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10 王都上空 高度500m(旦那視点)

 王都の空を1機のジェット戦闘機が駆け抜けていく。それは青と銀色の迷彩を施された、複座の双発ジェットエンジンの機体で、胴体の下のハードポイントには、1発の大型ミサイルが吊り下げられていた。可変翼機であり、速度に合わせて翼が前後に可動して変形する。


 そのコクピットの中には、1組の男女が乗り込んでいる。どちらも、パイロットスーツを着て、航空ヘルメットを被ってバイザーを下げている為、顔は見えない。


 前席に座る20代前半のパイロットの男の方が、操縦桿を操作し、機体を傾けた。そのまま地上を眺める。


 男の名は、ウィン・ラヴメニクロス。渦中の第2王子である。彼は、ヘルメットのバイザーの中で宝石の様に美しく、それでいて、猟犬の様な殺気がこもった青い瞳を動かした。


「私の新しい嫁様は、もうついていますかね?」


 地上を走る車を観察しつつ、彼はそう言った。駅まで迎えに行く車には、王家の紋章がついているはずだが、上空500mでは判別出来ない。


「……政略結婚とはいえ、少し妬いちゃうよぉ? お兄ちゃん。可愛い乳母妹(いもうと)の前で他の女の話なんてぇ」


 可愛らしいが、同時に粘着質な声が、後部座席から聞こえる。


「ふふ……。それは申し訳ありません。私の可愛い可愛い妹よ」


「……お兄ちゃんと私はぁ、赤ちゃんの時からの仲なんだから、浮気は駄目だよぉ」


 そう、バイザーごしでも分かる、光の灯っていない瞳でウィンを見てくるのは、彼の乳母の娘……乳母妹(ちきょうだい)にして、彼の囲っている女性の1人、ウトリクラリア・ラヴメニクロスである。ウィンが空を飛ぶ時には、彼の機体の後部座席で、兵装のトリガーたる火器管制も行っている。文字通りの相棒だ。

 

 彼女は、嫉妬した様に、地上を眺めている。


 そんな乳母妹(いもうと)に、ウィンは謝るように機体を水平に戻した。


「はは、安心して下さい。私は、貴女達3人以外を抱くつもりはありませんよ」


 しっとりした声で、ウィンは言う。それに、ウトリクラリアは少し不満そうだった。


「お兄ちゃんには、私1人だけを見て欲しいんだけどなぁ……」


「私がハーレム作る事に、貴女も合意していたではありませんか」


「身内同士で殺し合いになるのは、流石の私も勘弁したかったからだよぉ。それに、あの2人と一緒にいるの自体は苦痛じゃない……むしろ心地よさすら感じてるのは事実だしぃ」


 複雑そうに言うウトリクラリア。それに対し、ウィンは不敵に笑いつつ言葉を続けた。


「他に行き場の無い、いや、行きたくない女の子達の共同体という面もありますからね。我がハーレム」


「ハーレムというより、お兄ちゃんをトップにした宗教……いいや、群体生物っていうのが、表現としては正しいかなぁ……。1人欠けた時点で、私達は私達じゃなくなってしまうよぉ……私達はこれで良い。ここでしか生きれない人間のたまり場、良いじゃん! ロークの姫様、ここに新しく正室様として入らなきゃいけないの、可哀想~」


 皮肉っぽく、ウトリクラリアは言った。彼女は、明らかに自分の置かれている状況を楽しんでおり、同時に言葉には、今度新たに自分達の共同体(ハーレム)に来るというロークの姫君への同情と、若干の侮蔑が入っていた。


「案外、上手く適応出来るかもしれませんよ」


「……その時は、新しい細胞の1つになってもらおうかぁ」


 2人は、そんなある意味おぞましい事を言っていたが、そのうち、既に上空にいた空中管制機から通信が入った。


「こちらは空中管制機『ナイトランナー』。『ビッグ・ディッパー』へ。そろそろいちゃつくのは止めにしてくれ。試験空域に入る」


「『ビッグ・ディッパー』より『ナイトランナー』へ。了解、私語を慎む。これより、予定通り、試験兵装の発射実験に移る」


「『ビッグ・ディッパー』へ、すでに記録は始まっている。任意のタイミングで、標的への攻撃実験を開始せよ」


「了解。標的ど真ん中をぶち抜いてやります」


 北斗七星(ビッグ・ディッパー)のコールサインで呼ばれたウィンは、愛機『Rfa-X Type000NBC ピースガーディアン』の高度を上げた。既に居住区は抜けて、眼下には海原が見える。


 彼の愛機『ピースガーディアン』は、この国の主力戦闘機『Rfa Type000 ガーディアン』の改修機である。


 元々、攻防速のバランスが良い名機である『ガーディアン』を、この国では規制条約に署名していない超兵器――NBC兵器の使用に特化させた……すなわち、Nuclear()Bio(生物)Chemical(化学)兵器を搭載したミサイルや爆弾を投下する能力を付与した、おぞましい仕様の改修機だった。


 特徴的なのは、ジェットエンジンに加え、追加でロケットブースターが取り付けられており、瞬時の加速が可能となっているという事だ。迎撃に向かってきた敵機を振り切りつつ、NBC兵器の投下を行う為の追加装備だ。


「クラリア、火器管制をよろしくお願いいたします。発射のタイミングは、そちらに任せますよ」


「了解、お兄ちゃん。当ててみせるよ」


「舌を噛まないでください。ロケットブースター点火!」


 ウィンは操縦桿を操り、今度は機体を降下させて高度を速度に変換すると、その勢いを殺さないまま、ロケットブースターに点火した。


 一気に身体にGがかかり、座席に押さえつけられる。


 海上に浮かべられた標的に、『ピースガーディアン』はみるみる迫る。


「魔力注入、ターゲットロック。試作魔力誘導式多目的大型誘導弾、発射!」


 そうウトリクラリアが宣言すると同時に、トリガーが引かれ、機体に吊り下げられた1発のミサイルが放たれた。


 この新型ミサイルは、誘導に魔力を使用しており、後部座席に座る火器管制官が、それを制御し、目標までのコントロールを行う仕組みだ。メジャーな誘導方式である赤外線探知より、精密な攻撃が可能になる。


 ウトリクラリアは目を閉じて、制御に集中する。彼女の脳裏にはミサイルが見ている(・・・・)光景が、まさにリアルタイムで映し出されている。


「目標視認。進路このまま……5、4、3、2、1、弾着、今!」


 そうウトリクラリアが言うと同時に、海上に漂う標的に試作ミサイルが命中した。


「命中! 命中!」


 空中管制機『ナイトランナー』からの通信に、ウトリクラリアは素直にガッツポーズをした。


「やったぁ! お兄ちゃん、褒めて! 褒めて!」


「お見事。流石は私の妹分にして、相棒にして、妻ですね。愛していますよ、クラリア」


「えへへ……」


 満足げに胸を張っている乳母妹に、愛の言葉を囁きつつも、ウィンは粉々になった標的を見つめる。既にロケットブースターの燃料は切れていて、攻撃後、機体は今度は少しずつ、速度を高度に変換していた。


「これで、この新型ミサイルは完成ですね。ほぼ、完璧な角度と速度で標的に命中しました」


「私達の頑張りも報われるね! 」


 彼らの今の任務は、この新型ミサイルの試験をする事であった。空軍屈指のエースである彼と、彼の相棒に白羽の矢が立つのは必然である。今回の試験では、ほぼ完成形のものを渡されて試験を行った。無事に望み通りの性能に到達していた。


「……」


 だが、そうだというのに、ウィンの顔は浮かなかった。


「お兄ちゃん、どうしたの? せっかく、今まで関わって来た新兵器が完成したのに、嬉しそうじゃないねぇ」


「……いえね。この新兵器、NBC兵器用ですよね」


「そう。この国がまた侵略された時、報復に敵国に侵入して、人口密集地帯に、それらをより効果的に打ち込む為の魔力誘導弾。さらに航空攻撃用のこれを元に、長距離の戦略ミサイルも作るって。侵攻と同時に敵国の大都市は一瞬で崩壊するわけだ!」


「……個人的に、あれらの兵器は好かないもので。……無差別虐殺は美しくありません」


「あー……。そういえば、お兄ちゃん、前にもそんな事言ってたねぇ」


 うんうんと共感しつつも、ウトリクラリアは反論した。


「でも、力の無いこの国には、あの禁忌の力が必要なんだよ……。あの悪魔の抑止力が無ければ、ラヴメニクロスという文化も国も民族もとっくに奪われて、無くなっていたよ。……私の故郷の様に」


 珍しく真剣な口調で言う彼女に、ウィンはかぶりを振った。


「妙な事を言いました。忘れてください。あれらは、今の我々にとっては必要悪でしたね。今更、この国の戦略にどうこう言っても仕方ありません」


 彼はそう言うと、機首を自身の所属する基地に向けた。


「予定通り、帰還しましょう。新しい正室様を迎える準備もしなければなりません」


「新しい人は、ただの異物で終わるかなぁ? それとも、私達群体生物(ハーレム)と共生出来るかなぁ?」


一足先に、旦那様と小姑(乳母妹)登場の巻。いわゆるチラ見せ。


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