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13 瓶子草とウツボカズラ

 目の前の、ウィン様の愛人を名乗る女。ネペンテス・ラヴメニクロスの事も、私は無論知っている。


 食虫植物のウツボカズラから名前を取っている通り、先程会った瓶子草(サラセニア)ちゃんの義妹であり、ウィン・ラヴメニクロスのハーレムの一員だ。


 顔はサラセニアちゃんと同じ様に、画像生成AIに出力させたものとそっくりで、アクセサリーをジャラジャラとつけまくった悪趣味な設定もそのままだ。


 だが、彼女にも悪役という設定以外は作っておらず、もしかしたら、ウィン様に知らない設定(過去)が生えていた様に、彼女にも、何か(原作者)が知らない過去を持っているかもしれない。


 物語上では、悪役としてスカイをいじめ、なんやかんやあって第3王子と協力したスカイによって逆に嵌められ、破滅させられる。最期は、横領の冤罪を着せられ、絞首刑だっただろうか。彼女を始末した事で、ウィン達とスカイの関係は修復不能になる。


 ……あれ、冤罪をでっち上げるあたり、主人公も中々悪い奴では……?


 うーむ、登場人物全員がなにかしら問題を抱えた話だったが、それは主人公も例外ではなかったか。そもそも、短編として書いたものが意外と受けた事に気をよくして、急遽連載にした話だったから、設定周りがかなり甘かった。彼女の設定も、もう少し掘り下げられた気もする。


 そんな、前世の作品作り上の後悔をしている私に、無視されたと感じたのだろう、少し不機嫌になった彼女は、語尾を強くして、話を続ける。


「聞・い・て・い・る・の?!」


「聞いているわよ。私はここに来たばかりだから、色々分からない事も多いわ。これからよろしくね、ネペンテスちゃん」


「ふん! 正室の余裕ってわけ? でも、私はあのお方の正室は、サラセニアお姉さま以外、認めないんだから!」


 その台詞に、サイウンが反応する。


「サラセニアお姉さま? あの車を運転していたのも、サラセニアさんと……」


「やば、お姉さまの話はまだしちゃ駄目だったんだ!」


 どうやら、その情報はまだ出してはいけなかった様だ。……いまいち頭がよろしくないのは、設定通りらしい。


「……ふん! 良いわ、教えてあげる! あなた達を迎えに行ったメイド。あの方こそ、ウィン・ラヴメニクロス様の正室にして、我等がハーレムの総大将! サラセニア・ラヴメニクロスその人なのよ! 今度新たに、ロークから押し付けられたあなた達の様子を、偵察していたってわけ!」


「ほう、彼女が……道理で一夫多妻制がどうのこうの言っていた訳ですね……」


 知ってた。


 サイウンは、それなりに驚いているが、私は今更衝撃の展開を明かされても……といった感じだ。


 というか、今の時点で、本来のシナリオからだいぶ崩壊しかけているな……。やはり、あの車での会話が重要な分岐ポイントになっていた様だ。


 本来は、このネタばらしは、ウィン様に拒絶された最低の初夜の後に、サラセニアちゃん本人の口から、私への宣戦布告と同時に行われるはずだが……。「私達の一部になる気が無いというなら、貴女は私達の敵! 排除するからそのつもりで」とか言われて。それだけ、彼女達が自分達の居場所に執着している事も分かる。


「そして、改めて。私はサラセニアお姉さまの義理の妹にして、ウィン・ラヴメニクロス様の公認愛人、ネペンテス・ラヴメニクロスよ! 私は、お姉さまを側室へ格下げした挙句、その地位を乗っ取ろうとする貴女に、警告をしに来たの! 私達の居場所(ハーレム)を壊す奴は絶対に許さないから、そのつもりでって」


 そう、啖呵を切ると、決まった、とでも言いたげにドヤ顔をするネペンテスちゃん。何となくだけど、根っからの悪人ではなさそうな気もする。


「公認愛人……側室では無いのね」


 私は、彼女の台詞で気になった事を尋ねる。何で、わざわざ側室ではなく、『公認愛人』を名乗ったのか。


「お? そこ聞いちゃう? 気になる? 教えてあげようか、私がなぜ公認愛人を名乗っているか……ぐえっ!」


 ドヤ顔を崩さずに、とうとうと語ろうとした彼女の頭に、軽いチョップが入った。彼女の後ろには、紫色の髪をツーサイドアップにした女の子が立っていた。


「ネペ、まだ様子見するから喧嘩を売りに行くなって、言ったばかりでしょう。何であっさり、私がロークの王女の品定めをしていた事をばらしたの!?」


「お、お姉さま!? だ、だって、こいつらが、色んな人に聞き込みして、ウィン様の事を嗅ぎまわっているって聞いたから、一応、顔見せと警告をしておこうかなって」


「はぁ、まだウィンもクラリアも帰ってないし、4人全員で、今後の事は決めようって言ったばかりじゃないの……。まぁ良いわ。変に小細工するより、かえって、ややこしく無くなったかも」


 そう困り顔で言っているのは、まさに話に出ていた、先程運転をしてくれたメイド、サラセニア・オヴニル改め、第2王子の正室、サラセニア・ラヴメニクロスその人だった。メイド服は脱いで、代わりにいかにも貴族令嬢といった感じの小奇麗な格好に着替えている。


「改めてようこそ、ラヴメニクロスへ。運転手のメイドは仮の姿。私こそ、この国の第2王子、ウィン・ラヴメニクロスが正室……いや、元正室と言った方が良いかしら? サラセニア・ラヴメニクロスその人よ」


 カーテシーは美しく、まさに第2王子の正室という貫禄と優雅さがあった。


「義妹の非礼をお詫びします。少し、お茶でもいかがでしょうか? 色々、聞きたい事もあるでしょうし。ローク王国第88王女、そして、我等がハーレムの新たなる総帥様であらせられる、スカイ・キングフィッシャー・ローク様」


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