20 側室たちの争いに介入する
連れられて来たのは、ウィン様の私室である。
男の人の部屋に入るのは初めてだが、大きさは私に与えられた部屋と同じくらい。家具や調度品も、私の部屋と同じくらいか、少し低い価格帯のもので固められていて、良くも悪くもシンプルな、質素な部屋だった。
「あまりキョロキョロされても、面白いものはありませんよ」
ウィン様は、私の視線に気付いたのか、微笑みを浮かべながらソファに腰掛けた。手にはコーヒーカップを乗せたトレーを持っていた。そのうちの1つを私に、もう1つをサイウンにくれた。
部屋には簡易の台所が設けられていて、そこでは昨日と同様、サラセニアちゃんが人数分のコーヒーを入れてくれている。
ソファーは対面の形で2つ置かれていて、間にはテーブルが置かれている。私は端の方に座っていると、ウトリクラリアちゃんから、もっと中央にくるように促されたので、それに従った。
ちなみに、サイウンは私の代わりに、ソファの中央に座って、ウィン様の顔をぼんやりと眺めている。主が端に座っているのに良い度胸だが、それだけ彼女も惚けているのだ。
「あぁ。面白いものと言ってはなんだけどぉ……2番目のクローゼットには、お兄ちゃんのコレクションが入ってるよぉ。お兄ちゃんがどういう下着が好きか参考にするならどうぞぉ」
「クラリア、新人に、あまり変な事吹き込まないでください」
コホンと咳ばらいをしつつ、ウィン様は話を続ける。
「私は軍人ですから。基本的には空軍基地にいるので、ここは私が休暇中の間泊まるのと、溜まり場になっている感じですね」
「普段は、こちらにはおられないという事ですね」
「はい。何かあった場合、近郊のオズオーヴァ空軍基地にご連絡ください。私の所属はラヴメニクロス空軍第1航空師団、首都防空大隊第21航空隊『イーター・ラム隊』隊長です」
「覚えておきます」
そう言って、私は夫になる人の所属をメモする。軍人、それも、英雄と言われるエースパイロットである。新婚生活を共に過ごす事は中々出来ないかもしれないが、これは仕方ないと諦めるしかない。
そんな事を話しているうちに、台所から自分達の分のコーヒーを持った、サラセニアちゃんとネペンテスちゃんが来た。
3人掛けのソファの中央には、ウィン様が座り、その右側には、ウトリクラリアちゃんが、左側には、サラセニアちゃんが座り、それぞれ、ウィン様に抱き着いた。ちなみに、ウィン様はかなり小柄なので、丁度、2人の胸が頭に押し付けられる形になり、何とも官能的な光景になっている。
ネペンテスちゃんは、空いていた私の反対の端にちょこんと座った。本当に、ジャラジャラとつけたアクセサリーが無ければ、お人形さんみたいだ。ほんと可愛らしいなぁ、この子。
「……?」
私に、うっとりとした目で見られている事を訝し気に思っているであろうネペンテスちゃん。一方、対岸のソファでは、ウィン様の奥さん2人が、お互いに相手を牽制している。
「……クラリア。今後は、王女様が正室になるんだから、彼女と場所変わったら?」
「あは、面白い事言うねぇ。私はお兄ちゃんとは赤ちゃんの時からの仲だよぉ? それに、今は相棒。まずは自分で見本を見せるべきじゃあない? 元正室様」
光の灯っていない瞳になっている2人。
「2人は昔からこうですねぇ」
2人の胸に包まれながら、ウィン様は少し辟易した顔になっている。
「まぁ2人とも、プロレス感覚みたいなところあるし。本気で嫌い合ってないのは幸いじゃない?」
ネペンテスちゃんも、砂糖とミルクをコーヒーに入れながら呆れ顔をしていた。
「自分は正室争いに興味ないですって顔しながら、しれっと抜け駆けした女の子は違うねぇ……私も、お兄ちゃんの初めての相手になりたかったのに」
「クラリアも、まーだ根に持ってるの? 今更叫ぼうがどうしようも無いでしょ。あぁ、ウィン様の初体験、可愛かったなぁ……。私の上で必死になって。上手いとか下手とかじゃないのよ。今の女の子を抱き慣れたウィン様じゃない、余裕の無さと、試行錯誤具合が良かったわ」
「あはは。ネペぇ、泥棒猫ならぬ泥棒ウツボカズラのくせに、今日は随分と煽るじゃんね……」
そのうち、ネペンテスちゃんにまで飛び火した。彼女もやり返し、ますます空気が悪くなる。
「こういう時はぁ、正室様に調停してもらおうかぁ」
「そうね。このまま言い合ってもらちがあかないだろうし」
「だね」
3人の女の子は、一斉に私に視線を向けた。私は思わず面食らってしまう。
「えっ……わ、私はここで良いので……。正室として命じます。2人はそのままで良いです」
私は少し空気を読んでそう言った。
それを聞いた3人は顔を見合わせる。
「だってさ。どう思う? 」
「ま、アリじゃない? 咄嗟の判断としては」
「ここは正室として、クラリアを下げて、自分がウィンの隣につくのが正解だと思うけど……」
「初対面の側室の人となりも分からないのにぃ、それやるのはぁ、流石にリスクあるでしょ」
3人は先程の一触即発の状態から一転して、今の私の判断を論評した。
「……?」
「ああ、ごめんなさい。また、貴女を試させてもらったわ」
少し申し訳なさそうに、サラセニアちゃんが言った。
「試した? もしかして、喧嘩したふりをしてたの?」
いたずらっぽく舌を出すサラセニアちゃん。
「ええ。こういう側室同士の揉め事に介入するのも、正室の仕事だからね。少なくとも、このハーレムでは」
「こういうしょうもないやりとりでは、基本的に私かサラに投げてもらっても良いですが、時には、正室でなければ解決し辛い問題なんかもありますから」
「私達ぃ、全員が全員に対して依存してるけどぉ、それでも人間である以上、利害や思想が対立する時ってあるからねぇ」
ウトリクラリアちゃんはそう言って、軽く笑った。そのまま、コーヒーに砂糖とミルクを入れる。相変わらず、サラセニアちゃんの淹れるコーヒーは濃い。
「それと、あまり自分を犠牲にしない方が良いわ。あくまで総大将は、ねえさまなんだから。判断に迷った時には、自分、サラお姉さま、クラリア、私の順に意見と生存を優先して」
「意見はともかく、生存を優先って……」
さらっと重い事を言うネペンテスちゃんを、私は見つめる。
「知っての通り、この国は戦争や災害が多い。全員を救えない状況。いわゆるトロッコ問題に直面する事も多いわ。優先順位は前もって決めとかないといけないのよ。……私は本来、死ぬはずだった人間。お姉さまやクラリアを犠牲に助かりたいとは思わないからさ。もしも、切り捨てる必要があったら、容赦なく切ってもらって良いから」
「……3人とも私の大事な妻です。私も、そんな状況にしない様にはしますがね」
「今まで、4人でずっと一緒にやってきたんですもの、大体のトラブルに対するノウハウはあるから、王女様も判断に迷ったら、遠慮無く聞いてね」
「流石にぃ、サラを押しのけてぇ、新しい正室様が入ってくるなんてのは想定外だったけどぉ」
なんというか、このハーレム、完全に1つの組織として成立している。というより、本当に複数の生物が集まって形成された、群体生物の様な印象になった。
「重い話ついでに、いい機会だから、クラリアとウィンの過去についても話そうかしら」
サラセニアちゃんが、ウィン様とウトリクラリアちゃんに目配せした。それには、ウトリクラリアちゃんが応じる。
「じゃあ、自分から話そうかなぁ。私に何があったのか」
そして、ついに2人の過去を覗く機会が来た。
「よろしく」
「うむ。殊勝な態度でぇ結構結構」
私が簡単に返すと、ウトリクラリアちゃんは話し始めた。
実はこの時点で他の女の子達の好感度が割と高いスカイちゃん。相手が組織化されたハーレム相手なのも運が良かったです。
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