うっとりと彼を眺めていた。この乳母姉はもう駄目だ。彼に骨抜きにされている。


 そんな正気を削る様な笑みに、理性を削られながら、私は口を開いた。


「実はね……また、前世の事を思い出したの……」


「ほほう。もしや、我々の事が書かれている本とやらについてですか?」


「何々? 私は、オカルトの類は嫌いじゃないよぉ?」


「お嬢……うずくまったのは、それが原因ですか?」


 私は、こくりと頷いた。あの耳鳴りは、脳内の前世の記憶を掘り出す時に流れるのかもしれない。


 興味深げに、私の声に耳を傾ける3人。私は少し躊躇しつつも、口を開いた。


「わた……件の小説の作者なんだけど、そのウィン様達が出てくる話は、いまいち読者受けが悪くてね。すぐに新作を書こうとしたのよ」


「よく分かる話ですね。次回作でリベンジをかけようとするのは」


「次回作っていうのが、魔王に無理やり嫁がされたヒロインが、魔王や仲間の魔族達と共に、世界征服を目指すという話なの。作者が途中で亡くなったから、完結はしなかったのだけど……」


 朧気ながら思い出した記憶。それは、私がかつて、創造しようとした世界の話だった。その話は、それなりに筆が乗り、ヒロインと魔王が相思相愛になろうとする所まで進んでいた。


 が、その物語がエンディングに達する事は出来なかった。創造主である私が、しょうもない死因で死んでしまったから。序盤についてはサイトへ投稿していただけに、悔しさと、読者とキャラクター達への申し訳無い気持ちが強い。登場人物の時は、永遠に止まったまま、動く事は無い。


「その話に出てくる魔族達、皆頭に角を生やしていて、戦の時にはフルプレートアーマーで武装するっていう風習があって……今、攻めてきている連中とモロに特徴が被っているのよ。石の様な見た目の兵器を使うというのも一緒。もしかしたら、何らかの影響でこの世界が、その世界と相互に干渉してしまっているのかも」


「つまり、お嬢は、その作者の別の作品の、敵対的な魔族なる存在が、何故かこちらに現れて、世界征服の野望を実行しようとしている……そう言いたいのですか?」


 こくりと、私は頷いた。3人は困った様に顔を見合わせた。


 その微妙な空気の中で、クラリアちゃんが口を開いた。


「にわかには、信じられないけどぉ……。同時にぃ、まったくありえないってわけじゃないかなぁ……」


「信じてくれるの?」


「虚言を言ってる様な雰囲気じゃないし、あくまでぇ、可能性としてねぇ。この世界、たまーに神が介入してるとしか思えない、変な事が起こるしぃ。それくらいの事が起きても不思議じゃないかなぁ」


 クラリアちゃんは、話を続けた。


「パラレルワールドっていうか、異世界っていうか……この世界と同時に、並行して色々な世界が同時に存在しているって仮説や研究は実際にあるしぃ。与太話の類だけど、なんでも、ある科学者は、異世界観測装置の制作に成功して、実際に並行世界の観測に成功した。なんて主張してるよぉ。何かの拍子に別の世界と繋がってしまったと考えれば、ありえるかもよぉ?」


 それから、クラリアちゃんは、その観測例をとうとうと語った。曰く「科学技術がこの世界程に発達せず。7ヶ月戦争で、この国に核兵器を供与してくれたラノダコール王国が滅亡して、その残党がワチャワチャしてる世界線の世界」は、確実に存在しているとか。


 クラリアちゃんは、その異世界の事や、異世界観測装置の仕組みまでかなり詳細に語った。口調に似合わず、設定通りかなりインテリだ。


「王女様だけが知ってる、その魔王や魔族なる存在についての情報とかあるぅ? 例えばぁ、魔王様の名前とか、魔族の特徴とかぁ」


「名前や特徴ねぇ……」


 私は、記憶を掘り起こし、それについて思い出す。


「魔王の名前は、魔王バアル・バエル。魔族の特徴だと……海水にしか触れられず、飲めず、真水に浸かると死ぬって事かしら」


「真水に触ると死ぬ……。変な特徴ですね」


 ウィン様は、少し困惑した様な表情になった。それはそうだ。元々、魔族の力が強力過ぎるので、バランス調整の為に設定したのだ。


「それから、バアル・バエルの居城の最深部には『コア・クリスタル』という宝物があって、それを破壊されると、彼は死ぬわ」


 おあつらえ向きに、魔王にも弱点を設定していた。こちらもバランス調整の為だったが、今にして思うと、これを設定していて良かった。無敵の存在にしていたら、私達は詰んでいたかもしれない。


「少々、複雑ですね。ですが、弱点があるのは良い事です」


「後は、王女様が言ってる事が、果たしてぇ本当なのかだけどぉ……」


 そんな風にしばらく話していると、部屋に入ってきた人が居た。若い男の人で、ウィン様と同じく、パイロットスーツを着ていた。


「隊長、そろそろ、機体の補給が完了しそうです」


 ウィン様を、隊長、と呼んでる所を見ると、ウィン様の部下なのだろう。


「おや、もうそんな時間ですか。『フェイクニュース』、報告ありがとうございます。すぐに鎧狩りに行きましょう」


「それが、司令より、出撃は少し待てとストップが」


「司令が? 何故?」


「軍医殿の解剖で、敵の弱点が分かったそうです。連中、真水が苦手な様です。触れただけで死ぬとか……」


 『フェイクニュース』と呼ばれた若いパイロットの言葉に、ウィン様は私の方を見て、軽く口笛を吹いた。



真水云々はドキュメンタリー番組『メー◯ー』シリーズから派生したネットミームから発想を受けました。また、別の世界線のラノダコール王国の話は、作者の代表作参照の事。マルチバースってロマンあって良いよね。


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