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14 苦いコーヒーと苦い過去

「コーヒーはお好き? 新たなる正室様」


「嫌いではないけど、私、コーヒーの味の違いは分からないわよ?」


「正直でよろしい。ま、飲んでくださいよ。このオリジナルブレンドは自信作なんだから。もちろん、毒なんて入っていないですよ?」


挿絵(By みてみん)


 王城の庭園の一角の東屋。そこで、私達、私スカイ、サイウン、サラセニアちゃん、ネペンテスちゃんの4人は向かい合って座っている。


 飲み物の1つでも欲しいな、と、サラセニアちゃんは言うと、わざわざ私物のコーヒー道具を持ってきて、淹れてくれた。


 わざわざ、手間をかけてドリップしてくれているあたり、とりあえず、敵視はされていないと見て良いだろう。


「ふふん、お姉さまの淹れるコーヒーは美味しいからね。ありがたく頂きなさい?」


 そう言って、ネペンテスちゃんは砂糖もミルクも入れずに、コーヒーに口をつけた。


「苦っ」


「?」


「に、苦くなんて無いわよ。お、美味しいわ」


 渋い顔をしながら言うネペンテスちゃんに対し、サラセニアちゃんは、少し呆れた様に言う。


「ネペ、変な見栄張らなくて良いわよ。あなた、砂糖とミルクをたっぷり入れたのじゃないと飲めないじゃないの」


「うぅ……。舐められるかと思って……」


「私の作るやつは、味濃いめだからね。2人も、苦みが苦手なら適宜調節して頂戴」


 そんな事を言いつつ、4人分のコーヒーが出来上がると、サラセニアちゃんも席についた。


「さてと。じゃ、改めて自己紹介からいきましょうか。私は、サラセニア・ラヴメニクロス。18歳。ウィンの現在の正室よ。……肝心のウィン(旦那)は、今頃、空を飛びまわってるわ。ごめんなさいね。エースパイロットは、替えが効かない分、色々と忙しいから」


「同じくウィン様の公認愛人、ネペンテス・ラヴメニクロス。サラセニアお姉さまの義理の妹でもある。17歳」


「スカイ・キングフィッシャー・ロークよ。……その、よろしく。サラセニアちゃんとは同い年ね」


「……サイウン・レインボークラウド。スカイの乳母姉で従者です……スカイに何かしようとするなら、私が止めます」


 サイウンの言葉を聞いたサラセニアちゃんは、面白そうに笑みを浮かべた。


「成程、先程からずっと付いてきているとおもったら、貴女、スカイさんの乳姉妹だったのですか。このハーレムにもウィンの乳姉妹がいますよ。今はいませんし、彼女は乳母妹ですが」


「それはそれは。仲良くさせていただきしまょう」


 サラセニアちゃんは、笑みを少し、真剣なものに変えた。


「本題に入りましょう。このハーレムですが、全員元々身内同士かつ、訳アリだった子同士が集まって出来ている所がありましてね。……正直な所、まったく外部の異物である貴女を入れるのは、我々としても中々抵抗がありまして。試すような真似をした事は謝罪いたします」


「いえ、元々、この国は一夫多妻制。そこそこ上手くいっていた関係の所に、正室である貴女を追い落とす形で、私が入って来たんだもの。警戒されて当たり前だわ」


「案外、物分かりは良いのね。私達、ハーレムなんて不潔! 変態! 欲望の塊! って感じに拒絶すると思ってた」


「うちの馬鹿親父(国王陛下)、好色な人でね。王族なら、側室や愛人囲うのは当たり前と諦めている感はあるわ。……まぁ、うちの場合、色々とやり過ぎたおかげで、色々苦労もさせられたけど」


 私は淹れてくれたコーヒーを口にしながら、ネペンテスちゃんの言葉に返答した。一夫一妻の日本人としての記憶もあるから、嫌悪感が無いと言えば嘘になるが、同時にローク人としての記憶もあるから、ぎりぎり受け入れられている。ロークも一夫多妻を許容しているのだ。


 ちなみにコーヒーの方は、言われた通りかなり濃く、砂糖やミルク無しでは飲むのに苦労しそうだ。二口目からは、素直にそれらを入れる事にしよう。


「それより、さっきの訳ありな子同士が集まって出来ているっていうのは?」


「……」


 そう聞くと、サラセニアちゃんは、その濃いコーヒーをブラックで飲みつつ、少し口を開く事に躊躇している様だった。


 だが、そのうち、覚悟を決めたのか、ゆっくりと話始める。


「私を含めて、このハーレムの子達って全員、訳あって家族を失った幼馴染同士が、傷を舐めあい、身体を重ね合い、共依存しあって家族ごっこをしているうちに今の形に落ち着いた節がありましてね。……全員、それなりに重い過去を持っています」


「重い過去……」


 案の定というか、なんというか、彼女達にも私の知らない設定(過去)が生えていた。彼女達全員、本来はただ『ざまぁ』される要員として、雑に死んでいく女の子達だったのだが……。やはり、『原作における設定の空白地帯』が埋まっている。それも、かなりの密度で。


「我々のトップに立つには知っておいた方が良いでしょう。……いえ、知らなければならない」


 サラセニアちゃんの言葉は、ぞくりとさせられる様な、絶望と悲しみを含んだもので、私は素手で心臓を掴まれた様な気さえした。


「私は、側室を守るのも正室の仕事だと思っています。……それには、我々の闇を覗く必要があります。貴女に、その勇気はありますか?」


「……私は」


 私がここで取るべき選択はどちらだろう。


 彼女達の心の闇に触れるか。


 このまま、おぞましいであろう過去に耳を塞ぎ、この場を逃げるか。


 私が取る選択は……。


「良いわ。聞かせて頂戴」


 前者だった。今後、既に3人いるウィンのお嫁さん達の過去は、知っておかねばならない気がする。


「ここで聞かずに逃げるというのなら、我々と共生する気が無いと判断して、排撃に移る所でした」


――『正解』の選択肢だった様ね。


 ほっとしながら、彼女の話を聞く態勢になった。


「まずは、そうですね。ここにいるネペンテスの事から話しますか。ネペンテスも良いわね? 」


「構わないわ。もうだいぶ昔の事だし……割り切りもついてる」


「じゃ、話しますか」


 しっとりとした声色の彼女の話す、ウィンの妻達の話は、鉛のように重い話になりそうだ。

現在の各キャラのスカイへの好感度は、サイウンを100とした場合、サラセニアちゃんが40、ネペンテスちゃんが10くらい。


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