12 早速ブレイクし始めたシナリオ
「という訳で、まず、噂の第2王子ウィン殿を探してみましたが……」
「王城には、いないみたいね……」
私達は、荷物の荷解きを終えると、まずは問題の第2王子、ウィン・ラヴメニクロス様を探して、王城にいる人々に手当たり次第に聞き込みをしていた。ちなみに、ラヴメニクロスの国王陛下と王妃様に謁見するのは、明日の予定だ。
長旅で疲れているだろうから、今日はゆっくり休んで欲しい、というはからいであったが、そのはからいを早速、無視しているのは申し訳ない。
第2王子は、結論から言うと、こういう日に限って用事があるそうで、今日は王城には帰ってこないという事だった。私達が聞き込みをしていた時間は無駄になった訳だ。
「人質とはいえ、他国から来た新しい正室に、挨拶も無しとは……」
「まぁまぁ。向こうからしたら、私はそれなりに上手くいっている仲良しグループに、ずかずか入り込もうとしている空気読めない人だろうし、こういう雑な対応も仕方ないわよ」
そうサイウンをなだめつつ、私はいままで聞いたウィン様の評判を、頭の中でまとめた。
曰く
「公式記録、航空機撃墜数59、地上目標撃破数95を誇る、頼りになり過ぎるラヴメニクロス1の戦闘爆撃機乗り」
「乳母妹を相棒にして、世界各地の紛争地帯で傭兵として武者修行をしていた。そこでも多くの戦果を挙げている」
「隣国との戦争の際、都市部へ無差別爆撃を行っていた爆撃機と護衛機を合計7機も撃墜して、それ以来、北斗七星のエンブレムを機体に描いていて、本人も『北斗七星』のコールサインを名乗っている。」
「敵機から追われている時に、カウンターでクルビット機動やコブラ機動で後ろにつくという戦術を得意とする事から、敵からの異名は、『後ろ戸の邪神』」
「一見、美少女と見違うような外見で、物腰も柔らかく、広告塔としても大人気」
……出てくる話は全て英雄譚で、皆、まるで、ロックンロールスターやトップアスリートを語る時の様に、瞳を輝かせながら話していた。おまけに第2王子ときている。そりゃ、ハーレム囲っても文句は言われないだろうと思う。
「……え、私そんな凄い人の元に嫁がなきゃいけないの? 今更ながら、プレッシャーになってきたんだけど」
「お嬢、お気を確かに」
思わずそう呟いてサイウンに心配された。しょうがないじゃん。私が知らない設定が沢山出てきたんだもん。
この辺の設定……というより、第2王子の設定自体、エースパイロットという以外、私は作っていない。
だが、こうして現実世界になってしまったら、それに付随する背景が出てくるのはある意味当然だろう。
原作者が知らない、人生模様や背景が出てくる事も今後は多々あるだろう。あまり、前提たる小説の知識に頼り過ぎるのも、危険かもしれない。
「とりあえず、凄い人だというのは分かりました。それに、そんな人は敵に回すより、味方につけた方が良いって事も分かりました」
「まったく同感。せいぜい、初夜で拒絶されても恨まない様にするわ」
「落ち目の国に現れた英雄、それも第2王子なんて、そりゃ人気になりますわな」
サイウンはそう笑いながら言いつつも、少し真剣な表情になった。そのまま、声を落として言う。
「……それだけに、王子同士の王位継承バトルは激しそうですね。第1、第3王子から見たら、脅威以外の何物でもないでしょう。人気者の第2王子とか」
「一応、この国の次期国王は第1王子って決まっているらしいけど」
「周りが担ぎあげる可能性がありますからね……。この国の政治的なあれこれには、常にアンテナを立てておいた方がいいでしょうね」
「厄介な旦那様に嫁いでしまったものね」
私はそう言ってため息をついた。ややこしい事が多い……多い。
そんな風に、これから先の事に陰鬱な感情を抱えていると、背後から突然声をかけられた。
「そこのローク人。そこの青髪の! 新しくウィン様に嫁ぐ事になったというのは、アナタかしら?」
私達が振り返ると、そこには金髪青目ドリルヘアのいかにもお嬢様……というか悪役令嬢といった感じの女性がいた。
歳は、私と同じ位。目を引くのはその装飾品で、規則性や装飾品同士の色味や大きさの相性を無視して、やたらとゴテゴテとバブリーな感じでつけており、悪趣味な印象を持たせた。それが無ければ、顔つき自体は可愛い系で、むしろシンプルなファッションの方が似合いそうな気さえする。
「いかにも。私はスカイ・キングフィッシャー・ローク。ローク王国が第88王女よ」
「ふーん……なんというか、野暮ったい子ねぇ……。こんなのが、あのお方の正室様ねぇ……」
そう言いながら、不躾にこちらをじろじろと観察してくる金髪ちゃん。それに、警戒しながら、サイウンが口を開いた。
「そういう貴女は何者でしょうか? このお方はこれでも、大国、ローク王国の王女ですよ? 事と次第によっては、問題にさせてもらいますが……」
「おー怖い怖い。じゃ、言っておいた方が良いかしら。……私は、アナタ達が嗅ぎまわっているウィン・ラヴメニクロス様の公認愛人。ネペンテス・ラヴメニクロスよ」
「?!」
突然出てきたウィン様の愛人を名乗る少女に、私は驚愕した。彼女こそ、作中で真っ先に『ざまぁ』される女性だったからだ。
だが、作中で、彼女とスカイが出会うのは、ウィンに初夜を共にするのを拒絶された後の事だ。こんなに早く遭遇する事になるのはおかしい。
そんな私の困惑をよそに、ネペンテスは煽るように完璧なカーテシーをして、言葉を続ける。
「ウィン様にアナタが会う前に、私がアナタに、恋のさや当てをしにやって来たって所かしら」
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