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24 ギスギス

「核でまとめて吹き飛ばしてしまえばよろしい」


 戦地に行く夫と妻の別れの場に水を差したのは、入口から聞こえてきた声だった。


 声の主は、大股で、私達の輪へと加わる。


「こういう時こそ、パーッと使ってしまいましょう。周辺国への恫喝にもなります。奴らは、必要とあれば、禁忌の力でも容赦なく使うんだって」


 ウィン様には及ば無いものの、中々の美声の男性である。


 また、顔の方もハンサムだ。よく整った金髪と青い瞳から放たれる魅力は、舞台俳優の様で、思わずそちらを観察してしまう。


「ヴァン。流石に言って良い事と悪い事がある」


「おやおや、兄上は甘い様で。このままでは、この国、滅びますよ。早い方が良いと思いますけどね」


 だが、言っている事はとんでもない。自国に核兵器を落とせというのだ。まともな神経ではない。


「……あのお方は?」


 私は手近にいたネペンテスちゃんへ耳打ちした。


「ヴァン・ラヴメニクロス様。噂の、この国の第3王子」


「あの方が?」


「そう。あまり目を合わさない方が良いわ。さっきも言ったけど、思想的にはガチガチに過激派というか、破滅主義者の気さえあるし、なによりウィン様とは仲が悪くてね。色目なんて使ったら、ウィン様、滅茶苦茶怒るわよ」


 そう聞いて、私は一歩引いて、ネペンテスちゃんの影に隠れた。盾にするようで悪いが、彼と関わる事自体が、特大級の破滅フラグなのだ。目線も、全力で逸らして、さも私はモブですよ~という顔をしている。


「自国で核を使え、だと? お前、正気か?」


「私は正論を述べたまでです」


「正論、ねぇ……この地区に住んでいる住民や、ここで戦う軍人達には、どう顔向けするつもりだ?」


「ふふ、敵と刺し違えられるなら、彼らも本望ですよ」


 そこまで言った所で、ウィン様が机を叩いた。雷の様に大きな音がして、思わず私は身をすくめた。


「……戦場で兵士にも触れ合わず、前線にも出ずに、後方で煽っているだけの人間は、気楽で良いなぁ。正気とは思えん。話にならん、帰れ!」


 いつもの丁寧語を維持出来なくなっている。それだけ、ヴァン様の発言にイラっときたのだろう。


「……相変わらず、兄上は私の事がお嫌いな様で……。そこまで、変な事言っているとも思えないのですが」


 そこまで、仲の悪い異母兄弟の様子を伺うだけだったバル様も、見かねて仲裁に入る。


「流石にその発言は、王族としてどうかと思うぞ。あれは、あくまで抑止力だ。それを実際に使ってはならん」


「あなたも、いまいち思い切りがありませんねぇ、バル兄上」


「ヴァン、あくまで俺達、上に立つ人間は、常に現実的な話をしなきゃいかんのだ。それを忘れるな」


「……私はこの場に不用、という訳ですか。では、出て行くとしましょう」


 ヴァン様は、そう言うと、不満げな表情のまま、踵を返す。だが、部屋から出て行く前に、私と目が合ってしまった。


 ヴァン様は、軽く微笑みを浮かべると、私へ話しかけてくる。


「貴女が、新しくこの国に嫁いできた王女様ですよね? お初にお目にかかります。ヴァン・ラヴメニクロスです」


「ど、どうも。スカイ・キングフィッシャー・ロークと申します。以後、お見知りおきを」


「なんとも美しいお方だ。……兄上のお嫁さんは、もう4人目ですね。どうです? こんな女たらしよりも、私の傍に、など」


 仲の悪い兄への嫌がらせもあるのだろうが、まさか面と向かって、誘われるなど思わなかった。思わず、面食らってしまう。


 ちなみに、ウィン様は凄い顔でヴァン様を睨んでいる。既に私の事は自分の女認定しているらしい。この人はこの人でハーレム作ってるくせに、妻達への独占欲が強い。いや、ウィン様のハーレムは、ハーレムと言うかこれ自体で、1つの生物みたいなものだが。


「お断りします。流石に、嫁いで早々不貞は、ね? 」


 どちらにせよ、この人について行くと、核戦争からの世界滅亡待ったなしなので、あっさりと袖にした。


「それは残念」


「私の妻は皆貞淑なのです。という訳なので、かーえーれ! かーえーれ!」


「分かりましたよ。お望み通り、あなたの前からは消えましょう……後で覚えておいてください」


 そう捨て台詞を吐いて、ヴァン様は部屋を出ていった。ちなみに、それに対して、ウィン様は中指を立ててやり返していた。良くも悪くも、この辺りは軍人である。


「……思わぬ邪魔者が来ましたが、私も、そろそろ自分のねぐらに戻ります。スカイ殿も、あの愚弟がちょっかいかけてきても無視して良いですから」


「ははは……話通り、弟さんと仲、悪いのね」


「そりゃ、妾の子と正室の子で、仲良い方が稀でしょう。歳も同い年ですし……」


「ま、程々にね。私の所は、そもそも異母きょうだいだらけだから、あんまり感覚が分からないけど、とりあえず、身内同士で争っても良い事無いわよ」


「参考にはしましょう。……ではクラリア。行きましょうか」


 そう言うと、ウィン様はサラセニアちゃん、ネペンテスちゃん、ウトリクラリアちゃんに、それぞれ軽くキスをすると、ウトリクラリアちゃんを伴って、部屋から出て行った。


 私にキスはしてくれなかった。


 婚姻前だし初夜前なので当たり前だが、何となく心に靄がかかった様だった。この不思議な感覚を、上手く説明する術は、今の私には無かった。


ベルカ式国防術回避成功


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