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11 シナリオブレイク計画

 王城に到着した私達は、私の為にあてがわれた部屋に案内された。


 すでに家具や調度品は揃っていて、あまり高級なものでは無いが、それらは機能性と耐久性を重視した、質実剛健な品物が多かった。


 名ばかり王族で、優雅な暮らしとは無縁だったので、かえって居心地が良い。


「従者の私は、隣の部屋を使ってくれとの事ですので、何かあったらお呼びください」


「……分かったわ。何かあったら呼ぶわね」


 そう私が言うと、サイウンは少し心配そうに、私の顔を覗き込む。


「大丈夫ですか? 少しお疲れの様ですが。長旅でしたから」


「ええ、まあ、疲れてはいるわ」


 無論、長旅の肉体的疲労はある。が、それ以上に、精神的なショック。突然前世を思い出した事と、今後、物語通りに歴史が進めば、世界が破滅する事実を認識した事での精神的な疲労が凄まじい。


 ちなみに、我がライバルたるサラセニアちゃんは、私達を王城に送り届けた後、いつの間にかどこかに行ってしまった。


「……ねぇ。サイウン」


「はい、何でしょう?」


「先に言っておくわ。私は今から変な事を言う。率直な意見を聞かせて欲しいわ」


「変な事……?」


 面食らったのか、サイウンは少し困惑気味な顔になった。


「……前世って、貴女は信じてる?」


「前世……ロークの宗教には、輪廻転生の概念がありますし、まぁ信じてはいますね」


「その前世の記憶が戻って来たのよ。私」


「ははぁ、そんな事があるんですね。……具体的にどんな記憶が?」


 サイウンはそう食いついてきた。とりあえず半信半疑っぽい雰囲気ではあるが、信じてはくれている様だ。


「私の前世は、この世界ではなく、別の世界……異世界とでもいうのかしら。ニッポンという国で、女学生をしていたわ。そんなある日、私は事故で死んでしまったんだけど。……そこで大好きだった小説の展開と、私の現状、そっくりなのよ。そして、このままでは確実に良くない方向に話が進むわ」


「……続けてください」


 自分で書いた小説の世界に来てしまった、と言うと、さすがに本気で頭の調子を心配されそうな気がしたので、少し話を改変して伝えた。それをサイウンは否定する事も、笑う事も無く真剣に聞いている。


「その小説は、なんとまあ悪趣味な小説でね。とある大国の王女が、小国の王子に嫁ぐんだけど、その王子が既に3人もお嫁さんを娶っていてね、王女は王子に初夜で拒絶されてしまうの。恥をかかされた王女は、王子とそのハーレムを破滅させるんだけど……終盤、ある事件をきっかけに、嫁いだ小国の、核ミサイルが発射される展開になって、更に、それを止められる術をもっていたのが、王子とそのハーレムだけだった事が判明して、最後は世界中に放たれた核ミサイルによって、世界が燃え尽きて終わるわ」


「お嬢の愛読書にケチをつけるのは気が引けますが、なんとまぁ後味の悪い話ですね」


「……この状況、今の話に似ていない? 小国の王子に、大国の王女である私が嫁いで、既に王子はハーレムを築いていて、って……。それに、この国、少し前に自国産の核兵器の製造に成功していたわよね……」


「……考えすぎな気もしますがね。第一、その前世の記憶っていうのもどこまで信用できるか……」


「サイウンの言う事はもっともだけど、かと言って、放置するにはあまりにも危険すぎると思うの……。変な言い方だけど、私1人が破滅するだけならそれで良いけど。最悪、全世界まで巻き添えにする事になる可能性があるなんて」


「ふむ……ふむ……」


 サイウンは少し困った様に悩んでいたが、答えが出たのか、口を開いた。


「……お嬢はどうしたいですか? それによって、私の動きも変わりますが。可愛い妹分の為です。私が出来る事なら協力しますよ」


 ニコリと微笑みを浮かべて、サイウンは言った。


「付き合ってくれるの? 現実主義者(リアリスト)の貴女の事だから、てっきり、前世なんて寝言言ってないで荷解き手伝って下さい、とか言うと思ったわ」


「はは。現実主義と、ロマンは別に対立する概念ではありませんからね。お嬢がそこまで真剣に言うなら、付き合ってみるのも一興かと思いまして」


「……ありがとう。ごめんね、急に変な事言って」


「止めてくださいよ。お嬢とは、それこそ赤ん坊の頃からの付き合いじゃないですか。水臭い事は言いっこなしです。それより、今後、お嬢はどうしたいですか?」


「出来る事なら、王子……ウィン様と、その周りの女の子達とは、友好な関係を築きたいわ。小説の展開に抗う意味でも、無益な争いをしたくないという意味でも」


 私の言葉に、サイウンは、また少し腕を組んで考えていたが、考えがまとまった様だ。彼女は、悪戯っぽくほほ笑むと、私の手を取った。


「ふむ……それでは、善は急げとも申します。いっそ、こちらから積極的に、小説の筋書きをぶっ壊してやりましょう」


「筋書きをぶっ壊す?」


 少し、乱暴な物言いが気になり、私はサイウンに聞き返した。すると彼女は可愛らしくウインクをしながら言葉を続けた。


「ええ! こちらから積極的に動いて、王子や取り巻きの女の子達の好感度を稼ぎましょう! 来るべき有事の際に共闘する為に。現実的に考えて、向こうは4人。正面から喧嘩売って、下手に敵対するより、共存共栄を目指した方がお得ですよ、絶対」


 相変わらずサイウンは、良くも悪くも現実主義者だった。


トゥルーエンドになるのに、1人もざまぁ展開にしてはいけない系異世界恋愛ものの図。たまには黒幕以外誰も不幸にならない話があっても良いじゃない。


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