1 雑な婚姻
「よく来たなスカイ。早速だが。お前に命令を与える。ラヴメニクロス王国の第2王子、ウィン・ラヴメニクロスの元に嫁ぐのだ」
ここは、ローク王国の王城の王の間。
この国の第88王女、私、スカイ・キングフィッシャー・ローク(18歳)は、玉座に座る我が父にして、この国の国王陛下に呼び出された。
第88王女という、普通なら聞かないであろう数字からも分かるように、我らが父上は好色家で、色々な所に王家の種をばら撒いている。私の母などが、そのばら撒かれた先の典型だろう。
子作りも王家の人間の仕事の1つとはいえ、限度というものがあるだろうとツッコミたくなるが、それはそれ。
それが良い事か悪い事かはさておき、年賀の挨拶で、一言二言言葉を交わして以来、ロクに謁見すら無かった私を呼び出して、何事かと思ったら、まさかの政略結婚の話である。
「……かしこまりました。」
まさか、嫌だ! とも言えない。私はかしずいて、そのありがたい、ありがたーい命令を拝命した。
貴族、それも王家の人間ともなれば、結婚相手と1度も会わないまま、政略結婚の札として嫁入りする、などよくある事だ。特に不満を述べる事無く、私は結婚を了承する。幸か不幸か、現在懸想を抱いている相手は無い。ついにこの時が来たか、という思いが強い。
「うむ、ラヴメニクロスの第2王子は中々の武辺者であるという。仲良くするのだぞ」
「ははっ」
「よし。下がって良いぞ」
国王陛下は、それ以上興味がなさそうに、私に下がるように命じた。私は、陛下へ一礼すると、王の間から退出した。
普通、もう少し、こう感慨深いものになりそうなものだが、とんだ雑な婚姻もあったものだ。それだけ自分の父が私の事を、大して気にしていない事が分かる。きっと、その辺の小石くらいにしか思ってないに違いない。
「……ふぅ」
王の間に続く回廊で、私は息を吐いた。好色で、各地で子供を量産している(そして、そのうちほとんどの子に興味がないか、政略の道具くらいにしか思っていないであろう)駄目親父といっても、腐っても国王陛下である。そのカリスマ性と威圧感は凄まじい。それにあてられたのか、私はどっと疲れてしまった。
『スカイ』という名前の元となった青色の髪をいじりつつ、私は、軽く伸びをして、身体のこりをほぐす。仮に、兄上姉上達の様にもう少し貴重な王族ならば、それを口うるさく咎める教育係がいるだろうが、私の様に居てもいなくとも変わらない様な第88王女の傍に、そんな者はいない。気楽で結構な事だ。
「サイウンに付いてきてもらえば良かったかしら」
今は王城の待合室で待機している、1つ上の乳姉妹の事を思い出し、彼女について来てもらえば良かったと後悔する。彼女が傍にいれば、この何とも言えない感情を共有できたのに。
なにより、彼女は賢い。今の私の疑問にも答えてくれるだろう。
「……ラヴメニクロス王国ってどこよ? それに武辺者の第2王子かぁ……筋肉マシマシな脳味噌筋肉君なんだろうなぁ。アホで乱暴な人じゃないと良いけどねぇ……」
私は、かの国がどこにあるのかすら知らなかった。まだ会った事も無い第2王子殿を、勝手な印象で論評しながら、我が相棒とも言える乳姉妹が待つ部屋へと向かった。
いつも以上にエ〇コンシリーズの影響受けまくりな今作。
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