27 飛行場へ
「失礼するわ。3人共、暇そうなら、少し、私に付き合ってくれないかしら?」
部屋の扉が開かれ、サラセニアちゃんが入って来た。着替えたのか、白い修道服の様な服を着ており、正に聖女といった格好をしている。
「お姉様、その格好は?」
「ふふ、これでもこの国の聖女様ですから! これから、人を救いに行くの、あなた達も手伝ってくれないかしら? 」
「人を救いに……?」
私の言葉に、サラセニアちゃんは微笑む。
「今度こそ、この力を正しく使うわ。この戦いで、多くの人が傷ついてる。私は聖女として、この人達を回復魔法で治療しに行く。『悪聖女』でも、聖女には違いないから」
「……」
少し、しんみりとしながら言うサラセニアちゃん。昨日の報復攻撃の話を思い出して、私も少し気が落ち込む。それに気を使ってか、サイウンは敢えて明るくふるまった。
「良いですね! 私も協力しましょう。お嬢も行きましょう。どうせ、ここで悶々としているのも身体に毒です」
「そうね。ところで、治療っていうのは、何処でするの? 王城の一角とか? 」
サラセニアちゃんは、ニヤリと微笑むと、首を横に振った。
「いえ、王城では無いわ。場所は、オズオーヴァ飛行場。我らが旦那様の職場ね! そこに野戦病院を設営したそうだから、そこで片っ端から怪我人を治療をするわ」
***
街の道路は、避難する人々で溢れかえっていた。幸い、オズオーヴァ飛行場は前線側にあるので、そちら方向に向かう車は皆無で、私達が乗るサラセニアちゃんが運転する車は、スムーズに進行した。
その間、サラセニアちゃんは、ウィン様の話をずっとしていた。彼女も彼女で、彼を心配しているのだろう。
「オズオーヴァは郊外にある飛行場だから、昔はよくウィンがあそこで1日中、飛行機の発着陸を見ててね。私達、幼馴染3人もそれについてったものよ」
「懐かしいわね。私達はあんまり飛行機は興味無かったけど、クラリアはウィン様と並んで目をキラキラさせて……」
「結局2人共、空に魅入られてしまったわね。まさか、2人揃って空軍に入って、エースにまで成り上がるとはね」
懐かしげに昔語りをする2人。私は少し、寂しさの様なものも感じる。私はこの舞台の作者なのに、彼女達の事を何も知らない。
改めて、彼女達は小説のキャラクターでは無く、生きた人間なのだと思った所で、私の様子を心配してか、サラセニアちゃんが声をかけてくれた。
「王女様。それにサイウンさんも。ウィンとクラリアは、根っこはこんな感じの、空を飛ぶ事にしか興味無い飛行機バカだから、今後変な言動をしても、あんまり幻滅しないであげてね」
「そうそう。私達幼馴染は慣れっこだけどさ。結構このあたり分かってなくて、引いちゃうファンの子とかいるから」
ファンの子……確かに、彼の容姿と実績、そして第2王子という事を勘案すれば、ファンクラブくらいはありそうだ。
「基本的に空を飛ぶ事と、女の子の下着の事しか考えて無いわ。あの人。正直、素の性格もあんまり良くは無いし。……スケベだし。それが、なまじあの外見で、あの戦果でしょ。勝手に幻影抱いてファンになって、勝手に幻滅して失望する貴族令嬢の子とか結構いるのよね……」
「そうそう。中には色々と厄介な子とかもいたわね」
「いたいた! シスリー侯爵令嬢とか、マース伯爵令嬢とか。アレは中々厄介だったわねぇ。まあ、私達の愛情パワーで身の程を分からせてあげたけど!」
色々あったのか、遠い目をしながら語る2人。何があったのか……。少し気になるが、聞くのが怖くもある。
「王女様は、あの2人と違って歓迎してるから、安心してね? 」
「何か……あったの?」
「ま、色々ね? あの2人も、私達のハーレムを否定しなければ、ウィン様の4人目、5人目のお嫁さんになれたのかもしれないのに、惜しい事したわねぇ……聞きたい? 何があったか?」
「ネペ。それ以上は、王女様が引いてしまうわ。もう少しこの環境に慣れてからにしましょ」
「そうね。おねえさまは、珍しく私達と共存共栄できそうな子だからね」
少し黒い顔をしながら微笑む2人。
……なんというか、察するに、やはりこの4人の共同体を否定、破壊しようとした場合、彼女達は全力で相手を敵認定する様だ。つくづく、あの急ブレーキの場面で記憶が戻って良かった。
この間にもウィンは無双中。
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