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28 治療室

 オズオーヴァ飛行場には、次々と飛行機が着陸し、また、飛び立っていく。


 丁度、車から降りた私達の頭上を飛び越えて、ジェットエンジンの発する雄叫びを轟かせながら、4機の戦闘機が滑走路に着陸していく。双発エンジン双尾翼可変翼の戦闘機は、先頭の機体が、銀色と青色の迷彩柄で、残りの3機は、緑と茶色の迷彩が施されていた。


「丁度、ウィン様も帰ってきたみたい!」


「分かるの?」


「そりゃ、旦那の愛馬(愛機)の区別くらいつくわよ。ミサイルも爆弾もロケット弾も撃ち尽くして、補給に帰ってきたって所かしら」


 先頭の、銀色と青の迷彩の機体のようだ。


「さ、夫と親友が汗水垂らしてるのに、私達がサボっている訳にはいかないわ! 今も沢山の人が運ばれているみたいだし、1人でも多く救うわよ! 」


 さらりと、クラリアちゃんを親友と呼称するサラセニアちゃん。先程はバチバチしていたが、それはそれとして彼女達の間には友情もあるのかもしれない。


 ***


「もう安心して! 『悪聖女』サラセニア・ラヴメニクロス。只今到着したわ!」


 仮設の野戦病院には、沢山の人が担ぎ込まれていた。軍人は勿論、戦闘の巻き添えをくらったであろう民間人もいる。サラセニアちゃんは、次々と回復魔法を使っていく。


 サラセニアちゃんが名乗ると、病室内は、安堵に包まれた。かつての虐殺について知っている者もいるのか、少し恐ろし気な顔で彼女を眺めていた人もいたが、実際に彼女から治療されると、感謝の言葉を述べていた。


 回復魔法を施された怪我人の傷は、みるみるうちに塞がる。もう虫の息だった患者さえ、すぐに息を吹き返した。


「流石ね……。聖女の話なんて、噂でしか知らなかったけど、実際に見ると凄い力」


「お嬢、我々も観戦してないで、出来る事を手伝いましょ」


 彼女1人では限界がある。魔法を施すにはそれなりの時間がかかるし、体内の魔力だって使う。ひとまず重症の患者をサラセニアちゃんが治療し、残った患者は、軍医が対応する。私達3人も、彼らを手伝って(といっても医学知識は無いので、簡単な事だけだが。)忙しく動き回った。


 そんな風に忙しくしていると、兵士達が死体袋(シュラウド)に包まれた遺体をタンカに乗せて持ってきた。


「お前達、ここは生きてる人間用の施設だ。遺体は地下の安置所に持っていけ」


 軍医が兵士に指示を出すが、兵士達は首を横に振った。


「いえ、ドクター。司令から、この遺体をドクターに見せて、これが何者なのか、意見を述べて欲しいと……」


「何? こいつが何者か、だと?」


「はい。なんでも、今攻めてきている鎧野郎の死体らしいんですが……」


「何だ、不明瞭な奴だな。中身が化物だったとでも言うのか?」


「……」


 兵士の1人は、それ以上は口をつぐんだ。何か、信じられないものを見た。そんな風な雰囲気だ。


 私達も気になって、そちらを向く。患者や、サラセニアちゃん達も、治療をしつつも様子を伺っていた。


「……」


 なんとなく躊躇しつつも、覚悟を決めた軍医が、死体袋(シュラウド)を開けた。


 中には、普通の成人男性の死体があった。腹に弾丸を食らったのか、上半身は血まみれだった。


「これは……」


 だが、軍医は困惑の声をあげた。彼の視線の先は、死体の頭。その側頭部には、ヤギの角を思わせる、大きな角がついていたのだ。


「まるで、おとぎ話に出てくる魔族みたいじゃないか」


 私達も気になって、少し近寄って、それを見た。確かに、人間には付いていない角がついていた。


「……!」


 私は、この光景にまた、デジャヴを感じた。ついで、耳鳴りがする様な錯覚に襲われ、思わず頭を抱えてうずくまった。あの、記憶を思い出した時に鳴った、サイレンの様な音が聞こえる錯覚もする。


「お嬢!?」


 サイウンが心配して駆け寄ってきた。そのまま、私を介抱してくれる。サラセニアちゃんと、ネペンテスちゃんも心配して近づいてきた。


「ありがとう。……大丈夫、少し疲れただけよ」


「疲れたにしては、ずいぶん顔色が悪い。死体を見て、精神的なショックを受けたのかも。お嬢、こんな修羅場初めてですし」


 更に、タイミング良く、治療室の入り口から、顔を出した人がいた。


 ウィン様とクラリアちゃんだった。彼らも、私達が来ているという話を聞いたのかもしれない。


 彼らが部屋に入って来ると、室内は兵士たちの歓声に包まれた。エースパイロットで、7ヶ月戦争の英雄という肩書き、更に、あの傾国の外見である。それだけ、彼の人気ぶりがうかがえる。


 そんな人の妻になる事に、改めてプレッシャーを感じた私だった。


 ウィン様は歓声に応えながら私の元に来た。


「王女様、お加減はいかがでしょうか? 無理せず、少し、休んだ方がよろしいかと」


「いえ、大丈夫。大丈夫だから……」


「危機的状況で大丈夫って言う人はぁ、大体、大丈夫じゃあないんだよねぇ……怪我人の治療に皆来てるって言うから、補給を待つ間、様子を見に来たけどぉ……王女様は、小休止しても良いと思うなぁ、私は」


 ウィン様とクラリアちゃんは、私に肩を組むと、ゆっくりと立たせてくれた。公私共に相棒の2人の息はぴったりだった。


「サラ、ネペ、少し王女様を休憩させます。よろしいですね」


「そうさせてあげて。昨日からバタバタし続けた挙げ句、今死体を見たから、色々と限界になっちゃったんだと思うわ」


「後の事は私達に任せて、ねえさまは少し休憩してきなさいな。治す側が倒れたら本末転倒よ。サイウンさんも、彼女についてあげて」


「分かりました。……お嬢、少し息抜きをしましょう」


 私は、ウィン様とクラリアちゃんに肩を引かれながら、治療室を後にした。



ウィンの愛機はアメリカ軍のF-14戦闘機みたいなイメージで書いてます。

 

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